第90話 オリオンからアルテミスへ

 D・Bが巣としているこの世界には何も無い。

 人は勿論として山や海といった自然物も何も無ければ空や大地の世界として無ければならない物が一切存在しない。

 存在しているのは重力の渦が見せている幾何学模様とそこに巣くっているD・Bのみである。

 故にその世界で聞こえる音はD・Bの唸り声ぐらいである。

 だがあるD・Bの聴覚器官にカチカチという音が聞こえてくる。

 辺りを見回しその音の正体を探るとある球体を見つける。

 今まで存在していなかったその球体に興味を持ったのかそのD・Bは近づいていく。

 如何やらその球体は複数個ある模様であちらこちらに浮いている。

 他にも興味を持ったD・Bが近づいて来ている。

 そしてその球体を咥えようとした時それは破裂した。

 破裂した球体たちは黒い光を生み出し周りにいたD・Bたちを飲み込み消していく。

 黒い光が収まるとそこには何も居なかった。

 突如として現れた黒い光と消えた同類たちにD・Bが混乱する中、新たな異変が起こる。

 黒い光が起こった中心から幾つものホールが現れる。

 そしてそのホールから大小様々な艦が顔を出す。

 D・Bの主な戦闘体、人間たちからはハウンド級と呼ばれるものたちには物事を考える力は皆無に等しい。

 だがD・Bは理性ではなく野性にて察する。

 奴らは自分たちを狩りに来たのだと。


 「艦長、ホール間の移動完了しました。」

 「よし、これより一斉射撃を行います!その後MT部隊を展開!辺りのD・Bを殲滅します!撃ち方…始め!!」

 それと同時にユキカゼの主砲、副砲合計14門から繰り出されるエーテルから生み出される光がD・Bを蹴散らしていく。

 「…アカバ特務を出してください。」

 そうアヤが言うと目の前にユーリの映像が映し出される。

 「よっ、侵入作戦は上手くいったようだな。」

 「ええ、DSWを利用した時限爆弾での転移エリアにいるD・Bの一掃。少々大胆な作戦でしたがね。」

 「ま、被害が少なくて何よりだろ?」

 そのユーリの言葉にアヤは深く頷く。

 「…で、フルアームズの調子は?」

 「問題ない。すぐにでも出れる。」

 「ならば他の隊より先行して道を切り開いて下さい。その為のフルアームズですから。」

 「了解。」

 そう言ってユーリは通信を切る。

 「…。」

 アヤはしばらく無言でいたがすぐさま意識を目の前に向ける。

 伝えたい事はまだまだ一杯あった。

 だが今は目の前の敵を蹴散らすだけである。


 「と、言う訳で俺たちが先陣を切る事になった。」

 「了解ですユーリ。」

 ユーリとアイギスはコックピット席に座りながら会話している。

 「コネクター接続開始。」

 アイギスがそう言うと背中に付けられたコネクターがコックピット席と繋がりアイギスの意識がプロメテウスと同化する。

 《ユーリ、フルアームズの扱いについては。》

 「当然予習した。扱いずらい事この上ないがな。」

 《ならば言う事はありません。…行きましょう。》

 「ああ、…行くか。」

 リニアカタパルトに立ちただひたすらに合図を待つ。

 「アカバ特務お待たせしました!!リニアカタパルト何時でも射出準備完了です。」

 「了解、ユーリ・アカバ。プロメテウス・フルアームズ…出る!!」

 ユキカゼをとび立ち目の当たりにするのはただひたすらに広がるD・B。

 絶望感を感じても不思議ではない場面であろうがユーリが感じていたのは不思議なほどの高揚感であった。

 「こりゃどう撃っても当たるな。」

 《ですが敵総数は未知数です。》

 「ああ、だがガムシャラにやってようやくマザーに手が届く。だから最初から全開で行く!」

 新たに肩に付けられた大型のミサイルラックが展開される。

 《ミサイル全弾ロック完了。》

 アイギスがそう言うとユーリは誰に語るわけでもなくD・Bに言葉を放つ。

 「避けてもいいぞ。…避けられるならな!」

 それと同時に眼前が煙で覆われるほどの大量のミサイルが発射される。

 ミサイルは寸分たがわずロックされたD・Bに向かい当たっていく。

 全弾撃ち終わりミサイルラックをパージする。

 そして右手にはクレセントを左手には同じ原理で造られたスピア【ムコツ】を手に取りD・Bに対し個人的な宣戦布告をする。

 「八つ当たりかも知れないがな。…あいつらの仇は撃たしてもらうぞ。こっからはお前らが狩られる番だ!」


 アステルを始めとした様々な世界の連合艦隊は戦況を有利に進めていた。

 最初のDSWの時限爆弾にて確保した領域は250,000㎢ほどであったが時間にして二日ほどした今現在はその三倍ほどに広がっていた。

 ほぼ作戦の第一段階は終了したと言っていいだろう。

 エルドラドの担当は第一段階と第三段階である。

 ユーリは戦況を見ながらそろそろ撤退時だとハウンド級をムコツで突き刺しながら判断していた。

 「アイギス、ユキカゼに撤退の打診を。そろそろ探索部隊にバトンタッチした方がいい。」

 《了解です。》

 と会話しながらもプロメテウスの下にハウンド級に接近を許した損傷した一機のデュカリオンがいたので急降下してそのハウンド級の首を踵にあるブレードで叩き切る。

 「あ、ありがとうございます特務!」

 「礼はいいからさっさと修理してもらってこい。」

 そう言って損傷したデュカリオンをユキカゼに帰艦させる。

