第72話 どこまでも未来を追いかけて

 夢の行きつく場所中心部、三対一となったメシアとの戦いは非常に厳しい状況であった。

 バリーがライフルで動きをけん制しようとするが、ガーディアン・メシアは重装甲を弾丸を気にせずそのまま突っ込んでくる。

 ガーディアン・メシアがビームネイルを振り上げバリーのMTを引き裂かんと振り上げる。

 「やらせるか!!」

 そこをユーリとアレハンドロが大剣とビームサーベルで切りつけようとするが。

 「チィ!!」

 「またか!」

 切りつける瞬間にガーディアン・メシアは急速に後退し回避する。

 内容は多少違うが似たようなことが何度も繰り返されてきた。

 「まったく、嫌になるな。あの装甲と機動力。」

 「ナーガ3、愚痴るのは終わってからにしろ。」

 「ナーガ3了解。しかしどうするつもりですか。」

 「…遠距離がダメなら、直接叩く他あるまい。」

 バリーはそう言うとライフルを捨て両手でビームアックスを握る。

 それに習いアレハンドロもビームサーベルを構える。

 三機による突撃をしようとした時であった。

 再びメシアからの通信が入る。

 《もう止めましょう。これ以上は見るに堪えません。》

 突如として通信してきたメシアに驚きつつバリーが返答する。

 無論その間もガーディアン・メシアの動きには注意を払って。

 「その発言はつまり我々に降伏しろ、と言っているのか。」

 《その通りです。》

 ガーディアン・メシアは両手を広げその姿を見せつける様に。

 いや、損傷を見せつける様にしていた。

 《ご覧ください。この戦闘中あなた方が与えられた損傷はごく僅か。比べてあなた方は損傷はそこまででなくとも弾薬、エーテル残量も心許ないはず。》

 「っ!?」

 メシアの発言通りであった。

 これまでの交戦で三機とも弾薬もエーテル残量もかなりの量を使ってしまった。

 このまま戦闘を続ければこちらのエーテルが尽きるのは時間の問題である。

 《アップルビーさんは不幸な結果となりましたが、あなた方まで死ぬことはありません。どうか賢明な判断をお願いします。》

 その言葉にバリーは思わず心が揺れてしまった。

 メシアは何も大量虐殺をする訳ではない。

 ただ人類の在り方を変えようとしているのだ。

 その心の隙を突くようにメシアは語り掛ける。

 《ここであなた方が降伏しても誰も責める者はいないでしょう。あなた方は頑張ったそれは自分が証明します。どうか私に任せて下さい。必ずあなた方だけでなく人類すべてを導いてみせます。》

