第87話 ポルテクス基地攻略戦

 アステルのエルドラドへの宣戦布告の後、ユキカゼを始めとしたエルドラド艦隊はフェールーンの国境を越え攻略目標のポルテクス基地をその視界に捉えていた。

 「ここまで何の反撃もありませんでしたね。」

 副艦長であるピーターが気が抜けたように艦長であるアヤに言う。

 アヤはそれに答えず艦長席を指でコツコツ叩いている。

 「…それで艦長、どうなされます?すぐにMT部隊の出撃準備は出来てますが。」

 「…宣戦布告したとはいえ降伏勧告も無しに攻撃は出来ません。ですが迎撃ミサイルは何時でも撃てるように。」

 「了解!」

 アヤの命令を受けピーターがブリッジクルーに指示を出す。

 その様子を見ながらアヤはフェールーンの動きについて考えていた。

 (ここまで抵抗が無いのは予想外、おそらくフェールーンは重要地に戦力を集中させての防衛の構え。意外ではあるけど戦力差を考えれば当然…。果たしてこれが苦肉の策か、それとも誘いか。…いずれにせよ。)

 「開戦しないと始まらないか…。」

 「はい?艦長何でしょうか?」

 「…いえ、何でもありません。艦隊全てに通信を。」

 アヤがそう言うとすぐに艦隊全ての通信が開かれる。

 「エルドラドの勇士全てに告げます。これより我々はポルテクス基地に降伏勧告を行います。…ですが恐らく拒否されるでしょう。これより行われる戦闘により敵味方問わず多くの血が流れるでしょう。しかし、我々はここで止まるわけには行きません。今も多くの同胞がフェールーンと戦っているでしょう。…ですから我々も戦いの無い世界の為に奮起せよ!…以上。」

