第86話 最初で最後の戦争
大型強襲揚陸戦艦ユキカゼー
全長850mにもわたるこの艦はプロメテウスによってもたらされた技術を大いに使い対D・B戦闘を考慮され建造された艦の二番艦である。
故にその施設も万が一ホールに巻き込まれ別世界に飛ばされる事も考えられる為、長時間の艦内生活を想定し作られている。
だがやはり軍艦である以上やはり格納庫は広く場所を取っている。
ユキカゼには現在60機のMTが搭載されておりその全てが来るべき戦いに向けて今か今かと静かに待っている。
当然それに携わるメカニックの人数を相当数いる。
つまりそれらメカニックを率いる主任メカニックはそれなりの強者であると言う事である。
「違う違う!そのパーツは第二じゃなくて第四格納庫!置いたらすぐに戻ってきてアンディ中尉の小隊のMTの最終確認するから!」
ユキカゼの主任メカニック、パメラ・ヴァン・ボルク。
彼女はこのイーゼン基地に着いても働き詰めであった。
パイロットはいつ来るか分からない戦いの為、休むのも仕事と言われるがメカニックはそうは行かない。
戦闘中は勿論だがこうした待機中にも各機体のチェックや部品の搬入といった仕事が山積みである。
まだこの艦には大勢のメカニックがいるためその分は余裕ができるがそれでも主任であるパメラの変わりはいないため日々忙しかった。
(はぁ、休みが欲しい。)
パメラは真剣に頭の中でそう思う。
今の仕事に誇りは持っているし、ユーリがいるという事でこの艦所属に名乗りを上げた事を別に後悔しているわけではない。
無い訳だが…。
(はぁ、癒しが欲しい。…猫でも飼おうかな。)
パメラが真剣に今後の人生設計に動物を飼う事を計算し始めてると後ろから元気な声が掛かる。
「パメラさんここにいる!?」
この声の主が誰なのか一発で分かり苦笑いしながらその方向に振り向く。
「ここに居ますよ、ティナさん。」
「ああ良かった!!格納庫が第四まであるから探したんだよ!」
ティナ・ハミルトン中尉。
かつてユーリの率いる小隊いた元気娘は十年以上経ってもその明るさは衰える事は無かった。
しかし戦場での冷静さや慎重さなど今まで足りなかった要素もこの十数年で得ている。
それを評価されここに来るまでは別のエリート部隊にて隊長昇格間違いなしとも言われていたがエルドラド発足の際にその話を蹴りユーリに合流した。
現在彼女はドラクル小隊の名を引き継ぎ隊長として頑張っている。
周りを明るくするような笑顔で近づくティナの要件を薄々気が付いているパメラはそれを説明するに相応しい場所へ移動していく。
やがてパメラに追いついたティナはしばらく大人しく付いて来ていたが急に周りを振り向きながら見てる。
「どうしたんです?」
「え!い、いやーこれだけ並ぶと壮観だなって思って!」
「まぁ、そうですねこれだけ【デュカリオン】が並んでいると思う所がありますね。」
パメラはズラリと並んだMTを見てそう言う。
ーデュカリオン。
プロメテウスを元に設計された量産機で今やアステルの主力の大半はこのデュカリオンである。
バーニアスラスターがプロメテウスの四つから二つになってはいるがその分追加装備が付けやすく多様性に優れた機体である。
無論DSWは搭載されているがプロメテウスとは違い従来と同じエーテル補給式なため連続使用は不可能な上、使用は長距離に使用すれば二発が限度である。
そのような事を言いながら二人が歩いているとようやく目的地まで着いた。
「はい、ここですティナさんの要望道理にチューンアップしたデュカリオン、【デュカリオン・ドラクル】です。」
それは正に竜の威圧感を持ったようなMTであった。
ティナはプレゼントを貰った子どものような目で自分の機体を見ている。
そんな中、その背中に呆れたような声を掛けるメカニックが一人。
「はぁ、大変だったんですよ。これを仕上げるのは。」
そう言いながら近づいて来るのは少女のメカニックであった。
パメラはその少女に苦笑いを返しながら夢中になってるティナの代わりに会話する。
「そう言わないでジャスティン軍曹。折角だから説明してあげて。」
「…了解。主任。」
リン・ジャスティン。
まだ歳若いがメカニックのホープとして名高い十七の少女であるが誰とも打ち解けようとしないため少し浮いている。
「ハミルトン中尉のご要望道理の兵装は全て取り付けました左肩には長距離ビーム砲、右肩には二連式ガトリング砲、右腕にはシールド付きバイルバンカー、大型のバヨネット・ハンドガン。よくもまあこれだけの重装備を要望しましたね。」
「…それぞれ思い出があって、ね。」
「…。」
パメラはティナがこれらの装備を要望したかなんとなくではあるが察している。
ビーム砲はアドルファス、シールド付きバイルバンカーはテリー、そしてバヨネットはドロシー。