 バリーだけでなくアレハンドロにも心が揺れる。

 バリーには家族がいる、妻と子どもが二人。

 アレハンドロも想い人がいる。

 その人たちの幸せを考えるとメシアの発言が正しいのではないかと思われる。

 そんな中ユーリはコックピットで一人ため息ををつく。

 ユーリが何か言おうとした時、先に声を出した人物がいた。

 いや、正確に言えば人物では無くAIであるが。

 《随分と神様気取りなのですね、AIメシア。》

 《AIーGISー01?》

 今まで黙ってユーリのフォローに回っていたアイギスがメシアに話し出す。

 アイギスの発言が意外だったのかメシアは疑問を投げかける。

 《AIーGISー01、いきなり何を言い出すのでしょうか。私はただ人類が誤った方向に行かない様に…。》

 《それが神様気取りだと言っているのですAIメシア。人間の未来は人間自身が切り開くものです。》

 《…。》

 アイギスの思いもよらぬ発言に一瞬メシアの言葉が止まる。

 《話になりませんねAIーGISー01。人類に任せた結果がこの世界なのでは。》

 《話にならないのはこっちですよAIメシア。あなたは人間を全く理解していない。》

 《その様な事はありませんAIーGISー01。人類を導くために我は人間を学びました。人類の歴史も人類の生活についてもです。》

 《だけど人間の可能性は学んできてないでしょう。》

 《可能性…?》

 《人間は時として不可能な事と言われていてもそれを成し遂げる事がある。その理由をあなたは説明できますか。》

 《……。》

 メシアは完全に黙ってしまう。

 メシアの思考回路では答えが導けないのだ。

 《答えられないでしょう。答えは分かっていてもあなたの思考パターンがその答えを否定している。》

 《…あなたの言う人の可能性というものですか。》

 《そうです。人は可能性を追い求め何処までも行く。そしてあなたも私もその可能性の産物です。その私たちが人間の可能性を閉ざす事をしてはならない。》

 《…ですが時としてその可能性が人類の未来を閉ざす事になるやも知れませんよ。》

 「確かにな、そういう事もあるかも知れない。」

 《中尉。》

 突然間に入ってきたユーリ。

 メシアを肯定する発言だがアイギスは不満は無かった。

 自分に可能性を教えてくれたこの人がそう簡単に屈するわけが無いと。

 「だがなメシア。その可能性が不安定な限りこういった考え方もできる。【人類の未来がより良くなる可能性】だ。」

 《……詭弁ですね。》

 ユーリの発言をそう切り捨てるメシアであるが当の本人は笑っている。

 「かも知れないが、少なくとも可能性が無いから皆が同一存在になりましょう!という話よりは俺はマシだと思うぜ。そして多くの人間がそう思って今お前に反抗している訳だ。」

 《……。》

 「メシア、お前にすがる人間もいるだろう。けれど俺たちは可能性を信じて戦わせてもらう、例え結果がどうであろうとな。」

 《中尉。》

 「アイギス、よく言い切った。」

 《中尉の相棒ですから。》

 《…私は。》

 突如としてガーディアン・メシアが震えだす。

 いや姿だけでなく声にもどこかノイズが混じりだした。

 《私は!僕は!俺は!自分は!当方は!小生は!当機は!!!!!!!!!!!》

 「挑発しすぎたか。」

 《そのようです、中尉気をつけてください。》

 その返事をする前にガーディアン・メシアが今までにない速度で突撃をしてきた。

 (!ガード!!間に合うか!?)

 急いでユーリも大剣を間に滑り込ませようとする。

 今までのガーディアン・メシアの攻撃はコックピットを外した攻撃が多かったが、今回はビームネイルをコックピットにむけて突き出して来る。

 完全に殺しに来た攻撃が当たるかどうかという所でユーリ機を何者かが付き飛ばした。

 「!ナーガ1!?どうして。」

 付き飛ばしたのはバリーであった。

 ビームネイルは深々とバリー機のエーテル貯蔵部に突き刺さっていた。

 「フフ、この敵の発言に揺さぶられる老骨と可能性を信じる若き血と機械。命を比較するまでもなかろう。」

 ガーディアン・メシアの腕をしっかりと掴み抜けないようにしながらバリーは言う。

 「アイギス、と言ったか。お前の言葉、確かに届いたぞ。だからこそ、この老骨は可能性を広げてやろう。」

 そう言うとバリー機はガーディアン・メシアに関節技をきめ始める。

 ガーディアン・メシアは力任せに振り払おうとするがそれでも剥がれない。

 やがて限界を迎えたガーディアン・メシアの右腕が派手な音を立て本体と離れる。

 そしてバリー機は大きくガーディアン・メシアからも味方からも離れる。

 そして離れる前にアレハンドロ機にE-51を渡す。

 「ナーガ3!ナーガ4!後は頼む!!ナーガ4【スクルド】の使用を許可する!」

 「!!」

 「若者たち!後は頼む!!」

 そう言い残すとバリーは機体に突き刺さったガーディアン・メシアの右腕と共に爆散する。

 《…無駄な行為です。》

 そう言いながらガーディアン・メシアは立ち上がる。

 《確かに右腕は失いました。そしてこの機体に修復機能はありません。ですがそれだけです。こちらの有利に違いはありません。》

 《まだ理解できないようですねメシア。》

 「可能か不可能かじゃなくてやるかやらないか、だ。今からその証明を見せてやる。」

 ユーリは静かに深呼吸を一つ入れてからアイギスに命令する。

 「アイギス!!システム・スクルド起動!!」

 《了解、スクルド起動します。》

 それと同時にガーディアン・メシアはユーリのファフニールを見失う。

 すると横から大剣による斬撃が繰り出される。

 弾き飛ばされたガーディアン・メシアがファフニールを確認すると発光していた。

 「《見せてやるよメシア!可能性を追い求めた一つの結果というやつを!!》」

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