第59話 我が名は…

 「散って戦うな!固まって死角を潰して戦え!」

 MTの不法廃棄場である夢の行きつく場所。

 そこでユーリ達ドラクル小隊は何者かの奇襲を受けていた。

 リー軍曹こそ撃破されたものの普通の少数での奇襲でなら四人だけでも対処できる…筈であった。

 「チィ!こいつら!」

 「愚痴らないで手を動かして!」

 アドルファスが愚痴るのに対してドロシーが怒鳴る。

 大概冷静であるドロシーにもその顔には余裕は一切無い。

 そうドラクル小隊は苦戦を強いられていた。

 一体一での戦いなら余裕で勝っている。

 この二年間彼らも何もしてこなかった訳では無い。

 メンバーの技能もさらに向上し、愛機であるファフニールの機能もアップデートし続けてきた。

 様々な任務もこなし精神面でも成長が見られ、正に精鋭部隊といっても過言ではない程になっていた。

 では、そんな彼らが何に苦戦しているか?

 答えは至極単純。

 だ。

 今もティナがユーリに報告している。

 「隊長!二時方向また増えます!」

 「数は!?」

 「二十…いえ!三十ほどです!!」

 そうユーリや皆が幾ら倒そうと地下から次々に十単位でニョキニョキと生える様にMTが出てくるのだ。

 《中尉、言うまでもありませんが。》

 「なら言うな!分かってる!」

 いつ終わるとも知れない未知との戦いに精神が消耗されるのもそうだが今一番の問題は…。

 「隊長!エーテルの残量が三割を切りました!」

 「っ!早くもか…!」

 そうエネルギー切れである。

 オリハルコンから無限に取れるエネルギー、エーテル。

 万能のエネルギーはあるがMTが載せれる量には当然のことながら限界がある。

 今回は特に消費が激しいティナがエネルギー切れが近いらしい。

 「…ドロシー!アドルファス!そっちは!?」

 「現状45%を切りました!駆動には問題ありません!」

 「こっちは今50%切ったところだ!まだいけるぜ!」

 「…アイギス、エーデルワイスとの通信は」

 《幾通りの通信を試しましたが、強力なジャミングが掛けられているようです…岸付近まで戻れば出来ますが。》

 「……撤退だ。」

 「「「!!」」」

 「このまま戦っていても増援が止まないという確証が無い。俺が最後尾になるからこのままランディングポイントまで戻るぞ。」

 手短な敵を二体まとめて切り結びながらユーリは淡々と命令する。

 「だが!リーの奴が!…せめて遺品だけでも!!」

 そうアドルファスが叫ぶがユーリはそれでも淡々としていた。

 「…死んでいる人間の為に、生きている人間の命は脅かせない。アドルファス。命令に従え。」

 「っ!お前!」

 「コックス!!」

 戦闘中にも関わらず今にもユーリに突っかかりに行かんとしそうなアドルファスをドロシーが大声で止める。

 そして何を言う訳でもなく静かに首を横に振るドロシーを見て少し頭が冷えたのかただ一言謝罪した。

 「…すまん。」

 「謝る相手が違うでしょ。」

 「…隊長、すみませんでした。」

 冷静に考えればユーリも苦渋の決断であったであろう。

 マイケルの行動を止められなかった責任があるのにそのかたきすら取れないのだから。

 ユーリはアドルファスの謝罪を軽く受けると撤退の具体的な案を出す。

 「先頭はドロシー、順にティナ、アドルファス、最後に俺。最短ルートである六時の方向に突破する。」

 「けど隊長!その方向は…!」

 「ああ、そうだなMTだな。」

 「…罠の可能性が高いのでは?」

 ドロシーが質問してくるがユーリは動揺せずしっかりとした口調で言う。

 「確かに罠の可能性が高い。だが遠回りして戦闘しエーテル切れになるよりも正面突破して罠を食い破っていく方がまだ生き残る可能性が高い。他に何か異論がある奴はいるか?」

