第89話 真の平和

 アステル共和国、首都エリンの議会会場に設けられた大会議場。

 今そこには主だった議員と軍部関係者が揃い議論を交わしていた。

 その様子を参加しているユーリは暇そうにただ見ている。

 「しっかりしてください。舐められますよ。(ボソッ)」

 隣にいるアヤが小突きながら注意するがユーリは態度を変える気は無いらしい。

 「こういった場は苦手なんだよ。…そう睨むな、大丈夫本題に入ればちゃんとするって。(ボソッ)」

 「…ハァ。」

 アヤは諦めたのかユーリから視線を外す。

 それからも議論は続きようやくユーリの言う本題に入った。

 「では次の議題はD・Bに対する大規模作戦について行います。本作戦の総指揮に任命されたハットン大将に説明をお願いします。」

 進行役が促すとハットン大将と呼ばれた男が皆の前に立つ。

 「今作戦の総指揮に任命されたウォン・ハットンであります。早速でありますが今作戦の説明を行います。」

 そうハットンが言うとモニターにある映像が映し出される。

 「これは以前ホールが開いた際に無人偵察機を五十機を突入させ判明したD・Bの住処の映像です。」

 オォ…。

 そのような声が会議場から漏れる。

 映し出される映像からは以前ユーリが見たようなホール内部の様な風景が永遠と続いている。

 攻撃してくるD・Bの攻撃を受けながら無人機は突き進んでいく。

 「以前よりD・Bには母体となる存在がいるのではないかと疑われてきました。統率が取れ知能があるように見えます。しかし捕獲したD・Bを研究した所少なくとも戦闘をする末端のD・Bにはおよそ脳と言える部分は見当たらなかったからです。」

 ハットンが言っている話は既に皆が知る所であるがこの後の円滑な説明の為に一から説明をする。

 「そして現在映し出されているこの映像に僅かながらマザーと思われる存在が映し出されている事が判明しました。」

 ザワザワと会場がざわつく。

 今まで判明してこなかったマザーらしき存在が映し出されたという映像を皆が凝視する。

 攻撃を受けボロボロになりながらも偵察機は映像を記録し続けていた。

 そして爆発の瞬間に映像は止められる。

 「ここに注目してください。」

 皆が停止された映像を隈なく見るがそれらしい影は無い。

 あるとすれば。

 「なんだこれは。陸地があるだけではないか。」

 ある議員が失望したように声をだす。

 だがユーリはその映し出されたものに対して違和感を持っていた。

 それはアヤも、いや一度ホールに入った者は違和感を隠せなかった。

 「そう一見ただの陸地のように見えます。ただここに陸地があるという事はあり得ないのです。」

 ザワザワと再び会場が騒がしくなる。

 主にホールに入った事の無い議員などが中心であった。

 「…アカバ特務大佐。何度もホールに入った君なら解るはずだ説明してくれ。」

 その言葉を受け皆がユーリの方に注目する。

 呼ばれたユーリは少し動揺するが深呼吸を一つすると席を立ち思った事を口にしていく。

 「ご存じの方もいらっしゃるでしょうがホールの内部は重力が常に渦巻いている状況です。ホールに突入するために特殊加工されているフレッチャー級でさえシールドを張って突入しなければ装甲が傷つくほどに…。」