 《ユーリ、アルヴィー特務も了承しました。エルドラドに所属している艦は一度エリンに戻るよう命令した模様です。》

 「…その前にアレを何んとかしないといけないようだがな。」

 ユーリの眼前にはハウンド級より遥かにでかいD・Bの群れがこちらに迫ろうとしている。

 大きさはこちらの巡洋艦クラスほどであろうそれはホエール級と呼ばれていた。

 過去にもアステルにD・Bが攻めてきた時、何度かハウンド級と共に攻めてきた事があるので姿事態は驚かない。

 だが問題はそのホエール級が群れをなしてこちらに攻めて来ている事である。

 数はおよそ三十、ユーリといえど流石に躊躇する数である。

 《ユーリ、ユキカゼより連絡です。このエリアにオリオンの矢を放つとの事です。》

 「了解、すぐに帰艦すると伝えろ。」

 そう言うとユーリはユキカゼに帰艦するのであった。


 その頃アステル領のある鉱山跡。

 そこにはただ巨大な穴があった。

 その穴は巨大な砲塔であった。

 対D・B決戦用に造りだされた高威力エーテル圧縮砲、通称オリオン。

 推定威力は一都市を吹き飛ばせる威力とされているがあまりに巨大の為この鉱山から動かせず狙った所に撃てない問題があった。

 その問題を解決するために造られたのはオリオンの上空、大気圏スレスレに存在している巨大な輪。

 大型異次元転移装置、通称アルテミス。

 自力で巨大なホールを作り出すこのアルテミスとオリオンを組み合わせる事により異世界のどこであろうと砲撃を繰り出す事が出来るのである。

 「オリオン、チャージ七十%完了。指定ポイントの敵排除率九十八%と思われます。」

 「指揮官、お願いします。」

 指揮官は頷くと首から下げていたキーを差し込み口に差し込む。

 「オリオン最終セーフティー解除確認!オリオン発射準備開始!アルテミス起動!指定ポイントへのホール開きます!」

 アルテミスの輪の中に巨大なホールが形成されていく。

 一方のオリオンも集められたエーテルが巨大な光の塊となってアルテミスに向けて撃たれるのを今か今かとしているよう。

 「アルテミス、ホール形成完了!ホール安定しています!」

 「オリオン、発射準備よし!カウントダウン開始5,4,3,2,1!!」

 「オリオンの矢っ!放て!!」

 そう指揮官が叫ぶのと同時に巨大な光の束が天へと打ち上げられる。

 光の束はグングンと伸びていきアルテミスが形成したホールに消えっていた。

 そのホールに消えって行ったオリオンの矢は次元と駆けていき戦場へと届く。

 三十ほどいたホエール級はその光の束に飲み込まれ消えて行ったのであった。


 「と、いう事があってからエリンに戻ってきて一年が経とうとしている訳だが。未だにマザーは見つからず、か。」

 「…。そのようですね。」

 「あの世界の広さも不明です。諦めるのは早いかと。」

 ユーリはエリンのある喫茶店にアヤ、アイギスと一緒にお茶をしていた。

 無論アイギスは飲食できないが雰囲気でも楽しめるとの事で同行している。

 「別に諦めてる訳じゃ無い。俺が言いたいのは…。」

 「参戦している兵たちの士気ですか。」

 アヤの言葉にユーリはお茶を飲みながら頷く。

 ここは安い割に質のいいお茶を出してくれるのでユーリのお気に入りなのである。

 「…確かに、アステルの者は実際に被害を受けているからそうそう下がりませんが。」

 「他の世界から参戦してもらっている所はそうは行かない。」

 「早く決着をつけなければいけませんがそもそもマザーを見つけなければ話は始まりません。…悔しいですが我々は待つ事しか出来ません。」

 アヤの言葉に場が静まり返る。

 それが分かっているからこそ、この三人はここでお茶をしているのである。

 だがそう言った時は突如として消えゆく物である。

 「アカバ特務大佐!アルヴィー特務大佐!アイギス特務補佐!ここにいらっしゃいましたか!」

 そう言って店に入って来たのはユキカゼの若い通信オペレーターであった。

 「どうしました。」

 アヤがその兵に近づき聞くがオペレーターは中々言おうとしない。

 店には三人の他にはいないが店長がこちらを見ているのが気になるようだ。

 「…彼は問題ありません。報告を。」

 アヤにそう言われて少し迷っていたが意を決したのか報告してくる。

 「…マザーを発見した模様です。」

 「「「!!」」」

 「発見したのは第十五艦隊。エルドラド艦隊を始めとした部隊の出撃を要請しています。」

 「分かりましたすぐに行きます。」

 そう言ってアヤは若いオペレーターと一緒に店を出ていく。

 ユーリは残っていたお茶を飲み干すと店長と話し出した。

 「悪い、時間が無い。いくら?」

 ―

 「ツケでいいって。…帰って来れるか分からないんだぞ。」

 ―

 「絶対に帰ってこいって…約束は出来ないぞ。」

 ―

 「ハハ、そう言いながらも俺は絶対に生き残るってか。…そこまで期待されたら裏切る訳にはいかないな。」

 「ユーリそろそろ。」

 「ああ分かってる。じゃあまた飲みにくるよ今度はティナと一緒にな。じゃあまたな。」


 「アドルファス。」


 決戦の幕は開かれた。

 勝つのは人の結束か獣の本能か。

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