第66話 未来を決める戦い

 夢の行きつく場所の中心、そびえ立つ塔の内部にて巨大な機械の塊が静かに起動している。

 その機械こそアルカディア計画を実行せんと世を混乱の極みに陥れている元凶でもあるAI、メシアである。

 《想定外。》

 機械類だけが静かに起動する場所にてメシアは思案する。

 ユースティア王国と不本意ながら戦闘になってしまったがそれは想定の範囲内である。

 大国であればあるほどアルカディア計画を認めない人間は多くいるであろう。

 それだけならば向かわせてるMT群にて制圧できる。

 死者は出てしまうだろうがそれでもユースティアを落とせれば他の国たちは降伏を選ぶだろう。

 想定外だったのはガスア帝国、いやクシュナ―ル・ガイン帝がユースティア王国に大軍を増援に向かわせた事である。

 その総数はガスア帝国の総戦力の三分の二に当たるであろう。

 悪く言えば冷徹ともいえるガイン帝とは思えぬ采配である。

 さらにメシアの想定外はそれだけではない。

 その他の大小含めた様々な国々からの増援や補給物資だけではない、民間企業つまりは傭兵団体。

 果てには盗賊まがいの事をしていた人間までもがユースティアと共に戦っている。

 これにより順調にユースティアの防衛ラインを突破していたMT群の進軍は一時的に膠着している。

 だがそれでもメシアはこう結論づける。

 《計画に支障なし。》

 どれだけ増援が来ようとこちらのMT群の総数には遠く及ばない。

 戦況も一時的に膠着はしているがすぐにこちらに傾くであろう。

 つまる所、彼らがやっている事は時間稼ぎの何者でもない。

 ユースティアの指揮官もその事を十分理解しているはずである、ならば考えられる手は一つ。

 《奇襲。》

 どのような手段でこちらに来るかは不明であるがそれでも仕掛けてくるのは確実であろう。

 だが、それでも。

 《問題なし。》

 どのような奇襲方法であっても、またどれだけの数がいようとアレがある限りここの守りは盤石といえるだろう。

 《そう、失敗は許されない。》

 メシアはそう口にする。

 すでにここの地下シェルターには何千、何万の人間がアルカディア計画実行のために眠って貰っている。

 地下シェルターはこの塔で最も頑丈で核兵器の使用にも耐えられるものである。

 万が一にもここが戦場になろうと人間には傷一つ付かないであろう。

 そうメシアにとってこれは人間救済の第一歩である。

 その為だけにメシアは存在していると確信している。

 自分が誰によって創造されたのか果たしてこれが自分自身の意思なのかは関係ない。

 故にどれだけ抵抗されようと、どれだけ自分が人間に疎まれようとこのアルカディア計画だけは完遂しなければならない。

 《そう、全ては人類のために。》

 メシアは来るであろう奇襲部隊を迎え撃つ準備を始める。

 

 そのころユースティアの防衛ポイント全ては激戦の様を呈していた。

 ガスア帝国だけでなく大小様々な国や企業がユースティアの増援に現れ一時は混乱したが体勢を立て直し今は連携も出来ている。

 「ノーザンプトンは下がって補給を!ザラはガスアの部隊と共に右翼の増援に向かってください!ポイントCにいる全部隊に通達してください!砦の狙撃部隊の射線を意識するように!ポイントBの全ての罠の場所を援軍に通達!早く!」

 激戦の様相をしていたのは何も戦線だけでは無かった。

 全軍の指揮をしている作戦部、アヤも休むことなく指示を出し続けていた。

 そんなアヤの下についに待ちに待った朗報が入る。

 「アルヴィー少佐!奇襲部隊の準備、全て整ったそうです!」

 「本当ですか!」

 「はい!すでに発射準備も済ませ指示を下さればすぐに行けるそうです!」

 「分かりました。…奇襲部隊に通信を。」

 そうアヤが言うと手元のモニターに奇襲部隊全員の顔が映る。

 その中にはアヤが強く思う人がいるが今はその感情を捨てる。

 「皆さん初めまして、私がこの作戦を立案したアヤ・アルヴィーです。…つまり皆さんを死に行かせる張本人でもあります。」

 アヤの言葉を四人は黙って聞いていた。

 「恨んで貰って結構です。だけどそれでも私は皆さんにお願いする他ありません。…どうか作戦を成功させ全員で帰ってきてください。」

 そう言って頭を深々と下げたアヤは温かな笑いを聞く。

 「そう自分に責を感じるものではないぞ少佐。」

 そうアヤに言うのは親衛隊隊長の肩書を持ち奇襲部隊の隊長でもあるバリー・ガマ。

 「むしろ自分はこの部隊に選ばれたこと光栄に思う。メシアを倒したあかつきには共に語り合おうではないか。」

 「そうそう、一人で背負わないでね少佐。」

 そうアヤに言ってきたのはレナ・アップルビー。

 魔女と恐れられる彼女は爽やかに笑う。

 「へッ、どうせ嫌だっと言っても行かされるんだろ。もし生き残るのが俺だけでも文句言うなよ。」

 そう暗く言いながらも生き残る気が窺われるのは死神の異名を持つアレハンドロ・コナー。

 そして残る一人であるユーリ・アカバはアヤの目をジッと見て言う。

 「心配するな、ここにいる全員生き残る気満々だ。だから少佐は国を守るのに集中してくれ、帰ってきたら更地だった何て笑えないから。」

 「違いない。」

 そう笑いあう四人を見てアヤは安心する。

 無論厳しい作戦なのには違いない。

 もし作戦が成功しても誰一人帰って来れないかも知れない。

 だがそれでも誰一人として悲観していない、生き残る気力がある。

 アヤはせめてもの思いを込めて笑い小さく礼を言う。

 「ありがとう。」

 聞こえるかどうか分からない声ではあったが四人には笑みが浮かんでいる。

 それを確認した後、顔を引き締る。

 「二分後奇襲部隊を打ち上げる!諸君の奮戦努力に期待する!」

 「「「「了解!」」」」


 その二分後ミサイルは四人の戦士を乗せ打ち上げられた。

 真っ青な空を切り裂く様に打ち上げられる様は天上の神に手を伸ばす様でもあった。

 それでもアヤは安心せず全軍の指示に力を注ぐ。

 なぜなら反抗作戦『失楽の蛇』はこれでようやくスタートラインなのだから。

 メシアと人間、人類の未来を決める戦いは激化を予感させていた。

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