第65話 王帝同舟
「ガスアの艦隊が何故ここに…。」
思わず驚きの声がアヤの口から漏れる。
彼女もガスアの存在を忘れていた訳では無いし、彼らがこの混乱に乗じて領土の拡大を画策すると考えなかった訳でもない。
ただその可能性はとても低いとアヤは考えていた。
ガスアが如何に領土拡大に熱心とはいえこのタイミングで休戦協定を破り、自国の防衛を手薄にしてまで来るとは思えなかったのだ。
それに比例してアヤには気掛かりな事もある。
「ポイントXの観測所からの連絡は?事前に連絡はありましたか?」
「い、いえ!全く連絡はありませんでした!」
通信兵に確認を取るが観測所からの連絡は無い。
この事実に対してアヤは二つの可能性を考えていた。
観測所が連絡できない、あるいは破壊された可能性。
ガスアが本気でユースティアに対して侵攻を考えているならばその可能性が高いであろう。
だが万が一にも、希望的考察だとしても、もし観測所が連絡をすべきでは無いと考えてしなかったとすれば…。
事態は一気に好転する可能性がある。
「何をしている!!すぐにガスアの軍を迎撃に向かわせろ!!」
「…いえ、必要ありません。」
一人の将軍の癇癪にも似た怒鳴り声の命令をアヤは冷静な声で静止する。
「な、何を言っている!?見ろ!ガスアは今にもMT部隊を展開しようとしているぞ!早くしなければ多大な損害を受けるぞ!」
将軍の言は正しいとも思えた。
次々に現れるガスアの艦隊は部隊を展開しつつある。
彼の言う通り早くしなければハイロゥの大群との挟撃を受けて壊滅的打撃を受けるのはいうまでも無いだろう。
だがそれでもアヤは曲げなかった。
「全軍に通達!接近してくるガスアの部隊は無視!ハイロゥの迎撃に集中してください!」
「ッ!!もういい!!私の指示を聞ける部隊を…!!」
パンッ!!
将軍が自分の指揮圏内にある部隊にガスアへの迎撃を命じようとすると銃声の乾いた音がした。
アヤが天井に向けて空砲を撃ったようだ。
「私は恐れ多くもユースティア四世様から全軍の指揮を任されています!勝手に部隊を動かすのは命令違反として処罰します。」
「クッ!!」
悔しそうにしながらもそれ以上何も言えないのか将軍は黙った。
アヤは一度、艦のクルーを見渡す。
艦長含め皆何か言いたげではあったが発言する者はいなかった。
「あ、アルヴィー少佐!ガスアが、ガスアが!?」
「落ち着いて報告してください。ガスアがどうしましたか。」
通信兵が次に報告した内容にアヤ以外の皆が驚愕に包まれた。
「ガスアがハイロゥに攻撃を開始しました!!」
その報告にアヤは一人頷くのであった。
その少し前、ユースティア四世は意外な人物からの通信を受けていた。
「こうして通信越しとはいえ顔を合わせるのはいつぶりだろうな。」
《フン、休戦状態とはいえ互いの立場を考えればむしろ当然であろうがな。》
その人物こそユースティア王国と双璧を成す大国であるガスア帝国のトップ、クシュナール・ガインである。
「で、何を伝える気なのだ?これから我が領地を火事場泥棒しに来るとでも伝えるつもりなのか?」
ユースティア四世は顔を顰めガイン帝を睨みつける。
それに対しガイン帝はそれを鼻で笑う。
《周りくどいのは好きではない。単刀直入に言おう。…これよりガスア帝国の誇る艦隊とMT部隊をそちらの援軍にまわす。有難く思うがいい。》
その発言に対してこれを聞いていたユースティアの人間は動揺を隠せなかった。
半信半疑の者もいれば完全に嘘だと思っている者もいる。
とにかくガイン帝の言葉を正直に受け止める者はいなかった。
だがそれも当然と言えるだろう。
ユースティア王国とガスア帝国、休戦状態になってから年月が経つとはいえ長年に渡って争ってきた相手なのだから。
「…それを簡単に信じろと?」
《少なくとも貴様らの観測所の者たちは信じたみたいだぞ、もうすぐ第一艦隊がエリアAAAに着く。》
再び場が驚愕に包まれる。
もう既にガスアは国境を越えこちらに来ようとしている。
もしガイン帝の発言が嘘でこちらを侵略しに来たのであれば大事である。
《メシアに傍受される可能性があるとの事で観測所の者たちにも通信を禁じていた。悪く思うな。》
「…質問がある。何故危険を冒してまで余らを…ユースティアを守ろうとする。」
《別にユースティアを守るために戦わせるのではない。》
四世の発言に若干不機嫌になりながらもガイン帝は語る。
《単純な話だ、数で勝る敵に対して我が帝国だけでは対抗手段が限られてくる。だがもしも同規模の国と不承不承ながらも戦えるとすれば勝てる可能性がわずかながら上がるだろう。一+一と同じぐらい簡単な事だ。》
「うむ…。」
それを聞いて周りの者たちもガイン帝の言葉を信じる方向になってくる。
だがそれでも長年争ってきたという事実が心理的にブレーキを掛ける。
《今は過去の因縁が…と言っている場合ではないことは王もよく理解できるだろう。貴様が言った事だぞこれは人類の戦いなのだと。》
そこまで言うとガイン帝は四世の目を見て力強く言う。
《頼む、ガスアも人類を守る戦いに参加させてくれ。信用しろとは言わない、ただ信じろ。》
ガスアの皇帝がユースティアの王に懇願している。
この事実に信じられないものを見るような将軍や政治家たちを置いておき四世は決断する。
「…分かった、共にメシアの手から人類を守ろう。」
《…フン、決断が遅いのだ。》
口ではそう言いながらもガイン帝のには笑みが浮かんでいた。
《さてそろそろ通信を切らせて貰おう。そちらには次々に忙しくなるだろうしな。》
それだけ言うとガイン帝は通信を切る。
ガイン帝の発言に疑問を感じていると報告が上がって来る。
「報告です!!次々にこちら側に援軍が!!」
『人類の戦い』、その真なる戦いが今始まる。
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