第62話 「違わない。」
「失楽の蛇…ねぇ。」
「ああ、
ユースティア四世の名の下にメシアに対する反抗作戦が決定し各部署が忙しなく動く中、ユーリとスコットは二人きりで諜報部の一室にて話していた。
「そうだな。」
ユーリは端的にそれだけ言うと少し気になっていた事を聞く。
「ところで、ライアン中佐は?大概こういった時あんたと一緒なのに。」
「中佐は少し私の頼み事で席を外している。」
「こんな時に?」
「こんな時に…だ。」
しばらく二人の間に言葉が無くなり外の慌ただしい声だけが聞こえてくる。
時間がたち口を開いたのはユーリであった。
「まぁ、いいか。」
「追及しなくてもいいのか?」
「した所ではぐらかすだろう?信用していようとその人間に必要ない情報は与えない。あんたはそういう人間だ。」
「フフ、諜報部としては当然だと思うがね。」
そうスコットが言うとユーリも軽く笑って返す。
しばらく穏やかな雰囲気が流れるが突如として霧散する。
「で、今回の作戦。俺は何を無茶ぶりされるんだ。」
そうユーリが聞くとスコットはいくつかの資料を取り出した。
「今回の作戦は無論、三地点の防衛も重要になるが肝は夢の行きつく場所に奇襲する隊だ。本来なら少しでも多くのMTを送り込みたいが長距離ミサイルの都合上四機が限度となる。」
「で、その四人の内の一人が俺だと?」
スコットは静かに首を縦に振る。
そして三つの個人情報の資料を見せる。
「他の三人は以下の通り、まず一人目は王都親衛隊隊長のバリー・ガマ。彼がこの奇襲部隊の隊長を務める。」
言われてユーリは一番上の資料を見る。
軍歴も凄いものであるが、写真を見ても歴戦の勇士といった雰囲気を醸し出している。
「二人目は奇襲の魔女の異名を持つレナ・アップルビー。彼女を入れた奇襲部隊は必ず成功している。」
資料を捲ると勝気そうな女性が映っていた。
たしかに見てみると奇襲作戦に六回は参加しているがそのすべてが成功している。
「で、最後がアレハンドロ・コナー。またの名は。」
「死神。それぐらいは聞いたことあるよ。」
死神、どのような作戦であろうと彼一人は必ず生き残るところから付いた異名である。
ユーリ自身はあった事は無いがその名は有名である。
「何か異論は?」
「無いよ。何も。」
それを聞いてスコットは安心する。
ユーリの性格的に死神の異名を気にするとは思えなかったがそれでも不安は一つ消えた。
後日この事を聞いて不安になったティナが大丈夫かと聞くと。
「フレンドリーファイアしてるなら兎も角、そいつ一人で人の生き死にが決まらんだろう。そいつ一人のせいで人生は変わらないさ。」
とのことだった。
「そうか、これでこちら側は問題ないな。」
「まるで別側面で問題があるみたいな言い方だな。」
そうユーリが聞くと珍しくスコットが「しまった」というような顔をする。
「何かあるなら先に言っておいて欲しんだけど。」
そうユーリにさらに突っ込まれると仕方ないという風に語りだす。
「…一部の者から、君の参加を訝しむ者がいる。」
「……アイギスか?」
そうユーリが聞くと静かにスコットは頷く。
それと同時にユーリもハァとため息がでる。
彼らが言わんとしたい事も理解はできた。
今回の目標であるメシアはAIであることを自称している。
ならば同じAIであるアイギスを疑うのも仕方のない事だろう。
「…他の奇襲部隊のメンツは何て言ってきてるんだ。」
「アレハンドロがやや難色を示しているが他の二人は問題ないと言ってきているようだ。」
「なら問題はない、奇襲部隊の了承が取れているなら他が何て言おうと行動で黙らせればいい。」
実際問題としてアイギスが無くてもユーリは十分な働きを見せてくれるだろうが、それでもアイギスのサポートが有ると無いとでは大分違うだろう。
だがスコットはユーリの様子に何か違和感を感じた。
「…随分と強気だが何か思う所でもあるのか。」
「……生き残ろうと死のうと、あいつ…アイギスとの最後の作戦かもしれんからな…うん、答えはイエスだな。」
この作戦が成功したとしてもそれから先、ユースティアのAI関連は縮小されるだろう。
そして同じくAIであるアイギスも破壊措置を取られなくても初期化という可能性も十二分にありえる。
つまる所、二年以上続いてきたアイギスとの相棒関係はこの作戦にて最後となるだろう。
「…済まんな。私も出来るだけ抵抗してみるが…。」
「止そう。今は作戦を成功させることに集中しないと。所で俺が奇襲部隊に参加している間エーデルワイスや小隊はどうなるんだ。」
「あ、ああ。部隊は一度解散しドロシー君とティナ君はポイントA、つまりエリアAAA地区を。アドルファス君はポイントCのガンホリック砦に配属。エーデルワイスは後詰部隊に配属されるようになっている。」
「そうか…。」
「ちなみにアルヴィー君は今も作戦室で細かな作戦を詰めているよ。フリーゼンの王女も一緒にな。」
「何もいっていないけど。」
「分かるさ長年の付き合いだ。だが一つ分からん事がある。」
「ん?」
「怖くは無いのか?」
「……。」
「この作戦の成功確率はかなり低い、更に奇襲部隊の生存の可能性はまず無いだろう。それでも怖くは。」
スコットがそこまで言うとユーリによって遮られた。
そう今までスコットが聞いたことが無いような大爆笑によって。
大爆笑はしばらく続きようやく収まってきたユーリはスコットに言う。
「い、今更なにを言うかと思えば。成功確率が低い?生きて帰って来る保証が無い?そんなの少年兵時代に嫌というほど味わってきたさ。疲れてついにボケが始まったか?」
「今までとはレベルが違う!今回は本当に!」
「違わないさ。」
興奮した様子のスコットをユーリは冷静に受け止める。
「違わないさ、俺はやれる事をやる。あんただけじゃない俺を信じる全ての信頼を背負って。今までやってきた事さ、だから。」
そう言うユーリの目は嘘偽りなく澄み切っていた。
「成功して、それで生き残ってみせるさ。」
メシアの軍団がユースティアに接近するまであと少し。
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