2話

町へ戻り領民に歓迎され、夜は宴で盛り上がった。


提供された料理は、討伐したモンスターの肉や野菜を、ふんだんに使った豪華仕様。

お世辞にも、貴族が食べる様な、見栄えの良い料理ではない。

それでも、素材本来の味を活かした、とても素晴らしい物だった。


何種類もの肉や野菜を、長時間煮込んだスープ。

口に入れるだけで具材が溶け、スープにも味が滲み出ている。

肉の丸焼き。香辛料は使っていないらしいが、モンスターの血などを代用しているのか、塩味がしっかり付いており、旨い。

野菜の盛り合わせ。これも、モンスター由来だと思うが、ドレッシングが使われている。


異世界に来て初めて見た、日本で食べていたレベルの料理。

本当に驚いた。

どうやって作ったか、聞けば一言。



「Lvとスキルのお陰です!」



……俺は何か、とんでもないことを、仕出かしてしまった気がする。


ダンジョンでLvを上げて、長時間 及び 一つ一つの作業も早くなり、やれることが増えた。

その結果、スキルの熟練度もどんどん獲得。

それにより、様々なレシピが頭に浮かび始めたと。

おまけに、ダンジョンに毒の階層があるから、毒耐性を獲得する者がおり、こう考えたそうだ。



「毒……食べられんかな?」



もはや馬鹿である。

だが地球でも、そういう勇気ある者によって、新しい世界が提供されてきた。

この世界でもそうなった。歴史を辿っているだけ、のようにも感じる。


ハハ……もう、なるようになれだぁ


俺は考えるのを止めた。






翌日。

朝日が昇る、のと同時に起きた。


馬車の旅で疲弊している、と思ったが、予想より早く起きたな。


起きていた使用人に、生活魔法のクリーンを使ってもらう

ライラは、俺と一緒に王都まで行ってもらったので、今日は休みを取らせた。

だから、ライラとは別の侍女だ。

ライラへはついでに、週1で休むようにも伝えた。


そうしないと、ずっと働くからな。


領主一家の使用人には、基本、休みがない。

当人たちには、どうってことないようだが……俺の心情的な問題だ。

休みを利用して、ダンジョンに行ったり、別の仕事をする分には構わない。

当人が好きでやっている、ここが大事だと思うから。




生活魔法でスッキリした後、動きやすい服に着替える。

そして、訓練場となっている場所へ向かった。


まだ薄暗い中、騎士や兵士の掛け声が聞こえる。

おそらく、冒険者や領民も混ざっているのだろう。

ダンジョンへ潜るにあたって、訓練場を開放し、騎士や兵士の訓練に混ざれるよう、配慮したからな。

俺も訓練場に入り、ランニングを開始。


いくら、贄の代償でステータスが下がっているとは言え。

どうにかしようと、努力はするべきだ。

それに、『自動熟練度獲得システム』のこともある。


放置ゲーの魅力。

その一つに、ログインしていない間、つまりプレイヤーがアバターを操作していない時も、敵を倒し続け経験値を蓄える、という物がある。

放置ゲーという、ジャンル名の通りだ。

通常の放置ゲーであれば、Lvアップと一緒に、スキルのLvも上がる。

若しくは、経験値と共にドロップする、ゴールドや素材を使ってLvアップを行う。


だが、ESは仕様が違った。

もちろん、ゴールドや素材でも、スキルLvを上げることができる。

しかし、それで上げることができるスキルLvの上限は、5まで。

ESの最大スキルLvは10。

残りの5Lvは、どうやって上げるのか?

ここに、『自動熟練度獲得システム』が関係する。




ESでは週に一度、『達人への道』という、試練の日が設けられていた。

試練を受けた日から、ちょうど1週間経ったら、受けることができる。

このシステムは、スマホの画面をタップ 若しくは スワイプして、アバターに対象スキルの動作をさせる。

その出来栄えで、次の1週間にもらえる熟練度が変わる、という物だった。


しかも、運営は何を考えたのか、世界最大のwikiサーバを買収。

ES内から、直接参照できるようにした。

より現実的な動きを、アバター自身にさせるため。

そして、プレイヤーに高精度な操作を求めるために。

各スキルの動作や過程、その意図するところを理解してもらいたい。

その一心だったらしい。

wikiでどうやって理解しろと? そう思うかもしれないが、今は無視だ。

実際、筋肉の役割とか、中間素材をどうやって作るのかとか、理解はできたからな。


結果、ESの『自動熟練度獲得システム』の操作は、精密性を求められた。

スマホの小さな画面で、タップとスワイプを正確に入力しなければならない。

しかも、かなり入力する内容が多い。

さらには、システムが求める操作と、プレイヤーの操作、その差異が認められるのは、数ミリ秒単位となった。

つまりは、ほんの少し操作が早かったり遅かったりしただけで、1週間の間、貰える熟練度が大幅に減少するのだ。

ESプレイヤーは死に物狂いで、理解しようとした。

当たり前だ。たったそれだけで、トッププレイヤーから転落するのだから。




wikiサーバの買収に当たっては、世界中から非難が殺到した。

だが、これまた、ES運営は強気に回答する。



「これからは我々が運営する。何も心配することはない」と。



事実、wiki内の情報は精査され、UIユーザー・インターフェースは見やすく、そして使いやすくなった。

もちろん、運営するための資金は、ESからの調達。

これに、課金者たちは歓喜した。



「俺たちはゲームをしているんじゃない。世界への献金をしているんだ!」と。



……やっぱり、俺を含めて馬鹿である。


まぁ、何が言いたのか。

ESのシステムが使える俺は、転移するまでの情報が載っている、wikiが使える。

そして、『自動熟練度獲得システム』を活用するために、色々する必要があるのだ。

それだけ、『自動熟練度獲得システム』には精密な操作……いや、今となっては行動か。

それが、求められるのである。


全てがリセットされてから、毎週、試練を受けている。

剣術・刀術・盾術・斧術・弓術……etc


受けれる試練は、全てやったし、継続している。

だが、実施した結果は、全て最低ランクのF。

これは、この世界の冒険者ランクと変わらない。

S~Fの7段階評価、その最低ランク。

1日にもらえる熟練度は、たったの10である。

Sランクであれば、640は貰える。

そして、Sランクの熟練度で、『自動熟練度獲得システム』分の最大Lv5まで到達するのに、1年と少しかかる。

俺が、スキルを最大Lvにするのは絶望的。


それでも、やらないよりはマシだ!


馬車の移動中でも、休憩や町村に寄った時は、筋トレをしていた。

せめて、剣が振れる程度にはなりたいと。

自身の身を護るためにも。


今のところは、体作りと体術がメインだ。

武器を待たなくていいのは、今の俺に利点しかないからな。

だから、こうして朝と夜に、訓練場へ足を運んでいる。


……いつか、元に戻るとはいかなくても、ある程度戦えるように


青空を見上げながら、俺は思いを胸に走り続ける。

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