第68話 楽園の守護者

 夢の行きつく場所。

 そう呼ばれた場所はMTの残骸とそれを利用する者とで静かであったが、今はそれに不気味さが加わっている。

 MTの残骸たちはメシアの手によりハイロゥとなりかつては見えなかった大地が見えている。

 ここで聞こえる音と言えば警戒しているハイロゥの起動音ぐらいではある。

 そこに空から何かしらの反応をハイロゥは拾った。

 すぐさま簡易AIはメシアに情報を送りどうすればいいか対応を求める。

 その0.5秒後すぐさまメシアから指示が送られる。

 《敵、ミサイル、迎撃》

 ハイロゥは所持していた長距離ビーム砲を構える。

 やがてハイロゥの視界内に四発のミサイルが確認できた。

 それにハイロゥは驚く事はない。

 簡易AI達に感情は無くただ淡々と上位存在であるメシアの命令を守るだけである。

 故にミサイルが長距離ビーム砲の射程内に入った瞬間ハイロゥはその引き金を躊躇なく引いた。

 同時に他の場所からもビーム砲が発射され合計四本の光が寸分たがわずミサイルを貫いた。

 ビームに貫かれたミサイルは爆発を起こし空に霧散する。

 ハイロゥは任務を達成したことを確認し長距離ビーム砲を降ろす。

 が、すぐさまメシアからの緊急の指示が送られる。

 《各機、戦闘準備。》

 その指示が何を意味しているのか、簡易AI達には把握出来なかった。

 だが上位存在であるメシアの指示通りすぐさま全機が戦闘準備に掛かる。

 最初にミサイルに反応したハイロゥもすぐに哨戒の状態から戦闘へと切り替えようとする。

 だが突如未だ爆炎が燻る空から高速でこちらに向かうエーテル反応を確認する。

 上空を見上げ反応を確認しようとするハイロゥであったが、そこでハイロゥのカメラに映ったのはビームサーベルをこちらに突き刺さんとこちらに急降下してくるMTの姿であった。


 「ふぅ~、着陸完了。」

 《ギリギリでの反応お見事でした中尉。》

 地上にいたハイロゥの爆発を見届けたユーリは一先ず安堵していた。

 メシア側の迎撃が予定より早くて反応が遅れていればミサイルと共に爆散していただろう。

 「さて、他の三人はどうなっているか…。」

 《ナーガ1より各機へ、全員生きているな。》

 通信してきたのは今回の作戦隊長であるバリー・ガマであった。

 褐色の厳つい男であるが人としての包容力があり歴戦の戦士としての経験を評価され王都親衛隊の隊長となった男である。

 ちなみにナーガとは今回の特別小隊の呼称であり、ユーリはナーガ4となっている。

 《ナーガ2からナーガ1へ、無事に決まってるでしょ!あんまり舐めないでよね!》

 バリーに反抗的とも言えるような発言をしているのは今回の紅一点であり奇襲の魔女として敵対した国から恐れられたレナ・アップルビー。

 ショートカットがよく似合う女性であるが発言などからあまり女性として見られていない事が密かな悩みとか。

 《こちらナーガ3、まだ死に時じゃねぇみたいだな。》

 作戦を共に参加した仲間の多くが死んでいる事から死神として恐れられているアレハンドロ・コナーもバリーに返答する。

 「ナーガ4、作戦行動いつでもどうぞ。」

 《うむ、各機流石だな。では作戦の最終確認を行う…戦いながらな。》

 ユーリが返事をするとバリーは周りを見渡しながら言った。

 既にユーリの周りには多数のハイロゥが周りを囲んでいる。

 他の三機も似た状況なのだろうと思いながらユーリはハイロゥに突撃する。

 《今回の目標は言うまでもなくAIメシアの破壊である。推測ではメシアは中央の塔に本体があると思われる各機そこでまず集合する。》

 《簡単に言うけどナーガ1。無数の敵を突破しながらでしょ、嫌になるわね!》

 《へへ、ピンチになったら何時でもいいな。有料で助けてやるからよ。》

 《なるわけないでしょ!しかも有料って!嫌な奴ね!》

 《お誉めの言葉どうも。》

 《あああ!もう!》

 《…ナーガ2、ナーガ3。頼むから真剣にやってくれ。》

 「…フフ。」

 《どうしましたか中尉。》

 近場のハイロゥを撫で斬りにしながら塔に進撃するユーリは未だ聞こえる喧嘩を聞きながら笑っていた。

 「いや、不謹慎だけど案外面白い連中だなと思うとつい…な。」

 《…まあ、人の感じ方はそれぞれと聞きます。…ファフニールの調子も良さそうですね。》

 今ユーリが操っているのは作戦に合わせておやっさんとパメラが寝る間を惜しんでチューニングした決戦用装備のファフニールである。

 「まあな、ところで…もうすぐハイロゥの壁を突破できそうなんだが…どう思うアイギス?」

 《少なすぎますね。突破するのも大変な防衛がいるものと思っていましたが。》

 そう会話している間にユーリはハイロゥの壁を突破し中央の塔へと向かっている。

 《後方のハイロゥ、こちらを追って来る様子ありません。》

 「奇襲する事を計算していなかったか、それともハイロゥの大群よりも頼りになるがあるのか。」

 《恐らく後者であるかと。》

 「随分自信が有り気だが何か根拠でも?」

 《…自分でも説明出来ませんが人が使う言葉で表すなら…勘です。》


 「全員、集合したな。」

 ナーガ1ことバリーが最後に塔へと到着し全員が集合した。

 「フン、あの程度でくたばるぐらいならとっくに死んでるさ。」

 「ナーガ3はともかくナーガ1、敵の抵抗が少なすぎる様な気がするのですが。」

 「うむ、確かに罠の可能性は高いな。」

 ユーリの言葉に同意を示すバリー。

 アレハンドロも言葉にしないが反論しないということは文句も無いのだろう。

 取り敢えず場が慎重に行くと決まり掛けたが。

 「だらしないね男共は!仲間たちが戦ってくれているのに慎重に何てやってられないよ!突撃あるのみでしょ!」

 そう言うと塔に向かって攻撃を開始しようする。

 「待てナーガ2!少し冷静に―!?」

 その言葉を言い切る前に全員がその場から離れた。

 続いて各MTの警告音が鳴り響き元いた場所にビームが降り注ぐ。

 全員が上を見上げるとそこにはMTが存在していた。

 だが明らかにハイロゥとは違う雰囲気を醸し出していた。

 形態も配色もバラバラであったハイロゥとは違い全体が黒一色で統一されている。

 まるでフルフェイスのマスクを被った人の様な姿をしたそのMTはジィとこちらを見つめていた。

 《初めまして皆さん。》

 「「「「!?」」」」

 突如MTから聞こえてきた声に四人が驚く中、黒のMTは自己紹介を始める。

 《俺の名はメシアと言います。いえ、正確にはAIメシアの機能の一部…ですが。そしてこのMTこそ私の専用機、楽園の守護者たるMTガーディアン・メシアです。》


 楽園を壊さんとする蛇たちの前に現れる守護者。

 人類の未来を掛ける戦いがここでも始まろうとしていた。

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