第67話 騎士の矜持
ーユースティアを憎んではいないのか?
あの日、騎士の国と呼ばれた我が祖国ペンドラゴンが敗北した日。
…つまりこの俺、クラレント・ゴードウィンの父でありペンドラゴンの獅子と呼ばれたソラウス・ゴードウィンが死んだ日から何度ともなく聞かれた質問である。
この質問の答えは当然決まっている。
「悔しいし、憎い」と。
特区に認定されたからといっても祖国が他の国の一部となった悔しさや父親を殺された憎しみはそう拭いきれるものじゃない。
そう答えると次の質問が飛んでくる。
ー
あの日以来、同胞や仲間から敵となった者までこの質問を何度繰り返してきただろうか。
軍の中心人物であったソラウス・ゴードウィンの息子である俺がユースティアに反旗を掲げればそれに続く人間も多く出てくるだろう。
事実、二年前のユースティアの王都がセリオンという王族に占領された時ペンドラゴンが独立するチャンスはあったしそうすべきと言う意見が出ていた。
この質問に対し俺は憮然としながらもこう答えるのだ。
「無い。」
そう聞いた人間は大抵ポカンとする。
当然であろう現時点のペンドラゴンにおいて元王を除けば一番ユースティアを憎んでいるといってもいいだろうクラレント・ゴードウィンが
ー何故?
言い方は様々だがこれを聞いた人間は大抵こう聞いて来る。
理由としては様々だ。
多少なりともユースティアに恩義がある事や、今現在のペンドラゴンに迷惑を掛ける訳にはいかない事…とか。
だけれども一番の理由を話すと大抵他人は納得しずらそうな顔をする。
この俺、クラレント・ゴードウィンがユースティア王国を憎んでいるのにも関わらず反旗を翻す事をしない理由、それは。
ーこの俺がソラウス・ゴードウィンの息子であるからだ。
「ッ!この野郎!!」
クラレントは周りにまとわりついてきた敵、ユースティアの中央がハイロゥと名付けたMTをランスで振り払う。
振り払われたハイロゥは地に伏した後に動かなくなるがすぐさま周りのパーツを集め再生しようとしている。
そこでランスでハイロゥのエーテル貯蔵部に穴を空ける。
エーテルが漏れ出すのを察しすぐさまハイロゥは傷を塞ぐがそれでもエーテルが減った事で活動時間は短くなるだろう。
再生していくハイロゥを無視しクレラントはすぐさま動く。
メシアと呼ばれるAIが人間の捕獲を始めた。
最初聞いた時は莫迦にしていたものであるが、実際に戦う事になるとは思わなかったとクレラントは頭の中で愚痴る。
迫りくるハイロゥの大群を確認する。
それはまさにMTの海のようで見ている者全てに絶望を与えそうな光景であった。
だがクラレントはそれを見ても絶望はしなかった。
何故ならば今戦っているここはまさにペンドラゴンの大地、自分たちが生まれ育ってきた砂漠の土地であるから。
勝手にポイントBとされ戦地にされている点は思う所が無いわけではないが、今はこの地で戦えることを良しとしようと思い直した。
そんな事を思っていると通信が入る。
「レジーナかどうした?」
「ゴードウィン様、ポイントAからの通達です。『蛇の牙』の射出は成功せり、防衛ラインを一つ下げて持久戦の用意をするようにとの事です。」
「…そうか。」
『蛇の牙』、楽園に喰らいつくMTたちを送る長距離ミサイルを一部の者達はそう呼んでいた。
無事ミサイルが送り出されたのを聞きクレラントは安堵する。
どれだけこちらが頑張っても大元に喰らいつかないと意味がないのだから。
「それにしても…。」
「?なにか。」
「イヤ、何でもない。」
レジーナの不思議そうな顔を横目にクレラントは口には表せない思いを抱いていた。
今回の急襲部隊にはあの男も参加しているらしい。
あの日ソラウス・ゴードウィンを殺し、あの日ともに涙を流した憎いとも言え同族とも言えるあの男が。
(妙な気分だ。)
そしてその男に期待している自分の気持ちにも妙なものを覚えながらもクレラントは嫌な気分にはならなかった。
「ゴードウィン様?」
「ん?ああ、了解した他の奴らを纏めて下がる。」
そう言い切り通信を切ろうとした瞬間であった。
後方から大きな爆発が起こった。
「なんだ!」
クラレントが爆発の方向を向くとそこには爆発によって散った味方のMTの残骸たちが散らばっていた。
そしてその爆炎の先には巨大なサソリの様な影が見えた。
「ッ!巨大ハイロゥ!!」
すぐさまハイロゥの一種であることに気づき方向転換しランスを構え突撃する。
