第46話 その絶望は希望を語る

 エーデルワイスのクルー全員でこの事態の収拾を図る事になり艦内はそれぞれがやるべき事の為忙しなく動いていた。

 その中でユーリとアリックスとジャックは一番厄介であろう事案に取り掛かっていた。

 即ち【言い訳作り】であった。

 『貴様ら!ふざけているのか!!』

 という訳で現在三人はこの場で最も階級の高い提督の艦グラーフ級一番艦【アイゼン・グラーフ】に通信を行っていた。

 そして彼らは提督の副官にお叱りを受けている。

 その内容はエリンに戻る理由にあるのだが…。

 『忘れ物をしたからエリンに一度戻る…などという言い訳が通じると本気で思っているのか!今どきジュニアスクールでもこのような言い訳通用しないぞ!?』

 無論こんなふざけた内容なのには理由がある。

 現在セリオンの勢力は未知数であり提督もその中に入っている可能性も捨てきれない。

 なのであえてふざけた理由をつけ相手方の様子を窺って見たのだが…。

 (よ、予想以上に反発が大きい。)

 (やはり時間を使ってでも問題の無い文言を考えるべきだったのでは。)

 (今更悔いても仕方ない。だがこのままではお叱りの言葉だけで終わってしまう。)

 『貴様ら!聞いているのか!』

 副官にバレないように小声で話すがその様子が副官の怒りに油を注ぐ。

 三人がどうやってこの場を切り抜けるか思考を巡らせている時である。

 『やかましいぞ。少し静かにしろ。』

 向こう側から威厳のある声が副官の怒声を止ませる。

 そして副官と入れ替わりに通信に出てきたのはゴツゴツとした体つきをした無精ひげを生やした大男である。

 この男こそ大国であるユースティアの軍部の中でもトップに当たる地位である提督の階級を持つヴィクター・フォルクマンである。

 ヴィクターはしばらく何も言わずこちらを見続けている。

 ただそれだけだというのに三人に途方もない緊張感が迫ってきていた。

 『で、一度エリンに戻りたい…との事だったな。』

 「は、はい。その通りであります。」

 ユーリが若干動揺しながらもそう答えるとヴィクターは大きく頷き

 『そうか、だったら早く行くといい。』

 という言葉が返って来た。

 その言葉に通信の向こう側から副官が何やら言っているがこちら側の三人もこの返事には驚いた。

 「よ、よろしいのですか?」

 ジャックが恐る恐る聞くがヴィクターは椅子に大きく腰掛けながら答える。

 『構わん、艦の一隻や二隻いなくなった所で戦況に変わりはない。まぁそれでも早く戻りたいというのならこの近くの基地に戦艦用の長距離ブースターがある連絡を入れてやるから用事を早く済ましてこい。』

 この時点で三人とも提督はセリオン側ではない事が確信出来た。

 でなければ戦列を抜ける許可どころか長距離用ブースターまで用意してくれる訳がない。

 「感謝いたします。ではこれにて。」

 とアリックス、ジャックが指示を出すために足早に通信室を出ていく。

 そしてユーリも出ていくために通信を切らせようとすると。

 『君がユーリ・アカバだな。』

 「は、はい。アカバ少尉であります。」

 『うむ。少尉の武勇伝は色々と聞いている。そんな君に一つ聞きたいことがある。』

 「?何でありましょうか。」

 『少尉、君は自分がこれからやる事を正しいと思うか。』

 「……。」

 ヴィクターの問いにすぐには答えられないユーリだったがやがてその唇がゆっくりと動き出す。

 「正直わかりません。ですが正しい正しくないはこの際関係ないかと。」

 『ほう。』

 ユーリの返しに興味を持ったのかヴィクターは続きを促す。

 「この世全てが正しいか正しく無いかの二択では計れない事ばかりです。だから重要なのはその選択が未来のからみて正しいかでは無く今、正しい事を行えるか。私はそう思います。」

 『フン、中々面白い返しだった。では少尉…死ぬなよ。』

 そうヴィクターが言ってからアイゼン・グラーフとの通信が切れる。

 「…ハァ。疲れた。」

 通信が完全に切れたのを確認したのちユーリは壁に寄りかかりため息まじりにボヤく。

 ともあれこれで後ろから刺される可能性は低くなった。

 そう考える一方でユーリは今現在エリンはどうなっているかと思いを馳せていた。


 その頃ユースティア王都、エリン。

 普段であれば様々な人々で賑わっているはずのこの都市も今はゴーストタウンのように静かであった。

 その理由としては数日前から反逆者を捕まえるという理由で出されている外出禁止令の為である。

 少しでも違反すればどのような人間に関わらず牢に入れられるとあってメインストリートにも人一人いない。

 そんな静まり返った王都の中心にあるユースティアの王宮。

 その玉座に座っている男性こそがこのユースティアの王、アリアドス・ユースティア四世。

 だが今現在国の主導権を握っているのは彼ではない。

 その王を取り囲むように銃を向けている男たちの中心にいる男。

 この男の名はセリオン・ユースティア。

 王族であり今回のクーデターの主導者である。

 「セリオン、どういうつもりなのだ。」

 「どうもこうもこれが答えだ、四世。」

 「余は形は違えどお前もユースティアを愛し栄えていくために尽くす者だと思っていたそれを。」

 四世がそこまで言うとセリオンは大声で笑いだす。

 周りの兵が混乱する程の爆笑が続きやがて収まるとセリオンは呆れたように四世に語り掛ける。

 「いや失礼。全然理解が及んでいない事に思わず、な。」

 「どういう意味だ。」

 「私はユースティアの為に立ち上がったのだ。そして今の貴様の脆弱な方針ではなくユースティアを最も偉大な、誰もがひれ伏す様な国へとするのだ!その為ならば手段は選ばん!だまし討ち、毒ガス、暗殺!その果てにユースティアは唯一無二の国へとなるのだ!」

 「そ、そのような事!許されると思っているのか!」

 セリオンの白熱していく宣言に思わず怒鳴る四世であるが彼は止まらない。

 「それは全て勝者が決める事!すなわちユースティアが、俺が決める事だ!安心するがいいガスアを滅ぼす、その時まではお前はユースティアの王だ。だがそれが終われば俺はユースティア五世として全ての敵を滅ぼそう!」

 妄想の世界に入ったのか再び笑い出すセリオンを見つめながら四世は祈る。

 この絶望セリオンを倒す勇士の到来を。

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