 そう言い終わると艦隊への通信を切らせる。

 これによって艦隊の士気が上がるかどうかは不安の所であるが決意は伝わったと信じたいものである。

 なにせ久しぶりの人と人の大規模な戦闘である。

 新兵の中には人間と戦うのは初めての者もいるだろう。

 これから先にはD・Bに対する大規模な作戦が始まろうとしている。

 ここで躓く訳にはいかないのである。

 「…ポルテクス基地に通信を。」

 「了解。開きます。」

 そうニアが答えるとメインモニターに虎髭の男が画面に映し出される。

 「こちらアステル共和国所属エルドラドのアヤ・アルヴィー大佐…。」

 「撃て!!」

 「!!基地より飛翔体多数!ミサイルと思われます!数は三十二!」

 「迎撃ミサイル!一番から四番!撃て!」

 「り、了解!ミサイル!一番から四番!撃て!」

 ピーターの復唱と同時にユキカゼから大量のミサイルが放たれる。

 それと同時に他の艦からも迎撃ミサイルが放たれる。

 大量のミサイルは基地から放たれたミサイルと衝突し空に多くの爆炎を散らしその後には何も残らなかった。

 「…迎撃成功です!」

 「ポルテクス基地からの通信切られました!」

 「基地から敵艦が!MTと思われるエーテル反応も多数!」

 「…降伏勧告は聞く気も無いようですね。」

 アヤは呆れたように一つため息をつくと顔を引き締め指示を出す。

 「艦隊射撃を行います!その後MT部隊を出撃!ポルテクス基地を制圧します!」


 「話を聞こうって気は無いのかね向こうは。」

 《フェールーンのこちらへの敵対視はこちらの予想を越える物かも知れませんね。》

 ユーリとアイギスはすでにプロメテウスに乗り込み出撃準備を終えリニアカタパルトに移動していた。

 ユキカゼには十七のリニアカタパルトがありプロメテウスには専用のカタパルトが存在している。

 《アカバ特務、聞こえますか?》

 「ああ、問題ない。聞こえてるよニア。」

 《すでに第一、第四、第五小隊はすでに出撃。アカバ特務は基地の制圧よりも全体のサポートをお願いします。》

 「了解、要は味方守って敵を減らせばいいんだろ。楽勝。」

 《フフ、頼もしいお言葉です。…リニアカタパルト、ボルテージ上昇!いつでも出撃どうぞ!》

 「了解!ユーリ・アカバ、プロメテウス。…出る!!」

 それと同時に電磁の力によって外へと押し出される。

 外に出ると同時にバーニアにエーテルを回し空へと飛翔する。

 既にMT同士での戦闘は始まっておりあちらこちらで爆音が聞こえる。

 「…相変わらずフェールーンの量産機は嫌な事思い出させるな。」

 ユーリの目線の先にはフェールーンのアルティメット・スピノが見えていた。

 かつてユースティアでのクーデターの際に使用されたアルティメット・レックスの小型量産機である。

 どうやらクーデターのメンバーがフェールーンに逃げ造り上げたようである。

 《ユーリ、今は。》

 「問題ない。さぁて、やるとしますか!」

 ユーリはランチャーを構え敵が固まっている所に一発入れる。

 放たれた光は吸い込まれるように向かって行きアルティメット・スピノを貫き撃破する。

 するとあちらこちらに散らばって戦っていた敵がプロメテウスに向かって迫って来る。

 《敵MT六機が二時の方向から、五機が十一時の方向から来ます。後続も多数、人気ですねユーリ。》

 「ハハ、全くな。まぁこれで味方はやりやすくなるだろうし。」

 《…油断して撃沈されたら言い訳も出来ませんよこの状況。》

 「分かってる。こんな所で死ねぇよ。」

 そう言ってユーリはランチャーを腰のラックに掛けるとビームサーベルを両手で構える。

 「さぁ、止めれるもんなら止めてみろ!」


 そこから一方的な展開であった。

 アルティメット・スピノは決して悪いMTでは無い。

 パワーと装甲を備えたアルティメット・レックスの利点をそのままに小型化する事により機動性を加えたMTである。

 加えてフェールーンの兵は自国を守ろうとやる気に満ちている。

 例え敵が英雄と表される強者であるユーリ・アカバであろうと集団で叩けば墜とせる、そう思うのも無理はない。

 だが、現実は彼らにとって無情なものであった。

 「ブル小隊壊滅しました!」

 「嘘だろ!敵はたった一機だぞ!それなのに四小隊もやられたって言うのか!?」

 「クソォ!!化け物かよ四枚羽!!」

 フェールーン兵士たちは動揺を隠せないでいた。

 プロメテウス…フェールーンの中では四枚羽と呼ばれるMTがエース機である事は皆が知っている事であった。

 その為の訓練もしてきたが蓋を開けてみれば相手はエースなんて物ではない、まるでこの世ならざぬものと戦っているようだと後にあるフェールーンの兵士は語った。

 こちらの追いつけないスピードで移動したかと思えば知らぬ間に二機ほど切られている。

 距離を取れば正確無比な射撃で射ち落される。

 そんな中流れ弾に当たった射出されたアルティメット・スピノのクローに当たり偶然プロメテウスの足に絡まる。

 予想外の出来事にほんの僅かな隙を見せる。

 その機を逃さず他のアルティメット・スピノがプロメテウスの四肢を拘束する。

 「死ね!!四枚羽!!」

 そして無防備なプロメテウスに止めを刺さんとある兵士が突っ込んでいく。

 フェールーンの兵はこれで四枚羽の息の根を止めた、そう誰もが思った。

 しかし、不幸な事に相手は未来の技術の粋を集めたプロメテウスと英雄と表される実力を持ったユーリ・アカバである。

 (甘い。)

