第64話 前門の虎、後門の…
時は少し戻りユースティアがポイントXと名付けた場所にて設置されたガスア帝国を見張る観測所。
その観測所にて一人の兵士がイライラするのを隠さずウロウロしていた。
「トイレなら早く行ってこい、当分交代要員は来ないぞ。」
冗談交じりに言う隊長の言葉に足を止める。
「もう無理です。」
「何がだ?」
「この状況がですよ!仲間はそれぞれの場所で戦っているっていうのに俺たちは来るかどうか分からないガスアの奴らを見張るだけだなんて!なぁ!お前らもそう思うだろ!」
そう周りの兵士に呼びかけると隊長以外は黙ったままであるが否定の声も上げない。
「今からでも遅くありません!増援に行きましょう!」
「駄目だ。ここから離れるなとの命令だ。」
必死の懇願を軽く受け流されカッと顔が赤くなる兵士を見て隊長はため息をつきながらその兵士の肩に手を置く。
「よく聞け、私を含めここにいる皆がお前の気持ちはよく分かる本当だ。だが既にここの様な主要な箇所ですら最低限にして同胞たちが集まっている。もしここを空にしてガスアが侵略してきたら、もしあのAI野郎をぶっ壊してもユースティアの未来は暗くなる。お前や俺がここに居る意味をもう少し考えろ。」
そう言われて少し頭が冷えたのか肩を落とし何かを耐える様に顔を俯かせる兵士に対し隊長は肩をポンポンと叩く。
「すいません。」
「いいさ、仲間を思う事は悪いことじゃない。それに案外圧勝してもうすでにパーティーでもやっているかも知れんぞ。」
場に久しぶりに笑いが満ちる。
だがその笑いはどこか無理して出してる様に見える。
ここにいる全員が理解している。
隊長が言っている事は現実にはなりえないと。
敵は再生能力を持ったゾンビみたいなMT、それが二千万もいるのである。
ユースティアの一部の防衛を除き全MTをかき集めても十万ほどであるという。
それがどれだけ絶望的な差であるか理解できないほどここにいる兵士たちは愚かではない。
作戦が上手くいっても苦戦は必至、それどころか数に飲み込まれてしまう予想図が頭を覆う。
それでもここにいる兵士たちは笑う。
仲間の、同胞の、友の奮戦を祈りながら。
勝利する姿を想像し、笑うのだ。
「さて仕事に戻るぞ、今にも怖~いやつらがここを襲って…。」
くるぞ。
その言葉を言う前に緊急を知らせるアラームが鳴り響く。
「どうした!」
「レーダーに感あり!一つや二つではありません!」
「隊長!通信が入ってきてます!」
「どこからだ!?」
「こ、これは!?」
場所は移り変わりポイントA、B、Cと共に激戦が繰り広げられていた。
ポイントBでの砂漠にて動きの鈍いMTたちにペンドラゴンの兵士たちが勇猛果敢に襲い掛かる。
ポイントCでは高いガンホリック砦に配置された長距離射撃にて敵を侵攻させずにいる。
そしてポイントA、奇襲部隊の発射が準備されているAAAを守るべく最も多いMTが配置されている。
新型旧型関係なく、熟練の兵や新兵の境も無く皆が獅子奮迅の戦いを見せていた。
しかし、それでも。
「ポイントB!第一防衛ライン突破されました!」
「たった今ポイントCにて第二防衛ラインにて戦闘中の部隊35%の被害です。」
「た、たった十数分でユースティア軍の防衛ラインがこんなに…!」
一人の将軍の思わず零れた言葉に皆が意気消沈する。
苦戦は想像していたがまさかここまで短時間で突破されようとしている。
この現実をなかなか受け止められない将軍の近くで彼女、アヤ・アルヴィーは忙しく指示を出していた。
彼女はポイントAの最終防衛ラインにてグラーフ級の大型戦艦に乗り込み、各戦線に指示を送っていた。
「ポイントBは第一防衛ラインの生存部隊を第三防衛ラインまで下げてください!第二防衛ラインの部隊は無理せず危機を感じたらすぐに下がってください!ポイントCの部隊に後詰部隊を回してください!ガンホリック砦と距離を空けすぎない様にしてください!」
ひとしきり指示を出すと皆に対し睨みつける。
「皆さん顔を上げてください!苦戦は覚悟の上です!前線の兵士たちは意気消沈する暇など無く命がけで戦っています!なら私たちも士気を下げている暇はありません!」
それを聞き周りの兵士たちだけでなく将軍たちも己の仕事を再びし始めた。
「ポイントAの様子はどうですか。」
「現在ポイントAは第三防衛ラインに入っています!このままだと三十分以内に第五防衛ラインに入ります!」
「ッ!」
アヤの中でも焦りが生まれる。
敵の中に長距離の兵器があると仮定するならば第五防衛ラインに入られる訳にはいかないのである。
「奇襲部隊の準備は!?」
「もうあと三十分は欲しいそうです!」
「二十分以内でやってください!」
(二十分…それまで戦線を保たせないと…。あともう少しMTの数があれば…。)
そこまで思い首を横に振る。
(無いものねだりをしても仕方がない。今は少しでも時間を稼がないと!)
「あ、アルヴィー少佐!!」
「何か!」
アヤが呼ばれた方に向いてみると呼んだ通信兵は何か信じられない物を見た様に画面に指を指している。
アヤが急いでその画面を見ると彼女も驚きの顔になった。
何故ならそれはここにいる筈が、いてはいけない筈の存在である。
「ガスアの艦隊、なぜここに?」
人類の戦い、その戦いは開始数十分で風雲急を告げるのであった。
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