第58話 夢の行きつく場所にて

 【夢の行きつく場所】、誰が呼び始めたかは定かでは無いが兎に角そこはそう呼ばれる場所であった。

 その場所は言わば巨大なMTの不法投棄の場所である。

 一説によれば最初は観光も出来るほどの風光明媚な島だったという。

 それがMTの台頭と共に徐々に使われなくなったMTを捨てていくようになった。

 今ではここを拠点としたマフィアや違法住居者がたむろいておりどこの国にも所属していないが、どこの国ものでも捨ててよいといった誰が言いだしたか分からないルールが世界でまかり通っている。

 ある意味どの国よりも長く続いているこの島は今現在においても様々な国が実験に失敗したMTや利用価値の無くなったMTなどを秘密裏に捨てている。

 夢を持ち死んでいった兵士の事か、それともそれを託されたMTの事かは不明だがそれの終着点、故にここは【夢の行きつく場所】と呼ばれるのである。


 ―夢の行きつく場所の近海上空にエーデルワイスはいた。

 そのミーティングルームにてこの作戦の最終確認をしていた。

 「…と言う訳で最近、夢の行きつく場所にて人が急劇に減ったり何やら不審なMTが目撃されたと言う証言が来ている。それを確認するのが今回の目的だ。何か質問はあるか?」

 ユーリの問いかけにドロシーがゆっくりと手を挙げる。

 「…MTの目撃証言はともかく、人の減少はそこから離れたりマフィア同士の殺し合いという可能性は。」

 「無いと思われるから俺らに声が掛かったんだろうな。」

 ユーリはオリビアに目線を送ると夢の行きつく場所の全体図が出てきた。

 「夢の行きつく場所は大小様々な国に囲まれているがユースティアの観測部隊も盗聴した他の国もここ最近島外に出入りした船は無いそうだ。そして殺し合いの可能性は無くは無いがそれにしても観測出来ている人数が少なすぎる。」

 自分でも可能性は低いと思っていたのかドロシーは納得した様であった。

 「その目撃されたMTというのは私たちみたいに調査に来た何処かの国のMTという可能性は!?」

 ティナが大きな声で質問するがそれもユーリは首を横に振り否定する。

 「目撃情報は人の減少の前よりあったし何より軍部の方で姿形で照合したがどこの国にも該当が無かったらしい。」

 「結局今の所何も分かってないんじゃねえか。」

 「だから調査に行くんだろう。」

 アドルファスが愚痴を零すがユーリは軽く返す。

 「現状諜報部が予想している道筋としては何処かの国が夢の行きつく場所でMTを開発、それを発見した人間を次々に殺害。という説が濃厚と考えているらしい。」

 「…確かにあそこなら材料には困らないでしょうね。」

 「150年近い積み重ねがあそこにあるからね!アンティークも最新のも集めようとしたらあそこが最適かも知れないね!!」

 「で、おまえはどう思うんだよ。新入り。」

 とアドルファスが席に座っている四人目に目線を向けるとその四人目は肩をビクッと震わせる。

 「え、え~、自分は、その…。」

 「何もないならないでいいぞ、リー軍曹。」

 「す、すいません。」

 そう言って肩身を狭くしているのはマイケル・リー軍曹。

 ドラクル小隊に配属されてからまだ二週間ほどであり本格的な作戦行動は今回が初めてとなっている。

 どちらかと言えば気弱な性格でアドルファスはそこら辺が気に入らないらしい。

 「ともかく、作戦開始は今から一時間後。上陸した後は何が起こるか分からん。気を引き締めて事に当たること…以上、解散。」

 それを合図にメンバーが次々にミーティングルームから出ていく。

 最後にオリビアが一例してミーティングルームを去って行くとそこにはユーリ一人になり耳元のマイクの様な機械のスイッチを入れる。

 《どうしました、中尉。》

 すると機械から格納庫のファフニールに搭載されているはずのアイギスの声が聞こえる。

 日常生活でもAIの情緒発達に役に立つかも知れないとすぐにアイギスと通信が取れる通信機器である。

 「アイギス、今回の作戦についてどう思う。」

 《…質問の意義を図りかねますが。》

 「何か見落としが無いか、という事だな…とりあえずはな。」

 《少々お待ちください。》

 そう言ったのちしばらくアイギスは黙る。

 おそらくデータを確認しているのだろう。

 《検索完了、中尉が説明した事に一切の見落としはありません。》

 「…そうか。」

 《納得いきませんか。》

 「イヤ、納得はしてる。作戦に至る経緯も内容もな。」

 《では何が不安なのでしょうか。》

 「…首がな、うずくんだよ。」

 《うずく…ですか?》

 何かの比喩なのかと検索を掛けようとするアイギスであったがその前にユーリが首を擦りながら説明する。

 「そう、まるで死神の鎌を首に添えられているような。こうどうしようも出来ない事に片足を突っ込んでいるようなそんな気配がしてならないんだよ。」

 《…つまりこの作戦に何かがある…と。》

 「そこまでは言わないけど、とにかく嫌な予感がしてならないんだよ。」

 そう言うとユーリは黙って作戦の資料を見直す。

 その十分後、沈黙を破ったのはアイギスからであった。

 《…安心してください中尉。》

 「ん?」

 《例えこの作戦に如何なるアクシデントが起ころうと中尉の身の安全は私が保証します。…相棒ですから。》

 そう言われたユーリはしばらくキョトンとしていたが次第に顔が微笑みに包まれる。

 「そうだな、頼りにさせてもらうぞ相棒。」

 そこから五十分後ドラクル小隊は問題なくエーデルワイスから出撃した。


 「何もありませんね。」

 「そうね。」

 夢の行きつく場所、上陸から数十分後ドラクル小隊一纏まりになりながら周囲を探索していた。

 その結果はティナとドロシーの会話道理、

 MTの痕跡も住んでいたはずの者たちの痕跡も、殺し合いがあったと思われる後も何もかもである。

 「ドロシー、何か引っかからないか?」

 「いえ隊長、レーダーには何も…。」

 「なんか気味悪いな。」

 アドルファスの言葉に反論する者は居なかった。

 五人とも何か薄ら寒いものを感じていた。

 「ん?」

 「どうしたリー軍曹。」

 「いえ、何かあそこで動いたような…。」

 「ドロシー。」

 「レーダーに少しの波長はありましたが、不明としか。」

 「自分調査してみます。」

 「おい、一人で行くな新入り。」

 「大丈夫です!一人で出来ます!」

 そう言うとマイケルは一人で動いた地点まで移動していく。

 「認められようと躍起だな。」

 「青春って感じだね!!」

 そう各々が喋っていると。

 地上から出た光がマイケル機のエーテル貯蔵部を引き裂き爆発した。

 「リー!!」

 「隊長!!レーダーにMTを感知!十や二十じゃありません!」

 そうドロシーが叫ぶと同時にゴミの山から次々にMTが出てくる。


 革命の時来たれり。

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