4話


昼間とは別の部屋で、一人、ベッドに入る。

単純に、壁が崩れた部屋では寝れず、変えてもらった。


天井を見ながら、俺は撤去作業の時を思い出す。

インベントリの活用で、作業は驚くほど速く進んだ。

だけど。


……そりゃあ、死体があるわな。


土砂を収納する度に出てくる死体。

それはもう、たくさん出てきた。


抱き合っている親子の死体。

必死な表情で、もがいている死体。

石が当たって即死したのか、にこやかな死体。

中には、原形を留めていない死体もあった。


そして、俺と直前まで飲んでいた冒険者の死体。

名前を知らないが、気さくでいい奴だった。

俺が一人でいる時に、向こうから話しかけてきて……


なんとも言えない感情が溢れる。

目尻から何かが零れる……温かい何かが。


ゲームや動画でグロい物に慣れたからか、吐きはしなかったが、気分は悪い。

俺は、流れる涙を袖で拭い、忘れるように眠った。








翌日


今日も作業を手伝おう!

と考えていたら、ミゼルに呼ばれた。

先導するライラについて、執務室へ。



「よく来てくれた! ダイガク殿」



執務室には、ミゼルとファミル、複数の文官っぽい人間。

それから、護衛の騎士が数名。

騎士団長のロイもいる。


うっ! 人が多すぎやしないか?

……町の権力者が勢ぞろい。

俺、何か悪いことしたっけ?


不安を感じながら、ミゼルに話しかける。



「いえ。お呼びとあらば」

「そんなに固く無くていい。そなたは町を救ってくれた英雄。普通の口調で話してくれ」

「……分かりました。それで? 私を呼んだのは、どういった話でしょう?」



いくら親しくても、TPOは守るべきだ。

肉体年齢は下がってるし、明らかに年上のミゼルにタメ口なんて無理。

俺は仕事モードになる。

基本、相手を尊重し、自分の意見を言うだけだ……反感を買わないように。



「うむ。昨日、町の復興に尽力してくれたそうだな。町の代表として感謝する」

「いえ。他にやることもありませんし、皆が頑張っているところ、一人だけ休めません」

「そうか。そう言ってくれると助かる」



? 手伝ったことに感謝を伝えたいだけ?


そう思っていたんだが。



「で、本題だ」



あぁ、続くのね。








ミゼルは「町の問題解決を手伝って欲しい」と言ってきた。

俺が撤去作業を手伝うことで、一気に復興は進む。

だが、その後の優先順位とかが、全然、決まってないらしい。


統率されていない人間が、バラバラに行動を起こした結果。

出来上がるのは混沌とした何かだ。

そこに秩序はなく、誰も彼もが好き勝手する、無法地帯となってしまう。


町の権力者は、民衆をうまくコントロールして、求めた結果を出さないといけない。

そのために、俺も一緒に考えてくれと。



「それは分かりましたが……」

「ん? どうかしたのか?」

「私では力不足かと……1年半ぐらいしかいませんし、町のことになりますと」

「そこは私たちが考える。ダイガク殿には、外からの視点で意見を言って欲しいのだ」



……なるほど。

現状、問題が山積みで、1週間も進展がないから、少しでも意見が欲しいと。

理解した! そして、俺は黙るぞ!

町の運営になんて、口出しできるわけがないっ!





なのに、なぜだ……



「では、ダイガク殿を新しい文官として、採用しよう! 権限は領主代理相当とする。皆、ダイガク殿の指示を聞いてくれ! これからよろしく頼む」


ミゼルが、俺に握手を求めてきた。

苦笑いで手を握る。


どうして、こうなった!?




………………

…………

……




会議が始まって。

俺は、執務室の片隅で、話を聞いていた。



「まずは食料でしょう。近くの町や村から、徴収するよう手配いたします」

「いや、それよりも撤去作業が先だっ! 住む場所がなければ、民が安心できん!」

「何を言っておる! それよりも、城壁などの修繕が必要だろうがっ! 今、モンスターの襲来を受けたら、私たちはどうなる!」

「……私はケガ人の治療が先だと思います。労働力を考えても最優先では?」



皆が、中央のテーブルを囲んで、色々と意見を言っていく。

テーブルの上は、お付きの者たちが必死に書いた紙で、埋め尽くされている。

今なお増加中だ。

静かに話を聞くミゼル。

ファミルもどんどん意見を言っていた。


時計を見ると、既に1時間を超えている。

日本の会社でもそうだったが、司会が機能しないと、話がどんどん違う方向に進んでいく。

その証拠に、今は罵りあいをしていた。

過去がああだこうだ、家庭がどうの。


俺は何を見せられているんだ?

……正直、どうでも良くなってきた。

お暇して、外に行こうかな……


だが、ミゼルから呼ばれてここに来たのだ。

抜け出せない、意見を言えない、小心者の俺だった。



さらに30分ほど経過した時。

取っ組み合いの喧嘩が始まりかけて、騎士が慌てて抑える。

場が静まり返ってしまった。

その瞬間だ。



「ダイガク殿。いい案はないだろうか?」



静かにだが、しっかりと聞こえる声で、ミゼルが俺に意見を促してくる。

顔を向けると、鋭く熱い眼差しで俺を見ていた。


やめてくれぇ!