 そんな声が突撃している兵士の耳に響いた。

 プロメテウスは両腕を拘束しているクローのワイヤー部分をグイと引き寄せる。

 パワー負けした二機のアルティメット・スピノはプロメテウスに接近する。

 そしてプロメテウスの両腕に内蔵されているビームクローによって機体を貫かれる。

 プロメテウスは貫いた二機のアルティメット・スピノを突撃してくる機体に向けて押し出す。

 ぶつけられた二機の仲間によって突撃の勢いを無くしたアルティメット・スピノにプロメテウスはビームクローと一緒に両腕に内蔵されているビームマシンガンを掃射する。

 結果として傷一つ与える事が出来ず三機のMTは撃沈した。

 そして足を拘束している機体もプロメテウスの脚部に装備されているマイクロミサイルによってあえなく散る。

 フェールーンの兵士たちがプロメテウスを恐れだした時後方からあるMTが突撃していく。

 アルティメット・アンキロ。

 スピノと比べても数段装甲が厚いアンキロがもはや特攻の勢いで突撃していく。

 アンキロの突撃が成功しれば如何にプロメテウスのパワーでも体勢は崩れるだろう。

 そこを皆で一斉に攻撃すればいいと他の機体が射撃体勢に入る。

 だが、それでも、現実という壁は崩せなかった。

 突撃してくるアンキロに対しプロメテウスは避ける気配も見せず膝を前に出す。

 すると膝に内蔵された衝撃発生機から生まれた波動がアンキロを弾く。

 そしてアンキロを追撃するプロメテウスは実体剣を手に取る。

 日本刀のような形をしたその実体剣をプロメテウスはアンキロに対し振りぬく。

 すると装甲の厚いはずのアンキロが両断される。

 プロメテウスはついでと言わんばかりに横薙ぎに切るとその場を離脱する。

 アルティメット・アンキロが爆散するのを仲間たちは茫然として見ていた。

 「どうやっても奴には勝てない。」

 そのような空気がフェールーンに流れる中、追いうちを掛けるようにアステルの他のMTが押さえていた部隊を撃破してこちらに迫って来る。

 その様子見たある小隊長は基地に撤退を選ぶ。

 それに続き他の部隊も撤退していく。

 結果としてプロメテウスを撃破しようとした十五もの小隊はほとんどプロメテウス一機によって撤退させられたのである。


 「たい、いや特務!大丈夫ですか!?」

 「ティナ大丈夫だから声を絞ってくれ。耳が痛い。」

 敵が撤退するのを確認しながらユーリはこちらに向かっていたティナのデュカリオン・ドラクルと合流する。

 「それにしても凄いですね!その剣!新装備ですか!?」

 部下に深追いしないように伝えた後ティナは興奮したように先ほどの実体剣について聞いて来る。

 それに対し答えたのはユーリではなくアイギスであった。

 《ニホントウ型高速粒子振動剣クレセント。エーテルをコーティングした粒子を高速振動させることにより切断する代物です。量産化の目途は立っていないようですが。》

 「なるほど!」

 アイギスの説明にティナは相槌を打ちつつ身振りで部下に補給をするように伝える。

 《それよりもユーリ、対処できたから良かったものの拘束されるのは油断のしすぎです。》

 「いや、言わせて貰うけど流れ弾に当たった流れ弾みたいなやつだぞ。そんなの対処できる奴がいたら本当に化け物だろ。」

 「そ、そうだよアイギス!見てないからよくわからないけどそれは防ぐのは無理だよ!」

 ユーリの言い訳だけでなくティナのフォローを受けアイギスは少し黙る。

 《…そうですね。すみません滅多にない事なので動揺しました。》

 「いいさ、別に。実弾補給に一旦ユキカゼに戻るけど一緒に行くかティナ。」

 「はい!お供します!」

 ティナがそう言いユキカゼに戻ろうとしていた時、ポルテクス基地から何かが出てくるのが見える。

 それは巨大な砲塔であった。

 向きからして旗艦ユキカゼを狙うつもりのようである。

 《ユーリ。》

 「分かってる。」

 アイギスが何か言おうとするのを遮りユーリは進路をそのままユキカゼに向かう。

 

 「フェールーンも甘いな。こちらにDSSがあるのも知らないで。」

 

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