9話
「そろそろいいかな?」
いつまでも続きそうな言い争いに、終止符を打ち。
話を聞く気になった二人と、向かい合って座る。
「ハァハァ……この借りは絶対に返す!」
「フフッ。私はいつでもいいわ! ただし、利子は付けるからね?」
こういう時って、本当は仲いいんじゃないか?
みたいなこと言うよな……
「本当は仲が――」
「それだけは断じてない!」
「それだけは断じてありません!」
食い気味に否定されてしまった。
そうか……ないのか。
あれば、シャカンの狂気とも言える好感を、躱せそうだったんだが。
「それで? 僕に何を望む? モンスター素材を他所に、高く売りつけることか?」
「ですが、それでは宝の持ち腐れでは? パンタラントに富が集中することになります」
「あぁ、それは分かっている。モンスター素材を売って、買ってきて欲しいモノがある」
モンスター素材は高値で取引される。
浅い階層のモンスター素材はそこまでないが、深い階層のモンスターになるほど、素材の価値は高くなる。
それこそ、一生遊んで暮らせる値段になったりするのだ。
そして、パンタラントにあるダンジョンの、最深到達階層は86層だった。
だった……そう過去形。
今は、108層まで進んでいる。
つまり、パンタラントに溢れているモンスター素材は、そのどれもが最高級品だということ。
金塊が
「……」
「どうした? キンクさん」
「僕のことは、キンクと呼び捨てで結構。貴方の部下になったし……ここまで高級な素材を大量に捌くと、値崩れが起こるぞ?」
そうだった。
需要と供給を考えなければ。
今まで手に入りずらかった素材を大量に売れば、需要を満たし素材自体の価値が下がってしまう。
それに、いらない厄介事が舞い込みそうだ。
意図していなかったとしても、後から「やはり国家転覆を狙って!」など言われてはたまらない。
「売れる範囲の素材を、持って行ってくれ」
「それが無難だろうな。ついでに、高級素材をいくつか貴族に売ってくる……で? 買ってきて欲しい物とは?」
本当に、これを言っていいのか?
日本という平和しか知らない俺が?
ただの偽善なんじゃないか?
……いや違う。
俺が作るんだ! この地に安全な場所を!
「奴隷……奴隷をとにかく集めて欲しい」
言った途端に、キンクの目が厳しくなる。
「理由を聞いてもいいか?」
「……」
ここからが重要だ。
俺が本気で考えている、そのことを理解されないといけない。
少しの間、浅くなった呼吸を整えた。そして息を吸う。
「この地は、これからさらに発展する。今の時点で人手が足りないんだ」
「それがなんだぁ? どうせお前の欲を――」
「最後まで聞け!」
キンクの反論を黙らせる。
とりあえず、最後まで話させてくれ。
「人手が足りなければ増やすしかない……だが、急激に人口が増えてしまえば、良からぬ輩も増える」
「それは当然ですね」
「奴隷であれば契約がある。契約によって行動を縛れるし、話す内容も絞れる」
「……」
「俺は、奴隷を奴隷として扱うつもりはない。数年、パンタラントに貢献してくれれば、開放することも考えている」
「……その言葉は本気か?」
「本気だ! そして、奴隷には亜人種が多いことも知っている。キンクと同じ小人族も含めてな」
「……」
「俺は、パンタラントを多種族混同の町にしたい」
俺が見ている前で、俺の発言を聞いた二人が絶句する。
二人とも目を見開き、口が半開きだ。
この世界、人種が繁栄を極めている。
理由は簡単。
多種族に比べて、子供ができるスパンが短いのだ。
人種が1年に最大2回、子供ができるのに対し、他種族は2年に1回など、遅い種族は10年に1回とかもある。
命を大事にし、Lvやステータスが育たない世界で、この差は大きい。
まさに数の暴力で、人種は他種族を襲った。
他種族は身を守るために色々やった。
連合国家を樹立したり、秘境に隠れ潜んだり。
だが、人種に敗北したところも多い。
そういった過去もあって、他種族は奴隷が多いのだ。
奴隷の子は奴隷。この世界の常識だった。
「お前は……本当に……本当に本心で、それを言っているのか?」
「ダイガク様! いくら王国が寛容だからと言って、そこまですると国家反逆罪になりかねません!」
「……シャカン。国に歯向かうと言ったのはお前だぞ?」
「それは……私の身であれば問題ありません! ですが、ダイガク様のお命を――」
「俺は本気だ」
別に、奴隷制度を否定するつもりはない。
犯罪を犯した者には相応の罰として、飢饉に苦しむ村には生き残る希望として。
この世界には、様々な理由で奴隷制度が必要だったのだと思う。
それをどうのこうのは言わない。
俺は奴隷制度によって、優秀な人材が使いつぶされているのが我慢できん。
それなら俺の下で働き、俺を楽をさせてくれと思う。
これは俺の身勝手な行いだ。
「今の状態で、奴隷ほど信用できる人間はいない。それが他種族で、俺に敵意があろうとどうでもいい。町に貢献できるのなら」
「……」
「元々、パンタラントにも奴隷はいる。今も待遇が変わっていないのも知っている……これを機に、奴隷との向き合い方も変えるつもりだ」
「……その言葉、信じていいんだな?」
キンクの真っすぐな瞳。
彼も小人族。
ミゼルに助けられたと言っていたが、それなりの生活をしてきたのだろう。
「ああ。俺はパンタラントに、他種族の故郷となってもらいたい」
そうなれば、より町が良くなると思うから。
「……一度だけだ。一度だけお前を信用する。だから裏切るなよ?」
沈黙が続いた部屋に、キンクの小声が浸透していく。
それは俺のセリフだ。
「当たり前だ。キンク、そっちこそ裏切るなよ?」
「約束が守られる限りは裏切らんさ。内容を詰めるぞ」
それから、人数やどういった種族が欲しいか話し合った。
人数は今いる領民と、同じかそれ以上を。
種族に指定はなし。
犯罪者意外であれば、だれでも連れてこいと。
そうして商談が終わり。
キンクは翌日、町を出発した。大量のモンスター素材と共に。
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