13話

2か月ほど過ぎた頃。

キンクがパンタラントへ帰還した。

大量の帆馬車と奴隷を連れて。



「ダイガク……様。この通り、命を果たし帰還いたしました」

「プフッ! すまん。普通でいいぞ。ここには関係者しかいない」

「そうか……助かる。貴方を様呼びするのは、なんか気持ち悪い」

「素直に傷つくんだが」

「本心だ! それよりも、約束は果たした。これで少しは信用してくれるか?」

「もちろんだ! これからも頼りにしているよ」



町の外に作られたテントでキンクと話す。

テントの中にはファミルや騎士団長ロイ、シャカンにウェイゼルといった身内が集まっていた。



「それで? 内訳はどうなのよ?」

「人種が6300、獣人種が5400、妖精種が2000、ホブ種が4800、その他が1000ほどだ」

「……凄い量ね。良く集まったわ」

「ここは噂になっていた。そのお陰で、公爵に珍しい素材を高値で売れたんだ」

「金は分かったが、そんなに奴隷がいたのか?」

「少し遠出してまで集めた。人材が必要だったのだろう? 幸い、商人の知り合いが多いからな」



奴隷の人数に圧倒され、シャカンとキンクの会話に入ったが……なるほど。

大分、無理をしてまで集めてくれたんだろう。

キンクの姿が若干、草臥くたびれて見えた。



「受け入れの準備は出来ているのか?」

「当たり前だ。ちなみにだが、間諜などの可能性は?」

「……すまん。そこまで確認できていない」



『まぁ、当たり前だろうな』


約2万人を3か月で集め、移動までさせたんだ。

この上、間諜まで排除することなど不可能だろう。



「謝らなくていい。キンクは良くやってくれた。後は俺たちがやる!」

「そう言ってくれると助かる」




会話を終わらせテントを出た。

目の前には大量の人。

種族ごとに整列させたが、目を疑うような凄い光景だ。


犬や猫の耳を生やした人間、獣人種。

頭の上に、元となった動物の耳が出ており、とても興味がそそられる。

正直、今すぐ触ってみたい衝動が。

中には、動物の姿で二足歩行をしている者もいる。


妖精種

物語で言うエルフやドワーフたちだ。

エルフは見目麗しく、耳の先長く尖っている。

ドワーフはずんぐりむっくりしていて、筋肉の浮き出る体。

どちらもイメージ通り。

その他にブラウニーやピクシーなどの小さい種族もいる。


ホブ種

ダンジョンにいるモンスター、その亜種みたいな存在だ。

この世界では、ホブゴブリンなどをゴブリンの上位種、ではなく協力できる種族と分類している。

気になってwikiで調べると、『ホブ』と言う言葉は元々、善良と言う意味があったらしい。

初めて知って驚いた。

とにかく、彼らは人間に協力してくれるモンスター。

仲間にして問題ない存在である。


その他はテイムモンスターになる。

正しくは、無理やり隷属させているモンスターだ。






『これだけの数を集めてくれて……キンクには感謝だな』


奴隷たちの中心へ移動しながら、各種族の様子を観察する。

皆不安なのか、こちらをジッと見ていた。

逆にこちらを観察するような視線や、怒りを滲ませた表情の者もいる。


『……こういった視線は、やはり嫌だな』


彼らの契約主は、領主 及び 代官となる。

つまり彼ら彼女らが、俺や周りの人間に危害を加えることは、現時点ではない。

いきなり遠くの地まで運ばれ、抵抗できなければ警戒して当然だろう。


周りを見ながら考えていると、中心に到着していた。

奴隷たち全員に、これからのことを説明しなければならない。


『フゥー。できれば穏便に終わらせたい。敵になるわけでもないし、仲良くできれば嬉しいが―』―


そんな想いとは裏腹に、反抗的そうな獣人が数名、最前列へ移動してきた。

嫌な予感がしつつも演説を始める。




………………

…………

……




「俺と勝負しろ!」


契約主や町での過ごし方など、生活のことを話し。

いよいよ、奴隷契約について話そうとした時だ。

演説の前に移動してきた獣人族の青年が、声を張り上げる。


『あぁ……やっぱりか』


出そうになった溜息を堪え、青年へと向きを変える。



「勝負だと? それに何の意味がある」

「俺が勝ったら、奴隷を全員解放しろ!」

「私が勝ったらどうするんだ?」

「お前に従ってやる!」



『ハァ。対等な条件になってないな』


奴隷となった経緯は別としてだ。

基本、契約に縛られているため、奴隷が主人へ危害を加えることはできない。

その時点で対等ではないのに、勝った時の利点がなさすぎる。


見れば、青年と言える年齢。

後者は分からないが、前者を理解しているだろうに。


『……待てよ?』


周囲の奴隷たちを見回す。

大半が下を向き、こちらと眼を合わせないようにしている。

だが、一部はこちらの行く末を見守る……いや、試すように見返してきた。


『力を示すのも一つの統治か……』


ここで問題になるのは戦闘力。

ぶっちゃけ、俺の戦闘力は0。

勝負にならない可能性がある。


『違う! ここで、この青年から逃げる方がマズイ。条件付きでも勝つのが得策……うまく行けば、人心の掌握も可能か』



「受ける理由がない」

「なっ! 逃げるのか!」

「話は最後まで聞けっ! 受ける理由はないが……いいだろう。そなたとの決闘を受けよう」



条件付き。

しかも、簡単な条件ではだめだろう。


『この決闘でドラマを作る。町全体を巻き込んだドラマを』


そのためには準備が必要だ。

場所もそうだが……俺の覚悟が。

痛みを受け入れる覚悟が――

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