第75話 楽園の裏側
次々に地に伏していくハイロゥの大軍を見て連合軍は大きく沸き立った。
誰も彼もが喜びを表し、他国同士であっても抱き合いながら共有していた。
そしてそれは作戦司令部も同じであった。
下士官やオペレーターは勿論の事、将軍職についている者ですら子どものように喜んだ。
ただ一人険しい顔をしている作戦の立案者以外は。
「どうしたアルヴィー少佐!もっと喜びたまえ!!」
「…あ、ええ勿論。」
アヤの様子に気づいた将軍の一人が声を掛けるが曖昧な返事が返ってきたのみであった。
将軍は首を傾げながらも別の人の下へ移動した。
アヤは一人席を立ち歩きながら今まで放置してきた問題について考える。
(この戦い、恐らく勝利なのは間違いない。けど皆大切な事を忘れている。)
それは皆、最初は考えていた筈だが攻めてくるハイロゥを前に棚上げしなければならなかった問題。
それは誰が何のためにメシアというAIを作り上げたのか?である。
(今回の事、単なるAIの暴走なのか。それとも作った者の意図したものなのか。)
前者なら事件は完全にこれにて終わりである。
だが後者ならばまた同じような事が起きるかも知れない。
考えすぎかも知れないが事が事だけに慎重にならなければならない。
幸いと言えるかどうか分からないがこんな事ができる人間は少ない。
王に進言して調査しなければと心に強く刻みながらもとりあえずアヤは今できる事から進める事にする。
(まずは夢の行きつく場所に調査部隊を向かわせて生きてる人を救助しないと。…生きていてくれますよねアカバ中尉。)
戦場となったユースティアの中心部から大きく離れた山岳地帯。
そこ中規模の円形の施設があった。
何も音がしない山岳地帯であるが今現在の施設の中は何かが暴れまわる様な音が鳴り響いていた。
音の正体は一人の白衣を着た男が物を投げつける音であった。
複数の人間が遠巻きに見守る中でお構いもせずに積んであった資料や飾ってあった絵や花瓶などを壁に投げつける。
「ハァ…ハァ…。」
やがて投げつけるものが無くなり肩で息をする白衣の男に遠巻きに見ていた一人の若い同じく白衣を着た若者が話かける。
「は、博士。大丈夫ですか。」
「…大丈夫?大丈夫かだと!?」
博士と呼ばれた男は質問してきた若者の首を怒りに任せて絞める。
「貴様如きが私を心配するだと!!莫迦にするなよ!!」
若者は頸動脈を絞められそのまま亡くなった。
男はゴミを捨てるかのように若者だったものを床に投げつける。
「で、ですが博士これからどうするのですか?」
「そ、そうです。メシアが破壊されしまった以上我ら…い、いや博士の計画は。」
「私の計画に失敗など無い!!」
矢継ぎ早に質問してくるのを博士は大声で黙らせる。
深呼吸を一つ入れると博士は周りの者に命令する。
「次のメシアを作り上げる。」
「し、しかしAIの成長には時間が…。」
「次のメシアに心は持たせない。今度は完全に私に忠実なメシアを作り上げる!すぐに取り掛かれ!!」
「いや、それには及ばないよ。博士」
突如として聞こえた声に中にいる者は慌てた。
何故ならここには誰にも知られていない、入って来れない場所のはずなのだから。
だが現実として開くはずのない扉が開いて、完全武装した複数の兵士が入って来る。
兵士に銃を向けられ中にいた者達は慌てて撃たれないよう手を上げた。
ただ一人、博士を除いては。
兵士たちの包囲が完成し、やがて一人の男が入って来る。
その姿を見て博士は忌々しい物を見る目で男を睨みつける。
「スコット・F・オーウェン…!!」
「お久ぶりですね。ハイゼン・アームストロング博士。」
「何故ここが分かった。私は死んだ事に…!!」
「諜報部を舐めないでもらいたい。少し調べればあれが偽装である事は判明しました。そして生きている以上何かしらの痕跡は残る。」
そう言うとスコットはアームストロングを睨みつける。
「博士、いやハイゼン・アームストロング。貴様の計画は全て破綻した。」
「計画?貴様が私の計画の何を知っていると言うのだ!?」
「まず貴様はAIであるメシアを作り上げた。そしてメシアにアルカディア計画を進めるようインプットしそれを実行できるだけの物を与えた。そうしてメシアがアルカディア計画を実行し終えたら唯一の天才として貴様がメシアの代わりに他の人間を統括する。さながら神のようにな。雑に纏めればこんな計画だったのだろう。」
「…前提が間違っているぞ中将。神のように、では無い神そのものになるための計画だ。」
スコットの眉がピクリと上がる。
銃に囲まれている現状など気にしてないように手を広げ語りだす。
「愚かな人間に天才である私がこき使われるこの世界がどうにも我慢できないのだよ!唯一優れた者が人類の指導者になる。それのどこが悪い!!さぁ!!分かったらこの場からいなくなれ!!私は…!!」
バン!!
