第57話 二年後

 ―ユースティアにおけるセリオンの反乱、彼が起こそうとした作戦から名を取り【嵐の反乱】から二年の時が過ぎていた。

 ガスア帝国とユースティア王国の休戦状態も継続されており一見すれば平和な時を過ごしていた。

 しかしその平和は危ういバランスで成り立っていた。

 ユースティアは反乱によって崩された内部状況を立て直すのに多大なる時間と労力を掛けていた。

 それだけでなく反乱によって不安定になった治安状況からMTを使用した盗賊、セリオンに続こうとする者などの対処に追われていた。

 一方のガスアもフリーゼンとの戦いによって予想以上に疲弊した国力を回復するのに専念していた。

 この大国二国が微妙な関係を続けている間にもその他の国々も力を溜めていた。

 ある国は自国を守るために。

 またある国は天下の覇権を握る為に。

 いずれにしてもそれぞれの国々も国力を鍛え第三、第四のユースティア・ガスアを狙っていた。

 国と国が戦い、MT同士が火花を散らし、人々が血を流す。

 そんな戦乱の世は未だ続いていた。

 その様な中で中尉となったユーリ・アカバのドラクル小隊も旗艦であるエーデルワイスと共に忙しい日々を過ごしていた。

 そしてユーリ達が次に行う任務、それがユースティアだけでなくこの世界を巻き込む一大革命の始まりになるとは誰にも予想できなかったのである。


 ユースティアにある軍人墓地、その一つに軍服を着こんだ三人が集まり花を手向けていた。

 「あれから二年か…あっという間だったね。」

 そう言うのは曹長となったティナ・ハミルトン。

 顔つきなどが大人になっては来ているが持ち前の明るさは失われず小隊を明るく照らしていた。

 「そうね…碌に墓参りにくる余裕も無かったからね…。」

 ティナに同意するのは同じく曹長となったドロシー・T・ワグナー。

 冷静で小隊のストッパーなのは変わりないが、私生活において皆と過ごす時間が増えていた。

 「まあな、だけどこうして四人でまた来れたんだからいいじゃねえか。」

 唯一三人の中で階級が変わっていないのはアドルファス・コックス。

 場数を踏むたびにMT操縦者、とくにMTにおける狙撃においてはユースティアにおいて上から数えるべきほどの腕になったが頭の方は相変わらずのようである。

 三人は嵐の反乱で死んだ小隊メンバーであるテリー・トンプソンの墓参りに来ていた。

 あの日、自分たちを守るために全力を尽くして死んでいったテリーを偲び来れる時は全員で来ていた。

 それぞれが思い思いにテリーを偲んでいるとティナがあることに気づく。

 「あれ?そう言えば隊長は?」

 そうこの三人が所属している小隊であるドラクル小隊の隊長であるユーリ・アカバの姿が見当たらなかったのである。

 「ん?そう言えば居ないな。なんだ隊長あの歳になって迷子か?」

 「ハァ…。隊長は少し寄るところがあると言って何処かにいったわよ。二人が聞いてなかっただけ。」

 それを聞いてそうだったかな?と首を傾げる二人に再びため息が出るドロシー。

 「でも隊長こんな所でどこに行ったんだろう?」

 ティナがそう疑問に思っていると、ドロシーは肩を竦めながら答える。

 「さあね、…まあ私たちより色々ある隊長の事だしね。黙って戻ってくるのを待ちましょう。」


 軍人墓地のはずれの中でもその端の方、碌に墓参りもされずに荒れ放題になっている地帯。

 家族もおらず、整理してもらう人間も居ないこの墓地にそこに三人の隊長であるユーリ・アカバはいた。

 二年が経ち、中尉となった為か気持ち顔立ちが心持ち大人になった感じもする。

 ここには少年兵時代の名前の無かったような戦友が眠っているため少年兵を抜けた後も度々来ていた。

 一人では見切れないほどなので荒れ放題にはなっているがそれでもユーリにとっては戦友が眠る地であり大切に思っていた。

 そんな雑草が生え放題の荒れている墓地に真新しい墓が二つあった。

 その一つに彫られている名前はレイ・アカバ。

 かつて共に戦い、そして自分の手でその命を終わらせた友の名前である。

 その墓に花を供え何事か言い終わるとユーリはもう一つの墓に花とワインを供える。

 しばらく黙ってその墓を見ていたユーリであったがやがてポツポツと喋り始める。

 「酒については変わらず詳しく無いからな。上官のおすすめを供えとくよ。」

 そう言うとポリポリと頭を掻きながらユーリはさらに語る。

 「正直あんたの墓をここに建てるのもどうかと思ったんだけどね。けどまあ、あんたなら許してくれるだろう?あのまま墓も無いんじゃあんまりだしな。」

 そう言うとユーリは三人に合流すべく踵を返す。

 最後に二つの墓を振り返り一言。

 「また、生きてたら来るよ。」

 そう言うと完全にその墓地からユーリは姿を消す。

 綺麗な花が揺れるその墓にはカーミラ・エッツオと刻まれていた。


 「あ!隊長やっと来た!!」

 ユーリがテリーの墓に向かうとそこには既に三人が待っていた。

 「すまん。野暮用でな。」

 それだけ言うとユーリはテリーの墓前に立ちティナが花を供える。

 そうして四人が墓前で黙とうをして数分したのちにユーリが喋り出す。

 「さて、墓参りも終わったしもう少ししたら次の任務だぞ。」

 「?次の任務って、何か決まったのか?」

 アドルファスがそう聞くとユーリは次の目的地を言う。

 …その場所が自分達どころか世界の命運を分ける分岐点になるとも知らず。

 「次の任務地は【夢の行きつく場所】だ。」

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