第85話 エルドラド

 暗き森の中、一機のMTが警戒しながら歩いている。

 全索敵能力を使いながらある一機のMTが現れるのを待っていた。

 そしてその時は来た。

 後方から現れたMTは警戒していたMTにビームサーベルを構え突撃していく。

 狙う箇所はコックピットがある頭部、その一撃を当てる為にMTは全力で飛ぶ。

 狙われたMTは未だ後ろを向いている。

 後数センチでビームサーベルが頭部を貫こうとした時、狙われたMTが動く。

 僅かな動きでビームサーベルを回避すると後ろを向かず後ろ手でビームサーベルを使い相手を貫いた。

 その一撃にて相手のMTは動けなくなる。


 そうしてシュミレーターは停止する。

 周りの音声が聞こえて始めた、大きな歓声であった。

 後ろを見てみれば多くのギャラリーがこのシュミレーターの周りに集まっていた。

 シュミレーターに参加できない者にも勉強になるようにとシュミレーターの様子は大画面で映されていたのでどちらが勝ったは明白であった。

 「ああ、くそ!もう少しだったのに!」

 もう一方のシュミレーターから愚痴を言いながら若手の兵士が出てくる。

 「急所を狙うのは良かったがその分行動を狭める。注意しておくんだな。」

 「…ありがとうございますアカバ特務大佐。貴重な経験でした。」

 その言葉に対し笑みを返すのはユーリ・アカバ特務大佐。

 時々ユーリは将来有望な若手とこうして訓練をしていた。

 「まあこの艦に配属の限りはいつでもチャンスはあるんだからあんまり落ち込むなよ。」

 「アカバ特務!!次、俺も訓練お願いします!!」

 「あ!ズルい!!私!私もお願いします!」

 「いや、そんな一気に来られても。」

 次々に訓練を希望する者がユーリの周りに集まりどうしようか考えてる時であった。

 ある一人の人物がシュミレーター室に入って来た。

 「残念ですが、特務大佐は作戦会議の時間です。」

 「!艦長!!」

 ユーリを除くその場にいた全員が入って来た人に対し敬礼をする。

 入って来たのはアヤ・アルヴィー特務大佐。

 この艦、大型強襲揚陸戦艦フレッチャー級二番艦『ユキカゼ』の艦長である。

 艦長が入って来た事により一同の空気が引き締まる。

 「…全員、楽にしてください。軍務時間外に気を使っていては疲れますよ。」

 その言葉で一同は楽にする。

 「と、言う訳だ。また今度な。」

 「お願いします!アカバ特務!」

 そう言われながらユーリはアヤに連れられシュミレーター室を出ていく。

 「…もう少し威厳を持って部下に接して欲しいものですが。」

 扉が閉まり中の人に聞こえなくなったのを確認してからアヤはユーリに苦言を言う。

 それを言われるのは予想内であったのか肩をすくめてユーリは言葉を返す。

 「無いもんは仕方ない。そういったものはそっちに任せるよ。」

 「…ハァ。もういいです。急ぎましょう時間が迫ってます。」

 そう言って歩き出すアヤの後ろを追うようにユーリは歩き出す。

 しばらくの間二人の間に会話は無かったが突如アヤが口を開く。

 「十年。」

 「ん?」

 「いえ、D・Bと初の接触からもうそれだけの時が経った…と思うと。」

 「ああ、俺もすっかり三十路になっちまった。」

 「フフ、お互い独身で大変ですよね。」

 そう二人は笑い出す。

 D・Bとの遭遇、そしてユーリがプロメテウスをこの世界に持ち込んで既に十年の時が経っていた。

 事の真相をユーリはすぐさま議会に報告をした。

 無論始めは誰もが信じようとは思わなかった。

 しかし事実としてD・Bはこの世界に現れプロメテウスやアイギスのドールの技術力を目の当たりにした者は彼の言葉を信じる他無かった。

 そこからの展開は急劇に進んで行った。

 ユーリが持ち込んだ技術はすぐさまアステルの技術の進歩の礎となった。

 その技術は頭打ちであったアステルの技術を飛躍的に向上させた。

 現在二人が乗っているユキカゼもその技術の賜物である。

 今までの戦艦より格段に大型化されたこのユキカゼクラスの艦は十隻しかない。

 そしてこの功績、そしてD・Bを対策する部隊の責任者となるためユーリ及びアヤは特務大佐と呼ばれる階級となった。

 将軍職ではないがD・B案件、そして有事の際には将軍クラスの権限を持てるようにと一部の議員から与えられた。

 そしてその為の特務部隊『エルドラド』を設立。

 所属している艦はユキカゼを含めた八隻。

 内容はD・Bの対策の他にも実験段階の兵器、MTの実地での試験を行っている。

 部隊員は主にある程度の実績を持った者の希望者で構成されているがユーリやアヤの名高さからか有望な者が多く所属している。