「…聞いてられんな。」
「き、貴様!?撃ったな!?神であるこの私を!?」
肩に受けた傷を見て声を震わせながら怒りを見せるハイゼンに撃ったスコットはため息をつく。
「もう少しましな理由が聞けると思ったが…アカバとアイギスには聞かせられな。」
「アイギス?…AI-GIS-01の事か。ふん!奴も所詮メシアのプロトタイプ、製作物は言われた事を言われた通りにこなしていれば…ガァ!!」
「…今のはここに居ないアカバの分だ。」
もう一発足に弾を喰らい立てなくなったハイゼンを見下ろすスコット。
「アイギスは貴様などよりも人間の事、心について良く知っているよ。貴様にも僅かでもそれがあれば良かったのにな。」
「…黙れ。私は完璧だ。私以外に誰が心を持つAIを作れるといいのだ。」
「今は、だろ。人間は成長する生き物だ。何時か他の者がその領域にもたどり着く。」
「中将、施設内の人間を全員連れてきました。」
「うむ、助かるライアン。」
ライアンが連れてきた十数人の人間を中央に集めるスコット。
「な、何をする気だ。」
「残念だが君たちがしたことを表にだす訳には行かない。証拠は全てここで消す。」
そうスコットが言うと包囲していた兵士が銃のセーフティーを外す。
「ま、まて中将。私を殺す気か!!そのような事をすれば人類にとって大きな痛手になるぞ!?」
「……撃て。」
そうスコットが言うと銃弾が幾重にも囲っていた人間を貫いた。
そしてその中には勿論ハイゼンの姿もあった。
「止め。」
銃声が鳴りやんだ時にはそこは既に血の海であった。
兵士たちはそのような中で全員死亡しているかどうか確かめる。
「中将。全員死亡が確認されました。」
「よし、ここに爆薬を仕掛けたのち撤退する。」
「了解。」
そう言うと兵士たちは施設のあちこちに爆薬を仕掛けに回る。
「……。」
スコットは目の前の惨状を一瞥すると施設を後にした。
数十分後、誰にも知られなかった施設は誰にも知られず後方もなく消え去った。
その頃、決戦の場となった夢の行きつく場所に調査部隊の艦が付こうとしていた。
「見てみろよ。こりゃひでぇ。」
「ああ。」
塔で起きた爆発は島の端の方まで爆風が届いたらしく地表はかなり荒れている。
「少佐は作戦部隊の生き残りを優先しろと言っていたが…こりゃ。」
「だな。本部に連絡を…ん!おいこれ見ろ!!」
「ああ、微弱だが間違いない救難信号だ!」
《中尉。どうやら救助部隊が来たようです。》
「ああ。誰の指示かは知らないが、早かったな。」
《…。》
「…。」
《中尉。》
「何だ。」
《今回も生き残りましたね。》
「…ああ。」
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