かつてドラクル小隊として共に戦った仲間たちを象徴しているのだろう。
(これからも皆の思いを背負って一緒に戦いたいですよね。…あの人の元で。)
そのような思いを知らないリンはため息をつき説明の続きをする。
「今までの装備だけでも十分重装備ですが更に胸部にはマイクロミサイル追加装甲左腕にはビームの大剣を付けました。ついでにショートレンジ用にビームナイフも二本装備しています。そして重装備を扱えるようマニピュレーターは他のデュカリオンより大型化してます。…以上。」
話は終わったと言わんばかりに別の作業をしだすリン。
その様子をパメラは苦笑をしてティナに追加の説明をする。
「その分バランスは非常に悪くなっています。気をつけて下さいね、気を抜いたらあっという間に墜ちます。」
「分かった!けど、そう簡単に墜とされないよ!これでも隊長だからね!」
「それ気合はいいけど、責任に振り回されるなよティナ。」
そう言って会話に入って来たのはユーリであった。
「あ!たい…ユーリ特務!!」
「あれ?ここに来るのは珍しいですね。」
ティナとパメラはユーリに気付くと笑みを浮かべる。
「まぁ偶には散歩がてらにな。…ところで、彼女いるの?別の格納庫って言ってくれ。」
「フフ、残念でした後ろにいますよ。ねぇ軍曹。」
そう言ってパメラが声を掛けた方向を見てみると口を両手で押さえながら涙を流すリンがいた。
「な、生アカバ特務…!!フヒィ…きょ、今日はご利益がありそうです。」
そうリン・ジャスティンは重度のユーリオタクである。
そもそも彼女が軍に入ったのもユーリ目当てであった。
あわよくば近くで見てみたいとエルドラドに所属したが運が良いのか悪いのかよくユーリとニアミスしたりする。
その度にリンは感極まるあまり涙を流しユーリが困惑する姿が見られている。
嫌いではないが今まであった事の無いタイプのリンにどう対処するべきか数年経った今でもユーリには分からなかった。
ちなみに彼女が周りから浮いているのはこれも原因でもある。
「あー、ジャスティン軍曹?そう感極まらなくても。」
パメラとティナはユーリの方をニアニアしながら見てるだけなので仕方なくユーリはリンに声を掛けるが。
「ああ!特務が私に直接お声がけを!?…(バタン)」
「チョッ!!」
リンは感極まり過ぎたか後ろにバタンと倒れてしまった。
ユーリは慌てて彼女を支えようとするがティナに遮られる。
「ユーリ特務がやったらこのまま逝っちゃいそうだし私が医務室まで連れてくよ!」
そう言ってリンを背負うとティナは一旦離れて行った。
「…はぁー。」
ティナが見えなくなった辺りでため息をつくユーリに笑みを浮かべながらパメラは声を掛ける。
「彼女は苦手ですか?」
「…悪い奴では無いのは分かるけど。…ほら例の事件もあったしさ。」
「ああ、例の洗脳事件。」
数年前の話である。
救助したアリスをエリンまで送る間ユキカゼで保護していた時であった。
そのアリスの一人が悪気は無しにユーリの事を話題にしたらしい。
それを耳にしたリンは思わずユーリの伝説などを熱く語った。
そこまでなら良かったがそのアリスが話を切り上げようとしても会話を止めず。
挙句の果てには空き室に閉じ込め自分が満足するまで五時間に渡りユーリが如何に素晴らしいかを説明したのだ。
アヤが事態に気付き止めなければもっと長くなったであろうことは誰もが想像できた。
その後反省のため独房に一週間入れられたリンであるが誰もがまた機会があればやるであろうと思ってたりする。
「ああ、もう取り敢えず今は彼女の事はいい。それよりも例の装備、届いたんだって?」
ユーリの問題の棚上げにパメラは微笑みながら答えていく。
「ええ、問題なくプロメテウスに搭載できます。期待してくださいね。」
「そうか、ならいいけど。そう言えばこの間…。」
その後は雑談を楽しむユーリとパメラであった。
しばらくするとティナが戻って来る。
そうして三人は雑談を楽しむのであった。
《我々はメシア事変の時悟った。人類に必要なのは戦いではなく分かり合う事であると。アステルはそれを目指し今までフェールーンとの関係に力を尽くしてきた。しかし!彼らは変化を嫌い!如何なる交渉の場にも着こうとはしなかった!新たなる脅威が現れた今現在もそれは変わらない。我々ももう人の血は見たくない。だが!しなければならない時が来てしまった。願わくばこれから流れる血がこの世界の最後の戦争で流れる血である事を願う。…これより我らがアステル共和国はこれよりフェールーン連合と開戦する!!》
この宣戦布告の後、アステル各地の基地から多数の軍艦がフェールーンへと向かう。
これがアステル共和国にとって最初で最後の戦争となる。
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