そう思いながらも、名指しされたからには、答える必要がある。

ゆっくりと歩き、テーブルの傍まで移動した。




人が生活する上で、よく聞くのは衣食住の充実。

俺もそれは同意する。

ただし、ただ用意するだけではダメだ!

人は感情で動くところがある。

つまりは、心まで満たすべき!

そう俺は考えている。

だが、今は生き抜くことが先だ。



……まずは生きることを念頭に置く。衣類と住居は後回し。

食料と水か……む? 井戸が使えない。でも川で何とかなると。

食料は……どうやって調達するか……これが課題。


近くの紙を2枚取って、それぞれに書いていく。

『1:食料(調達方法は課題)、生死に関わる』

『食料の調達方法を検討する。備蓄の確認……etc』


衣類と住居だと、俺は住居を選ぶ。

人によって分かれるだろうが、主観で判断。

住居は……ここまで損壊すると、使うのもマズイか。

体育館みたいなデカイ場所を、男女でそれぞれ用意。

とりあえず、突っ込んでおくと。


さっきの紙に追記する。

『2:住居(配置や内装などは課題)、主観。心の充実。男女を別け、とりあえず押し込む』

『3:衣類(素材や人員の調達は課題)、主観。心の充実』


別に2枚を取って、それぞれに書き込む。

『住居の形・大きさ、内装を検討する。人員も必要……etc』

『素材の入手。人員の調達……etc』


そして、外敵に関する問題。

これは……俺では判断つかんな。



「ここら辺は、盗賊とかモンスターが多いのか?」

「平野ですからそこまでは。ただし、山が町の左右にありますので」



文官の回答

そうか……確かに、町の近くに切った山がある。

生き残ったモンスターが、襲ってくる可能性もあるのか。


また、書き込んでいく。

『早めに:外敵の対処』

別の紙を取って

『城壁の修復 若しくは 別の方法を検討』






そうして、次々に書き出して、問題の共有を行う。

最初に、ブレーンストーミングっぽいことをしてくれたお陰で、俺が考えなくても済んだ。

問題と、それを解決するための課題を別け、課題はそれぞれ別々の紙で管理。

俺なりの見える化だった。

勤続10年ちょっとの、冴えないおっさんの自己満足である。

多分、もっと偉い人だったら違うのだろうが、俺にはこれが精いっぱいだ。


もちろん、反対意見も出てきた。

その意見も考慮しつつ、反論ではなく、実行するために必要なことを聞き出していく。

そうして優先順位を決めていった。



「俺は、皆さんの意見をまとめただけですが、これが良いかと」



======================================

1:ケガ人の治療(生死に関わる、数人で対処する)

2:食料(生死に関わる) 実行は別紙

3:住居 実行は別紙

4:衣類 実行は別紙

5:外敵の対処 人員に空きが出しだい検討

6:ダンジョンの対処 人員に空きが出しだい検討

7:町の管理業務 人員に空きが出しだい検討

……etc

======================================



お付きの者たちに頼んで、人力コピーしてもらい、内容を共有する。


「ミゼル様。申し訳ございません。出過ぎた真似をしました」


そう言って、元の場所に戻ろうとした時だ。


「いや……これは素晴らしいな」


言いつつ、俺の前に移動してくるミゼル。

? 何するんだ?


「……よしっ! 決めたぞ!」


そうして、俺の領主代理が決まったのだった。




………………

…………

……




あの後、色々と言ってみたのだが、周りの人間も賛成ばかりで、決定を覆せなかった。


クッ! 仕事をしないという俺の夢がぁ!

面倒をみるって、言ったじゃないですかぁ!


とは口が裂けても言えない。



「分かりました。このダイガク。ミゼル様の期待に応えましょう!」



思ってもないことを宣言する俺だった。








会議は進み。

俺の進行で色々と決まった。


領民への説明も必要ということで、俺がするハメに……

ハァ。仕事が増えていく。

そんなことを考えていた時だ。


……あれっ?

町が壊滅する被害を受けたってことは、上に報告する必要があるよな?

それに責任の所在と罰則が出るんじゃ……


俺の脳裏に日本での生活が浮かんできた。

社会人の鉄則『報連相』

悪いことが起こったら、すぐに報告すること。

連日のニュース

またまた不祥事!? ○○会社の社長逮捕!


……ヤバくね?


寒くもないのに、体が震える。

俺の変化に気付いたのか、ミゼルが話しかけてきた。



「ダイガク殿? どうされた?……もしかして不安か? なぁに、気にする必要はないぞ! そなたの手腕は~」

「い、いえ。そのミゼル様?」

「ん? 何かね?」

「その……この国は、王がいらっしゃいますよね?」

「あぁ、そうだ。いらっしゃるぞ。立派なお方だ! それがどうした?」

「……町の被害を……報告する必要がありますよね?……その時の罰則って……」



俺がそこまで言うと、明るい雰囲気だった執務室の空気が、突然重くなるのだった。

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