第52話 散華
地に落ちていくカーミラのファフニールを見てユーリは大きく呼吸する。
そして自分のMTをカーミラ機のそばに着陸する。
落ちた衝撃にて飛行するためのスラスターなどは大破しているためもう動くことは出来ないであろう。
「…アイギス、パイロットは生きてるか?」
《微弱ですが生命反応があります。…救助しますか。》
「そこまで手を貸すほどの時間は無いだろう。生きてるなら一人で何とかするだろう。」
「…レディーを助け起こさないのはどうかと思うわよ。」
表示が荒れている通信越しにカーミラはユーリに笑いながら文句を言う。
だいぶ画像が荒れているので分かりずらいが墜落した衝撃によってか頭からは出血しており右肩を押さえている。
「…怪我しているんだろ?大人しくしておくんだな。」
「命は取らないつもり?もしかして私に惚れたかしら?」
「アホ。」
からかいだと分かるカーミラの様子に短く本人にはこれ以上ないほどぴったしなツッコミを入れる。
「いちいち止めを刺す手間がめんどくさいだけだ。ホントはこうやって話す時間も惜しいんだけどな。」
「そうねそれに関しては申し訳なく思っているわ。だから二つ貴方が勝ったご褒美にあげる。ー--とー--を、ね。」
《システムデータ問題なく作動中。ウイルスの可能性無し。問題ありません少尉。》
「あら、疑っていたの?傷つくわ。」
カーミラの言うご褒美を通信にて受け取るアイギスの様子に彼女は笑みを受けべながらからかう。
《こんな場合にどのように返せばいいかは未だ勉強中ですが分かる事もあります。特別傷ついていませんよねカーミラ・エッツオ。》
「あら、バレちゃったかしら。」
「で…これからどうするんだお前は。」
話の流れを切るようにユーリがカーミラに問う。
受け取るべきものは受け取ったのでなるべく早く皆の下へ行きたいがこれを聞いとくべきだと頭の中で何かが訴えていた。
それに対するカーミラの答えはシンプルな物であった。
「どうするも何もないわね、ここで終わりよ。」
「……そうか。」
何か?とはユーリは問わなかった。
こうして話している間にもカーミラの出血は止まらず顔も青白くなっていく。
いや、ユーリが質問したこと自体ナンセンスだったのかも知れないがそれでも質問せずにはいられなかった。
「介錯…いるか?」
「いいえ、必要…ないわ…。」
カーミラは震える手でコマンドを入れていく。
「自爆か。」
「ええ、死ぬ時は綺麗にしてから逝きたいのよ。なんと言ったかしら?ほら立つ鳥跡を濁さず、と言うやつよ。」
カーミラが動いていた手を止める。
後一つ入力すれば自爆のカウントダウンが始まるだろう。
「何か…言う事はないかしら?」
(あるとは思えないけどね。)
何故こんな事を聞いたのか自分でも分からないがカーミラはユーリに質問する。
止めて欲しいわけでも無いのにと心の中で問いていると意外にもユーリから「無い」以外の言葉が返って来た。
「二つも貰っといてあれだが…。もう一つ貰いたい物があるんだが。」
「…フフ、意外と欲張りなのね。けど今の私に渡せるものがあるかしら?」
「あるぞ、お前が使っていた得物。貰えるか?」
ああ、と心の中で納得するカーミラ。
確かにあの大剣はかなり丈夫に作られており近くに落ちているが多分問題なく動くだろう。
この先にアルティメット・レックスが布陣していることは既に伝えている。
先ほどの戦いでビームサーベルを両方とも失っているので近接武器がコンゴウだけでは心許ないのだろう。
「…いいわよ。…その武器お気に入りだから…長く…使ってあげてね。」
意識が朦朧し始めているのか途切れ途切れになりながらカーミラは答える。
了解を得たユーリは大剣を拾い、止めていたスラスターにエーテルを流す。
「ああやっぱり、一つだけ伝えておこうか。」
「え?」
仲間の下へ向かうかと思われたユーリは一言だけカーミラに伝える。
「いろいろあったけどあんたの事、割と嫌いでは無かったよ。」
そう言うとユーリは今度こそ先に向かって空を飛んでいく。
一方カーミラはしばらくポカンと口を開けていたが、それは徐々に笑みへと変わっていく。
「まったく、これから死のうという人に伝える言葉じゃないわね。」
そう言うと霞んできた視界の中、震える手で最後のコードを押す。
押した瞬間、警告音が鳴り響き自爆までの時間を教えてくるがすでに目も耳もそれを理解するほどの力は無かった。
(それにしても楽しかったな…。)
そのような中でカーミラはユーリとの事を考えていた。
ユーリとの思い出は殆どが戦いの物であったがそれでも構わなかった。
思い出を一通り思い出すと、今度は想像をする。
もし帝国を出ていなかったら?
もし彼に勝てていたら?
…もしこれから先も彼と戦えたら?
そこまで思いそれを打ち消す。
それを拒否したのは他の誰でもなく自分である。
だからその先を想像する権利は自分には無いと思いながらある事に気づく。
(あぁ、もしかしてホントに彼に…惚れていたのかもね。)
その切っ掛けは自分でも分からない。
クリエントで会った時かも知れないし、もしかして最初から惚れていたのかも知れない。
(だと、すれば…。意外と。)
自分の人生は誇らしいものでは無いであろうと勝手に思っていた。
期待してくれた人、大切な人を捨てて過ごしてきたのは正義も何もない血まみれのもの。
だから恋愛なんて上等な事出来るとも思っても見なくて。
少しでも、それが恋愛という感情じゃ無くても。
少しでも自分を好いてくれた人がいたならば、存外にこの人生。
(悪いものじゃ…無かったかもね。あなたはどう思う?私の…王子様。)
ユーリが先に進む後方で小さく何かが爆発した音がした。
カーミラ・エッツオ。
凄腕で鳴らしたこの傭兵の最後はたった一人を除き誰にも知られず、それこそ花のように人知れず散った。
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