3話

訓練を終えた後。

疲れた体に喝を入れて、仕事に取り掛かる。


町は、色々と問題を抱えていたが、今の感じだと大半が解決しそうだ。

町を出ていく前に、共有していた問題。



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1:ケガ人の治療

2:食料

3:住居

4:衣類

5:外敵の対処

6:ダンジョンの対処

7:町の管理業務

……etc

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この内、1・2・5・6は、解決している。

ファミルに経験値を譲渡し、ケガ人は全員完治。

外敵は、領民自身に対処可能なレベル、となっている。

食料確保にダンジョンへ向かっているし、ダンジョン自体に問題はなさそうだ。


かなり力技だが、これで大丈夫だろう。

これによって、別の問題も発生するが……今は置いておくか。


4の衣類も、ダンジョンから持ち帰ったモンスターの素材で、どうにかなりそうだ。

衣類を専門にしていた業者が、何人か死んでいたため、人員の確保が大変。

そう思っていたが、生き残った職人、それと、服飾系に興味がある者で作業を進めている。

その者たちも、ダンジョンでLvアップを果たし、上昇したステータスをフル活用。

知識や技術をどんどん吸収し、既に即戦力と聞いている。


ハハ、マジでファンタジー。

……そして住居か。


解決するべき次の問題は、3の住居だろう。

今回は、リフォームや空き地に家を建てる、といったレベルの話ではない。

町を一つ作るという、かなり大規模な話だ。


よく聞くのは、区画を区切るというものか……

だが、俺はそういった知識を持っていない。

ESのwikiを検索しても、参考になりそうな情報は皆無だ。

てか、どんな言葉を検索すりゃあいいんだよ!


wikiで検索できるのは、知っている単語の羅列。

つまりは、ちゃんとした情報を検索するための、前情報が俺の頭にない。

情報を探す以前の問題だった。






仕方ないので、町自体を管理している文官と、建築関連の業者を集める。



「ダイガク様ぁ! 最初に住居が必要だろ? 人が住めなきゃ、話にならん!」

「いやいやいや、待て! まずは、商店などの位置を決めてからだな」

「そんな呑気なこと、できっか! もっと広いところに住みてぇんだよ、俺たちは!」

「だが、管理の都合という物もある!」



まぁた、話がヒートアップしているよ……


人が増えれば、色々な意見が生まれる。

だけど、誰も彼も自身の価値観があるから、衝突は避けられない。

そこを中和するのが、俺の仕事だ。


それに思う。

これ、俺の好きにしていいんじゃね? と。



「区画は、全部で5つ。居住区、商業区、工業区、娯楽区、そしてその他」

「……ダイガク様。それをどうやって分ける?」

「そうだな……商業区は中央付近に。そこへ連結する形で、各区画を繋いでいくか」



居住区は、領民が住む場所。

商業区は、商品の売買。

工業区は、鍛冶や建築業者用の区画。

娯楽区は、風俗とカジノなど。

その他は……まぁ、何かあった時の予備だな。


商業区を中央に据えるのは、他の区画から利用しやすい位置がいい、と思ったから。

食べ物に貴金属、清潔な布に、カジノの景品。

商業区以外は、こういったものを商店から仕入れると思う。

その際、間に他の区画があると、移動が面倒だ。

素人目線の、適当な区画配置。


だって、コンビニが近くに在ったら楽じゃん?


ただ、それだけの思いである。



「……うむ。流石、ダイガク様だ」

「これならば、管理もしやすい。一から町を作るのだ。美しい街にしたいぞ!」

「私は、威厳ある町にしたいわ!」



……なんか採用されてしまった。

まぁ、ステータスやスキルに任せれば、建て直しも簡単にできるだろう。

不都合が起これば、その都度修正しよう。

それに。



「町の中はこれでいい。すまないが、追加でこれも頼む」



そう言って、俺は一つの紙を渡した。











国や町を維持するためには、色んな人間が必要だ。

農業、鍛冶、服飾、医者。

それ以外にも、たくさんの人間が関わっている。

そして、一つの職業で生活している人間は、その道に精通しており、代えがきかない大切な存在だ。

たとえそれが、後ろ暗い人間でもだ!



「俺に任せてくれれば、今の3倍……いや、5倍にしてやるぜ!」



今、俺の目前には、いかにも悪です! と、自己主張している男が座っていた。

こいつは、パンタラントで裏家業を統括していた者の一人。

そういう人間の面談を始めて、3人目だった。


これは個人的な意見だが、町の運営は、善人だけで出来ることではない、と思う。

非合法に動く人間も必要だと、俺は考えている。


例えば、麻薬が出回ったとしよう。

日本であれば警察が動く。

それでも、密売人や製造元が無くなることはない。

それはなぜか?

既に、国内へ持ち込まれているからだと、俺は考えている。

他にも要因はあるだろうが、庭の草が、抜いても抜いても生い茂るように。

一度、入ってきたものを根絶することは難しく、瞬く間に広がっていく。


そこで、俺は思った。

そもそも、侵入させなければいいのだ!


事件の取り締まりは、こちらの世界では騎士や兵士が担当する。

だが、これでは不十分。

ある程度のリスクは、予めコントロールされているべきだ!


日本でも、地震・火災・台風など、来るべき災害リスクに対して、様々な対策を行っていた。

そこには、防犯などの犯罪対策も存在している。

ようは、裏の人間を味方に付けて、犯罪者たちをコントロールしてしまおう! ということである。

そこまでしてでも、俺はこの町を守りたい。






先ほどの男には、退室願った。

理由は簡単。

金の話しかしない。町のことを考えていないのだ。

ダメだったら、別の町に行けばいい。との魂胆が丸見えだった。



「ハァ……」

「ダイガク様、どうぞ」



ライラが、カップを机に置いた。

一口飲む。どうやらお茶のようだ。



「大体、あんな感じなのか?」

「そうですね。情報屋に調べさせたところ、概ね変わらないそうです」



傍にいる騎士が答えた。

面談した3人とも、金・女・酒・名誉などなど。

欲望を具現化したような、そんな性格だった。


自分が長年住んでいる場所に、少しくらい愛着があってもいいと思う。

それに、俺が求めている物を理解していない。

自分の好物が、俺の好物だと思われてもなぁ。

これは……任せられる人がいないか?




考え事をしていると、扉がノックされる。

どうやら、次の面談者が来たようだ。



「どうぞ!」

「失礼いたします」



声と共に入ってきたのは、女性だった。


赤い髪を、肩ぐらいで切り揃えている。

身に着けているのは、足首ぐらいまであるドレス。

髪と同じ赤で、体のラインが出る様な一品。

彼女自体、背が高く、スリットから覗く白い足がなまめかしい。


こちらの世界は、全体的に端正な顔つきが多い。

その中でも、上位に入りそうなほど、顔が整っている。

が、ファミルほどではない。


ゆっくりな所作も合わさって、おっとりした雰囲気に見える女性だ。



「本日は、お招きいただき、ありがとうございます」

「こちらこそ。どうぞ、おかけになって下さい」



向かいの席へ、座るように促す。



「ひとまず、自己紹介を。私はダイガク。先日の巨人討伐、その褒賞にて、代官となりました」

「私は『シャカン』と申します。ダイガク様のお話は、拝聴させていただきました。私ごときが評せませんが、とても素晴らしい演説でございました」



……自己主張が激しかった、さっきまでの奴らと違うな。

日本のセールスマンを思い出す。

これは、少し気を付けるべきか。

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