 そして今ユキカゼは作戦を決行するためにその場所へと移動していた。

 そうこうしている内に会議室についていた。

 「さてと、では真面目にお仕事しますかね。」

 「私は最初から真面目ですが…、まあいいです。行きましょう。」


 「艦長、お疲れ様です。」

 そう入るなり言って来たのは副艦長であるピーター・レオーニ。

 副官としては優秀だが気弱なところがある中佐である。

 「あ、私お茶を入れますね。」

 そう言って席を立ったのはこの艦のメインオペレーターであるニア・ステイリ―である。

 軍学校を優秀な成績で卒業した彼女は自ら志願してエルドラドに所属した焼けた肌が特徴的な才女である。

 「ユーリ、こちらへ。」

 そう言ってユーリを席に誘導するのはアイギス。

 政府の特別処置によりアステルの戸籍を得て軍の所属としてはユーリの補佐官とされている。

 この四人と一機が主な作戦会議のメンバーである。

 無論最終的な決定は部隊の全員に知らされるが細々とした詳細を詰める時のメンバーはこのメンツであった。

 「さて、今回の作戦ですが予定通り我が艦隊はイーゼン基地に着いたのち二日待機。そしてフェールーンへの宣戦布告後、他の艦隊と共に最前線基地アレハン基地に攻勢を掛けます。」

 この十年間アステルとフェールーンの関係は悪化する一方であった。

 アステルがどれほど対話にて解決しようとしてもフェールーンは受け付けなかった。

 それどころかアステル国内でのテロなどを扇動したりそういった組織にMTなど兵器を流したりしていた。

 国境付近での武力衝突も一度や二度では無い。

 D・Bに対する大規模な作戦が間近に迫っている以上後顧の憂いは断たなければならない。

 その為にフェールーンを壊滅させる作戦。

 その作戦の一端をエルドラドが担っているのである。

 「敵の戦力はこちらの十分の一、普通に力押しで勝てる作戦です。」

 ピーターがニアの淹れてくれたお茶を飲みながら素直な感想を言う。

 その意見は作戦に参加している多くの兵士の共通認識であるがアヤとユーリ、アイギスは認識が甘いと心の中で思う。

 「ですがフェールーンは敵、アステルに対し過剰な敵意を向けています。何をしてくるか分からない相手です。対策は十分に重ねなければ。」

 「そうですね、フェールーンでは【アリス】の扱いも非常に酷いと聞きます。…同じ人なのに、酷いです。」

 アリス、D・Bの出現以来ホールの発現も非常に多くなっていた。

 その際に稀にホールから別の世界の人間がこちらに放り出される事がある。

 そのような人間をある物語からアリスと命名しアステルは彼らを保護し自由自治区にて保護している。

 だがフェールーンはアリスを奴隷のように扱っている。

 噂では人間爆弾にするという話もありそれも軍を動かせる一因となった。

 「…その意見には同感ですが今は人道については置いておきましょうステイリ―オペレーター。」

 「す、すいません。」

 「とは言え今回の仕事は向こうもどうしようもないだろう。国一つを丸ごと包囲してでの電撃作戦。宣戦布告と同時に主要箇所に同時に攻勢を掛ける。短期決戦にしたいからってえげつないな。」

 ここでようやくユーリが今回の作戦の素直な感想を言う。

 「D・Bに対する大作戦がようやく始まるのですから急ぎたいのも当然ですね。」

 アヤがユーリの意見に発言するとピーターが話を繋ぐ。

 「それに他の世界の協力者がもうすぐこちらに来ます。それも理由の一つでしょうね。」

 アステルはただホールの発現をただ見ていただけではない。

 時としてホールの中に入り調査したりもしていた。

 そして別の世界に接触した際に軍事力がこちらと同等、またはこちらより上の場合今回のD・Bへの作戦に参加してもらい低い場合技術を提供して食料などをこちらへ送って貰ったりしている。

 他の世界の技術力を引き込むことによりアステルの技術力は更に飛躍した。

 そして生産力も他の世界で作ることにより飛躍的に上がった。

 「…この戦いは勝って当然の戦いです。」

 アヤが席を立ち全員を見渡して言う。

 「この世界の為なのは勿論、この戦いはあらゆる協力してもらえる世界に我々の力を再認識してもらう為の場です。半端な戦いは許されません。」

 「…当然、圧倒的に勝って見せるさ。これからの先の為にもな。」

 その言葉に他のメンバーも頷く。

 「…では詳細を詰めます。まずイーゼン基地に着いた後…。」

 作戦会議はその後も続けられた。

 

 そして真に世界を統一する戦いが始まろうとしていた。

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