 「「「……。」」」

 ユーリが彼なりに考えを持っていると理解したのか全員がそれぞれに了解の意思を見せる。

 「良し。合図と共に突破するぞ!」

 ドラクル小隊の決死行が始まる。


 …はずであったが。

 「…ドロシー、レーダーは。」

 「…はい、全く反応がありません。」

 覚悟していたはず撤退劇は全く追撃してこないMTと罠の欠片もないと思われるルートによって弛緩しきったものとなっていた。

 故に警戒はしつつも敵の事について纏めるには十分な間となった。

 「何だったんだあいつらは。」

 「…改めてデータを照会してみまたけれど、該当するMTは過去にも存在していないわ。」

 アドルファスの今更とも言える疑問にドロシーは答えになっていない事実を言う。

 「…と言うよりあの姿は。」

 「…寄せ集めみたいだったな。」

 ティナの言葉を繋いだユーリの発言に全員が黙り込む。

 実際それは戦っていた皆が思っていたことだ。

 色は勿論、持っている武器もバラバラどころか姿形すらまるでそれぞれがその場にあった部品を繋ぎ合わせたようなチグハグなものであった。

 《簡単なデータの称号が終わりました。》

 「待て、アイギス…いいぞ。」

 アイギスの声が小隊の皆にも届く様に設定しアイギスの報告を促す。

 《では、あのMT群。いえあれらは正に寄せ集めのMTと言えるでしょう。》

 「?どういう事。」

 ティナが質問するとアイギスは淡々と事実を述べる。

 《最初にリー軍曹を撃った機体は頭はガスア帝国、右腕はユースティア、それ以外はウァーイン社の物でした。》

 「…なんでそんな寄せ集めの機体を。」

 《それだけではありません。襲撃してきたMTそれぞれが全く違う組み合わせで出来たMTです。》

 アイギスが語る結果に四人がザワザワと喋り出す。

 「寄せ集めみたいだと思っていたが、本当に寄せ集めだったとはな。」

 「作った奴は何を考えてそんなもん作ったんだ?」

 「…それが分かれば苦労しないわよ。」

 「だよね。」

 《…付け加えて言えば。相当な技術力を持っている事は確かです。》

 「と、言うと?」

 MTは寄せ集めなのに持っている技術は高い。

 矛盾している情報に疑問を持つユーリ。

 《戦って分かった方もいらっしゃると思いますが、戦ったMTは全て簡易AIによる操縦でした。》

 「うん、動きが単純だったね。…敵はあれだけ大量に簡易AIを用意できるって事?」

 《半分は正解です。》

 「半分?」

 《はい、半分。》

 アドルファスから思わず出た言葉に肯定するアイギス。

 《こちらをご覧ください。》

 そうアイギスが言うと先ほどのユーリの画像戦闘データが出てくる。

 「…これがどうしたの?」

 《注目してほしいのは戦っているMTではなく切られて倒れているMTです。》

 「!?これって、どういう事!?」

 真っ先に気づいたティナの叫びを切っ掛けに次々に気付いていく。

 「なんだこれ!?」

 「……!?」

 「…切られた機体同士が、繋がっていってる。」

 そう切られたはずの別々の機体の上半身と下半身がまるで生きてる様に繋がっていく様子がしっかりと映像に取られていたのだ。

 《…ご理解いただけた通り、それぞれ全く違うパーツがまるで最初から一つになっていくように合体していっています。解析した結果おそらく簡易AIをMT各所に配置し切られた部分をその場にある部品で修復するようプログラミングされていると思われます。》

 「「「「……。」」」」

 《先ほどハミルトン曹長の答えを半分正解と言ったのは、確かに敵は簡易AIを大量に用意しています。けれどその数はおそらく皆さんが思っているより多く、そして生産できる技術も持っています。》

 アイギスから語られた事実に驚きが隠せず黙ってしまうドラクル小隊。

 その沈黙はランディングポイントが見えてくるまで続いた。

 「もうすぐ目標地点だな、アイギスすまんがエーデルワイスに通信を…!?」

 その時、地面が大きく揺れる。

 エーテル節約のため地上を歩いていた四機にもその振動はよく響いた。

 「じ、地震か!?」

 「じ、地震にしては長すぎるような…!?」

 「隊長!後ろ!」

 ユーリがドロシーの言う通り後ろを向くとそこには巨大な塔が下からそびえ立とうとしていた。

 「これは、一体…?」

 《中尉、あの塔からユースティアに。…いえ、全世界に対して通信が行われています。回線を回しますか。》

 「頼む。」

 そう短くユーリが答えると『voice only』の表記が出ると同時に平坦な、されど何処か温かみのある声が聞こえてきた。


 《我が名は…メシア。人類をよりよくする者なり。》



 人類は今、選択を迫られようとしていた。

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