どの様な兵器を構えているかは知らないがあれだけのMTを放置したらどれだけの被害がでるか分からない。
幸いこちらには気づいてはいないようで無防備である。
「取った!」
爆炎を越え巨大MTの横腹にランスが突き刺さった。
…筈であった。
「な!」
ランスは巨大ハイロゥの横腹に突き刺さる直前で止まっていた。
「バリアか!」
粉塵が晴れて敵の全貌が見えてくる。
サソリのような見た目なのは間違いないが本来ハサミである部分には巨大な盾が存在している。
そして尾の部分には…。
「!?不味い!」
すぐさまMTから離れ距離を取るクラレント。
すると元いた場所に光が走る。
尾の部分にはビーム砲になっているようであり、先ほどの爆炎もこれが原因であろう。
自分を追って追従する尾を躱しつつ距離を置かざるえないことにいら立ちを覚えるクラレント。
すると尾に何発かの実弾が当たった。
「ゴードウィン様!お怪我は!?」
「ああ、問題ない大丈夫だ。」
敵MTは追撃を避ける為か尾を下げクラレント達を無視し次の防衛ラインに進んでいく。
「ゴードウィン様、一度下がりましょう。戦艦での主砲でなら破壊できるかと思います。」
「……。」
「ゴードウィン様?」
レジーナの問いかけにも答えずジッと巨大MTを睨みつけ何かを考えるクラレント。
やがて意を決したようにレジーナに命令する。
「レジーナ、お前は次の防衛ラインまで下がれ。後の事はポイントAの司令部の命令に従って動け。」
「ゴードウィン様、何を?」
レジーナが聞くがクラレントは無視し、再び突撃体勢に入る。
その瞬間レジーナはクラレントが何をする気か理解した。
「待ってください!先ほども言ったように戦艦の主砲にて…」
「その間に防衛ラインが幾つ破られると思う。ここで倒しておかないといけないのだ。」
「でしたら私が!」
「今この場で一番馬力があるのはこのランスロットⅢだ。俺が行く。」
「ですが!!」
「レジーナ、命令だ下がれ。」
「っ!…了解しました。」
クラレントの雰囲気に飲まれ何も言えなくなったレジーナは連れてきた部隊と共に後ろに下がった。
「…済まんな、レジーナ。」
レジーナに話した理由は嘘では無い。
嘘では無いが全てではない。
本当の所はあのデカブツを倒すのにこれ以上自分以外の被害を出したくなかったからである。
死に対する恐怖が無いかと問われればあるに決まっている。
だがクラレントにはそれ以上に恐れる物がある。
それは父であるソラウス・ゴードウィンが最後まで守り抜いた物。
騎士としての矜持。
「守り抜くものを守る為に我々はいる。」
ソラウスはよくクラレントに言い聞かせていた。
そしてそれを守り抜きソラウスは死んでいったのだ。
ならば次は自分の番である。
土地を、民を、そして未来を守る為クラレントはいま命を懸ける。
「世界の未来を決める戦いか…。死ぬにはいい舞台だな。」
そういってエーテルの推進力を臨界まで上げる。
「覚悟しろよ!サソリ野郎!!」
そう言いながらクラレントは突撃していった。
巨大MTは防衛ラインを崩すため前進していた。
すると横から高速で接近するMTの反応を感知する。
すぐさまバリアを張ろうとするが今回はランスロットⅢの方が速かった。
バリアが張られる前に巨大MTの横腹にランスが突き刺さる。
「ッ!!」
だが巨大MTの動きは止まらなかった。
すぐさまビーム砲をランスロットⅢに向け発射しようとする。
だがこれもクラレントの方が速かった。
腰に備え付けられていた短剣を発射口に投げつけると見事に刺さった。
暴発を恐れてかビームの発射を取りやめる巨大MTであるが今度は尾でランスロットⅢを叩きつける。
何度も叩きつけられて少しづつ塗装やパーツが剥げてゆく。
それでもクラレントは突進するのを止めなかった。
「とっととくたばれ!このサソリ野郎!!」
衝撃でぶつかり頭から血を流し意識が朦朧としながらも両手にだけは力を込めてひたすら前へと進む。
やがて衝撃に耐えかねランスロットⅢの左腕が取れるがそれでも前に前にと貫く。
そしてそれは巨大MTのエーテル貯蔵部を貫くに至る。
爆発寸前の巨大MTを見ながらクラレントは一人空を見上げながら思う。
「親父、俺はあんたの息子に相応しい戦いが出来たか?」
その疑問は爆発と共に消えっていった。
こうして偉大なる騎士がまたペンドラゴンの地から消えっていった。
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