 そうホール内は重力が渦巻いている。

 だというのにその陸地は存在している。

 「その事実に気付き研究機関はこの陸地は陸地ではなくマザーではないかと結論づけました。」

 議員も軍人もこの事実に驚きを隠せないでいた。

 だがそれと同時にこれは喜ばしい事実でもある。

 マザーが見つかったのであればそれを潰せば長きに渡って苦しめられたD・Bとの戦いが終わるかも知れない。

 「それで、マザーの詳細について他に分かっている事は?」

 先ほどとは違う議員が当然の質問をする。

 だがハットン大将はそれに中々答えようとしなかった。

 皆が怪訝な顔で見ているとようやく口を開く。

 「…今から報告する情報はまだ不確定要素がある事をお忘れなきよう。」

 そうハットン大将が言うとモニターに別の画像が映し出される。

 「記録されているデータを元に推定したマザーとの距離と映し出された大きさから計算した所マザーの大きさはおよそ…8,100,000㎢と予想されます。」

 その沈黙が一瞬だったのかそれとも長時間であったのか本人たちには分からない事であった。

 だが誰かが沈黙を破った時、場は爆発したように騒がしくなった。

 当然であろう誰がそれほどの大きさと思ったであろうか。

 ハットンが言った大きさはかつて存在していたオーストラリア大陸より大きい。

 D・Bに対して理解がある方であるユーリとアヤでさえお互いの顔を見合わせ動揺を隠せないでいた。

 「静粛に!!」

 その騒ぎを止めたのは議長であるアーサー・ピピンであった。

 議長の鶴の一声に場は静まり返る。

 その機を逃さずハットンは話を再開する。

 「全員が動揺するのは分かります。しかし先ほども言ったようにこれは不確定要素が含まれています。」

 それを聞いてだいぶ聞いていた者の動揺は収まってきたがそれでも気づく者は気づいていた。

 マザーの大きさが推定よりも大きい可能性を。

 「…他にマザーについて分かっている事は?」

 そう言ったのは議員となったスコットであった。

 そのスコットの言葉に対してハットンは首を横に振る。

 「いえ、何も。ですが研究したD・Bから推定するにマザーには少なくとも知性があると思われ、他のD・B同様内部には核が存在していると思われます。」

 ハットンが言う推定に多くの者が頷いた。

 どのようにD・Bが生まれるかは不明であるがマザーを元にしているのであれば構造も似ているのであろう。

 …その核にたどり着くまでどれだけの攻撃が必要かは不明であるが。

 「ですがこちらに有利な点が一つ。DSWが未だにD・Bに有効である事です。」

 確かにDSWに対してD・Bは未だ無抵抗である。

 その事実に皆の顔に笑みが浮かび始める。

 「そして現在急ピッチで局地破壊兵器【ヴァジュラ】を量産中。また高威力砲【オリオン】と異次元転移装置【アルテミス】も後二カ月で建造が完了します。作戦成功に大いに役立つでしょう。」

 「…具体的な作戦は決まっているのでしょうか。」

 アヤが作戦に対する詳細を求めるとハットンは首を縦に振る。

 「では今作戦の詳細を説明させて貰います。」

 そう言うと新たな画像が映し出される。

 「作戦は三段階に分かれて行います。まず第一段階は安全領土の確保。第二段階に向けて、そして増援を引き込めるように領土を安定させます。第二段階では領土を拡大させつつマザーを捜索。マザーを発見しだい第三段階に突入、マザーを撃破しD・Bを滅ぼします。」

 「こちらの動員できる兵力はどれほどなのだ?」

 そうある議員が言うと新たに画像が切り替わる。

 「我がアステルの総兵力、そして別世界からの協力者たちの兵力を含めれば二億五千万以上になります。」

 その事実に久しぶりに歓喜の声が上がる。

 だがD・Bの総数が分からない以上油断は出来ない。

 それ故に軍人たちの顔色は良くない。

 「私から報告する事は以上となります議長。」

 そうハットンが言うとアーサーは立ち上がり皆を見渡しながら言葉を発していく。

 「我々はいち早くD・Bの存在に気付き対処することが出来た。だが決して血が流れなかった訳では…無い。」

 アーサーがそう言うと場は静まり返る。

 大なり小なり、皆D・Bに対して思う事があるのである。

 「だが我々は強き結束と未来からもたらされた力、そして志を共にする異世界の友がいる。恐れる事は無い我々は奴らに勝利する。そして平和を確立しなければならない。」

 そう言うとアーサーは一呼吸おいて議長としての決定を下す。

 「アステル共和国議長、アーサー・ピピンの名において与えられた権限を持って決定を下す!これより四か月後、対D・B殲滅作戦【トゥルースピース】決行を認める!政治に関わる者、軍事に関わる者全てがこの作戦決行に全力を尽くす事を願う!」


 そしてこの決定が行われた四か月後、ついに作戦決行の日が来た。

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