MTーメタル・トルーパー戦記ー 革命編

蒼色ノ狐

第43話 ポイントX

 人々が世界を襲う未曽有の大震災を乗り越えたその先に見つけたエネルギー【エーテル】。

 【オリハルコン】と名付けられた新たなる鉱物は大震災によって散り散りとなった人々の心を明るく照らした。

 だが人が豊かになればそこには必ずと言っていいほど争いが生まれる。

 エーテルを巡り激化していく争いは何時しか国家規模となり数多の大小含めた多くの国が滅んでいった。

 その中でエーテルを使った人型機動兵器【MT】メタル・トルーパーが誕生し争いはより激化していくこととなる。

 新暦146年、【ユースティア王国】と【ガスア帝国】天下の覇権を握ろうと争っていたこの二つの大国が休戦したことにより戦いは両国の周辺諸国へと移っていた。

 だがこの休戦がユースティアとガスア、両国が力を溜めるためのものである事は誰の目にも一目瞭然であった。

 その様な休戦も五年が過ぎようとしていた時、ある青年の姿がユースティア王国軍部にあった。

 その名は【ユーリ・アカバ】、かつて少年兵でありながらどの様な戦場からも生き残り【カサンドラの英雄】と呼ばれていたこともある青年である。

 ガスア帝国との休戦が決まった時に軍から、そしてMTから離れていたユーリであったが諜報部所属の少将【スコット・F・オーウェン】による説得により再びMTにて戦場を駆けることを決意した。

 与えられた次世代主力の試作機【ファフニール】そして技術部のハイゼン・アームストロング博士が造り上げた心を理解するAI【AIーGISー01】、通称【アイギス】がユーリに託される事となった。

 そして彼の下に就く四人の部下たち【ティナ・ハミルトン】、【ドロシー・T・ワグナー】、【テリー・トンプソン】、【アドルファス・コックス】を始めとし。

 艦長として【ノア・アリックス】、【ジャック・サンダース】が副長である小型戦艦【エーデルワイス】。

 彼らと共に様々な任務をこなしてきたユーリは現在そのエーデルワイスの独房にて拘束されていた。


 「ぜっー--たい!!おかしいですよ!あんなの!」

 「…分かっているからボリューム下げて、聞こえるでしょ。」

 ティナが大声で文句を言うのを窘めるドロシーだが気持ちとしては同じなので普段よりは優しめである。

 彼女らが現在、シュミレータールームの通信にて会話を行っていた。

 わざわざ近くにいるのに何故シュミレーターの通信にて会話を行っているのか。

 その原因はシュミレータールームの入り口の前にこちらを見張るように仁王立ちしている自分たちとは違う所属とはいえ同じユースティアの軍人にあった。

 コリンズと名乗る准将がユーリを拘束したあの日から艦内にはコリンズ配下の兵隊が艦内を見回っている。

 そしてユーリの拘束やコリンズのことに不平不満を言った者はすかさず独房へと入れられた。

 なので現在エーデルワイス艦内はほぼコリンズに支配されていると言っても過言では無い。

 艦長であるノアがコリンズに何度も状況の説明を求めてはいるが全て「機密事項である。」の一言で終わらされている。

 それを考えれば会話が外に漏れることが無いであろうこのシュミレーターは現在数少ない小隊の会話場所であった。

 「…それよりもハミルトン。これを見て。」

 ドロシーがロックされたデータをティナの方に送る。

 ティナがデータを解凍するとそれは地図のデータであった。

 「現在エーデルワイスはあのコリンズ准将が指定されたポイントに向かっているはずだけどそれを知らされているのは艦長を含めたブリッジ内のクルーだけ。」

 「うん。メインオペレーターのオリビアに聞いてみたけどクルー全員にかん口令が敷かれているみたいで全く教えて貰えなかったよ。」

 その時のオリビアの不安そうな申し訳なさそうな顔を思い出し思わず声が沈んでしまうティナ。

 「私も誰に聞いてもそうだった。けど景色、速度なんかのヒントから大体のポイントの割り出しが終わった。よくそのデータ見て。」

 ティナが見てみるとある地点にわずかにマークがついてある。

 「っ!!ここって!!」

 ティナは驚愕の表情で叫びそうになるのを必死に抑える。

 何故ならそこは今現在のユースティア軍人は、いや軍や政治に関係している人間でさえ近づいてはいけないだろう地帯、通称【ポイントX】。

 「そう、ポイントX。…ガスア帝国との国境ラインにエーデルワイスは向かってると思われる。」

 「そんな…どうして?」

 そんな地点に近づけば戦闘がおこるだけという事では済まされないことは火を見るより明らかである。

 「…その先は私が口にしなくてもわかるでしょ。頭が悪い訳じゃないんだから。」

 確かにティナは疑問を口にしたが頭の中では一つの答えが出ようとしていた。

 だがそれをありのまま受け止めきれるほどその答えは軽く無かった。

 「…この事二人には?」

 貰ったデータを完全に消去しながらティナは聞く。

 ここで言う二人とは勿論、同じ小隊メンバーでありここにはいないテリーとアドルファスである。

 「トンプソン曹長には既に伝えているわ、あのバカ…コックス曹長には伝えないつもりよ理由は…言わなくても分かるでしょ?」

 「ア、アハハ…。」

 MT戦における狙撃を得意としているアドルファスだがそれ以外においては馬と鹿の二文字がよく似合う言動をよくしている。

 何かの拍子にこの事実をポロっという事ぐらいは当たり前にしてしまいそうだ。

 「知らせないって事は今はまだ静観…って事でいいんだよね。」

 「ええ。動くのは確証を得ていざという時動ける仲間を増やしてから。…そろそろ私は抜けるわ、あまり長く二人でいたら怪しまれる。」

 「了解。通信データの削除はこっちでしておくね。」

 「助かる。それじゃハミルトン、気をつけて。」

 「うん、そっちも。」

 そう言って通信を切るドロシー、恐らくもう戻っては来ないであろう。

 ドロシーとの通信データを削除しティナがシュミレーターの天井を見上げる。

 シュミレーターが作り出した青空はどこまでも綺麗で、今のティナの心とはどこまでも反対であった。

 ふと、ティナはユーリの事を考える。

 不条理に独房に入れられている自分たちの隊長は今何をしているのであろうか。

 「大丈夫かな…隊長?」

 ユーリを心配するティナの声は誰にも聞こえず偽りの空へと消えていった。


 「ふぁ~。」

 ティナの心配をよそにユーリは独房内であくびをしていた。

 入れられた当初は拷問されるのかと身構えていたが拘束されてから何日も経つがコリンズはユーリに対し何のアクションもしてこない。

 とはいえ独房なのでトイレとベットぐらいしかないのでユーリの一日は筋トレと寝る事に費やされていた。

 いつどのような状況になるか分からないのですぐ動けるように運動と休憩を繰り返している。

 「さてと、外はどうなっている事やら。」

 ユーリは現在の艦内状況はほぼ把握できない。

 辛うじて分かるのは独房内に人が増えてきている事ぐらいだ。

 だがそれでもユーリが動ける準備をするのに関係無かった。

 ‘‘自分にはMTに乗る以外長所は無い。”

 仲間との交流やティナによる地獄の自己啓発よってユーリがもっている自虐性は薄くなっている。

 だがユーリの根底にあるこの考えは未だに強く心に残っていた。

 だがそんな自分を認めてくれる人たちの為に戦う。

 それが自分が出来ることだと信じて、ユーリはベットから起き上がり筋トレを再開する。


 ポイントXまであと二日。

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