第44話 夏の嵐作戦

 「指定ポイントに到着しました…ですがこれは…。」

 ユーリが独房にて拘束されて一週間ほどにてエーデルワイスはポイントX付近のコリンズに指定されたポイントに到着した。

 オリビアが指定ポイントに到着したことを知らせるがその内心は驚きに満ちていた。

 だがそれも仕方のない事と言えるだろう。

 指定されたポイントには大小含めたユースティア所属の軍艦が所狭しと待機していた。

 「これだけの数の艦が一体何故ここに…。」

 アリックスからも思わず驚きの声が漏れる。

 状況も説明されず言われるがまま艦を走らせてきた。

 途中レーダーにて多数の艦が居るのも確認はしていたがここまでとは思わなかった。

 「この数…ユースティアの半数以上はここに集まっていそうですね。」

 ジャックが確認できる映像から予測を立てるがアリックスの疑問を答えられなかった。

 それはそうだろうこの艦の中で答えを知っている者は先ほどからアリックスの隣で満足そうに頷いているコリンズぐらいだろう。

 「さて、そろそろ説明してもらいましょう。コリンズ准将どの。」

 「ん?まあいいだろう。諸君らにも準備というものが必要だろうからな。」

 ようやく作戦内容が聞けると内心安堵するブリッジの面々であったがコリンズが話す内容はそれぞれの予想を上回るのであった。

 「喜ぶがいいユースティアの勇士たち!悪しき帝国との五年の偽りの約定はここに終わりを告げる!全艦隊が集結次第我々はポイントXを越え帝国へと攻め込むのだ!」

 「「「!!!!」」」

 アリックスやジャック、オリビアだけではないブリッジ内が驚愕の一色に染められた。

 ユーリを拘束した理由こそ不明だが精々が軍事演習、過激なもので帝国に対する威圧だと全員が想像していた。

 「うむ。喜びのあまり声が出ないようであるな!」

 それを都合よく解釈しているのかコリンズは機嫌よくしている。

 そんなコリンズに驚きからいち早く立ち直ったアリックスが質問する。

 「つまりガスア帝国に対し宣戦布告を行う…ということでしょうか。」

 「いや、宣戦布告は行わず速やかに帝国に侵攻する。」

 「…今、なんとおしゃりましたか。」

 コリンズの衝撃の発言に今度こそブリッジが凍る。

 ようやくといった様子でアリックスが声を絞り出すがそんなブリッジの様子を見てコリンズは呆れたように語る。

 「やれやれ、君たちは少し常識に縛られ過ぎているな。宣戦布告などをすれば敵は我々の侵攻に対し準備してしまうだろうに。」

 「で、ですが!それはあまりに非人道的では!」

 そもそも交渉がこじれても居ないのに宣戦布告するのもおかしいが、自らの正当性を示す宣戦布告をしないという選択肢など本来はあるはずがないのだ。

 それにいきなり戦争となれば軍人とは関係ない一般市民まで巻き込んでしまう可能性もある。

 このジャックの言葉にコリンズはジャックの肩に手を置きこう言い放った。

 「副艦長、帝国に所属している者は全て蟲だと思え。奴らに人道など必要ない。」

 「っ!!」

 ジャックの顔が青を通り越して白くなる。

 他のブリッジのクルーも思わず動きが止まる。

 あまりに非道なもの言いに全員が言葉を失う。

 「ともかく!この作戦【夏の嵐作戦】はすでに決行が決まっている!心して挑んでくれたまえ!」

 話はここまでと言わんばかりに打ち切るコリンズは席に座ってふんぞり返る。

 この様子ではユーリが拘束された理由も教えてはもらえないだろうとアリックスは内心ため息をつく。

 ブリッジのクルーも各々衝撃は残ってはいるがずっと固まってはいられないので作業に入る。

 するとレーダーにて反応が入る。

 「ん?」

 素早くそれに気付いたオリビアはそれの正体を調べ始める。

 「オリビア、どうした。」

 「MTの反応があります。友軍の識別コードで機体はノームの高速機動ユニット、損傷を受けているようでこの艦に緊急着陸を要請していますが…。」

 「撃ち落とせ。」

 再びブリッジ内が固まる。

 もちろん発言元はコリンズであったが先ほどとは違いどこか焦っているようにも見える。

 「聞こえなかったのか。早く撃ち落としたまえ!」

 「で、ですが友軍の識別コードを…。」

 「関係ない!あれはこの作戦を害するものだ!」

 「コリンズ准将、とにかく落ち着いてください。」

 興奮するコリンズをジャックがとにかく落ち着かせようとするが。

 それに対する答えはジャックの額に銃を突きつける行為だった。

 「次は言わないぞ、早く撃ち落とせ!!」

 いつ撃たれてもおかしくない状況でブリッジに緊張が走る。

 「ノア艦長、早く撃ち落とすよう命令しろ!部下が一人無駄死にする事になるぞ!」

 叫ぶコリンズを見ながらアリックスは毅然と言い放つ。

 「准将、あなたがどのような目的を持っていようと友軍と分かっている者を見捨てるほど腐ってはいない!オリビア!すぐに緊急着陸の準備をさせろ!」

 「!了解!!」

 「き、貴様ら!!」

 思わずコリンズがアリックスに向けて銃を向け撃とうとするが、ジャックがコリンズを背負い投げをする。

 ブリッジクルーが投げられたコリンズを拘束する。

 「お、お前ら!!上官に逆らってタダで済むと思ってるのか!?」

 「自分より下の者を脅迫する者は上官とは言わない。ただの下衆と言うのだ。」

 アリックスはそう吐き捨てると通信で全艦内に命令する。

 「艦長命令。コリンズ准将配下の者をすべて拘束せよ、繰り返すコリンズ准将配下の者を拘束せよ。」

 その通信の十分以内にコリンズ配下の部下は全て拘束された。


 「で、俺の拘束がやっと解けたという訳ね。」

 命令を下したコリンズを拘束したためユーリがようやく独房の外へと出る事になった。

 背伸びをしたまま久しぶりにエーデルワイスの通路を通るユーリ。

 アリックスとジャックに連れられるまま緊急着陸したMTの乗り手に会いに移動していた。

 ケガをかなり負っているとの事なので医務室にて面会である。

 医務室の前には保安部隊の二人が守っていたがこちらの姿を見ると敬礼し道を開ける。

 医務室に入るとある人物がユーリを見るなり立ち上がろうとし医者に止められる。

 「色々聞きたいことはあるけど一番簡単な質問からしようか。一体何があったライアン中佐。」

 ライアンは傷を押さえながらユーリをジッと見ていた。

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