第63話 人類の戦い

 ユースティアの指定防衛ラインに仮称ハイロゥの軍団がやってくるまであと数時間。

 ここまで来るまでにも混乱する世を示すように様々な事が起きていた。

 一部のメシア迎合する者たちによる破壊行為や誘拐行為。

 盗賊などの悪化する治安状況。

 それらを治める為に本来役割が違う者も総動員してそれらを解決していった。

 そしてその間にも三か所の防衛ラインの形成、住民の避難といった反撃の準備も進められていた。

 ポイントAであるエリアAAA付近はユースティアの主力が集まり何重にも重ねた防衛ラインを敷いている。

 ポイントBであるペンドラゴン特区地区では元ペンドラゴン軍が中心となり砂漠を生かした布陣。

 ポイントCのガンホリック砦付近では高さのあるガンホリック砦を生かした長距離射撃を生かした布陣。

 三か所それぞれにその土地に合わせた布陣を最大限生かせるよう配置。

 そしてMT、軍艦に関わらずこの作戦に挑む者全てに緊張が走る。

 自分たちが形成するこの防衛ラインが破られたならばメシアの言うアルカディア計画により自分たちは変えられてしまう。

 絶対に阻止しなければならない。

 その意識が全軍に染みわたっていた。

 そのような中でポイントAの奇襲部隊を運ぶ長距離ミサイルにMTを積み込む作業は終盤に入っていた。

 この作戦に命を懸けているのはMTのパイロットや軍艦のクルーだけではない。

 こういった技術職のメカニックだけでなく住民の中からもボランティアで細かな仕事をしてくれている者もいる。

 そういった者たちの不安ながらも覇気のある空気を感じながらユーリはすでにファフニールに乗り込み意識を集中させていた。

 すると突如アイギスが話しかけてくる。

 《中尉、少しよろしいでしょうか。》

 「…どうした?」

 《中尉はどう思いますか?メシアの事を。》

 「…やり方はともかく人間の事を思っている。そう感じたな。」

 《…そうですか。》

 そう言った後アイギスは黙る。

 ユーリはアイギスなりに考える事もあるのであろうと黙っていたがやがてアイギスが話し出す。

 《私にはメシアが理解できません。メシアがやろうとしている事は単なる迷惑行為です、人類の妨げです。》

 「随分と断言するなアイギス。その根拠は?」

 《それは…。》

 するとアラートが鳴り響く、ファフニールからではなく基地全体から鳴り響いている。

 《中尉、仮称ハイロゥの先団が索敵範囲に入った模様です。》

 「…予定より少し早いな。映像こっちにまわせるか?」

 《少々お待ちを…こちらです。》

 その映像にはまず点の様なものがその一面を覆いつくしていた。

 それがこちらがハイロゥと呼ぶ敵MTであることに気づくのに多少の時間が掛かった。

 「…改めて見るとやる気無くすぐらい大量だな。」

 《滅ぼした国のMTからも部品を回収し増強している模様です。メシアが宣言したよりも多くなっているかも知れません。》

 「そうか…ん?」

 その時ユーリが見ている映像に異変が起きた。

 敵軍が一斉に止まったのである。

 「どういうつもりだ?」

 《中尉、どうやらメシアが四世に対し降伏勧告を行う模様です。》


 《初めましてアリアドス・ユースティア四世様。僕がメシアです。》

 ユースティアの首都エリンの王宮にある作戦室にvoice onlyの表記と共にメシアの声が流れる。

 国を治める者として少しでも前線に近い所に居たいとの希望で四世も作戦室におりその言葉を直に聞いていた。

 「うむ、確かに余がアリアドス・ユースティア四世である。それでメシア、お前は何を伝えに来た?」

 《はい、この度はユースティア王国の長である貴方に降伏の宣言をしていただきたく存じます。》

 その発言と同時に周りにいた他の将軍や政治家などからの罵声が飛ぶ。

 「静まれ!!」

 四世の怒声と同時に辺りがシンと静まり返る。

 「これは奴と余の問答である。そなたらが介入していい物ではない。」

 《正しい判断ですねユースティア四世様。この通信はあなた方、ユースティアの民だけでなく全世界の首脳陣にも伝わっています。ご振舞いにはご注意をされた方が後々のユースティアの為ですよ。》

 「フッ、後々の為か。これからユースティアを滅ぼそうしている者の発言とは思えんな。」

 《…誤解があるようですが小生はユースティアを滅ぼそうとしているのではありません。人類がより良くする為に。》

 「違うなメシアよお主がやろうとしているのは紛れもなく侵略だ。」

 《…。》

 「お主の言う通り人は愚かである。だがその愚かさこそが人間で足りえるのだ。」

 《…?おしゃっている事が分かりませんユースティア四世。》

 「意味が分からないのならば仕方がない。だがそれも理解できず人類救済を名乗るとは笑止千万な事だな。」

 《…ユースティア四世、意味も無い抵抗をするつもりですか?それで人が何人無駄死にすると思っているのですか?》

 そういうメシアに対し四世は今までにないほどの覇気をもってこれに答える。

 「ユースティアの民は余にとって子ども同然、彼らの痛みは余の痛みである!誰が好き好んで死地に送りたいものか!だが!それでも!立ち上がらなければいけない時がある!送り出さなければならぬ時がある!それは誇りが踏みにじられる時である!これは余の、ユースティアだけの戦いでは無い!世界の!人類の戦いである!ユースティアの精強なる兵たちよ!その先陣を見事切って見せよ!!」

 この作戦室から各地のポイントはとても離れている。

 だがそれでも四世の耳には届いている。

 各ポイントに集められたユースティアの勇士たちの雄たけびが。

 《…そうですか、残念です。》

 そう言うメシアの声は本当に寂しそうだと感じたのはこの場では四世だけであった。

 《では貴方の言う誇りを踏み壊し、人類の平和の為の礎としましょう。アリアドス・ユースティア四世、ごきげんよう。》

 その通信が切れると同時に再びハイロゥ達の進軍が開始され各ポイントの第一防衛線に掛かろうとしていた。


 人が人である為の戦いの火ぶたが切って落とされたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る