第73話 真価

 「俺のファフニールにリミッターを?」

 「うむ。」

 時はスコットと諜報部にて会話していた頃に遡る。

 決戦用に調整したファフニールについて最終確認をしているとユーリはスコットから機能の一部にリミッターが掛けられる事が告げられる。

 「システム・スクルドに合わせてファフニールのエーテル放出量を上げる事により更なる高速機動を可能にしたがそのぶん体に負担が増す。その為のリミッターだ。」

 「俺の身の心配だけじゃ無いだろ?本音は?」

 ユーリがそう聞くとスコットは半笑いをする。

 「察しがいいな、確かにそれだけではない。だがお前は知らなくてもいい話だ。」

 「…まあ、そういう事なら。」

 スコットの言い方から恐らく上層部の都合というものであろう。

 滅亡の危機にあっても中々こういった事情は無くならないらしい。

 「で、その解除はどうすればいいんだ?まさか死にかけても使えない、って事は流石に無いだろう?」

 「ああ、システム・スクルドの使用に関しては今回の隊長であるバリー・ガマに一任されるようだ。…なぁユーリ。」

 終わりかと思っていた会話に続きがあった事に驚きながらもユーリはスコットの話に耳を傾ける。

 「本来は私はあのようなシステムを使って欲しくない。だがお前が死ぬところは更に見たくない。だからいざという時は何を使おうと生き残れ。」

 「…何をいまさら。死ぬべき時以外では死ぬ気は無いよ。」

 「そうか…。ああ、言い忘れていたがシステム起動時には青白く発光するようだ。」

 「は?…なんで?」

 「高濃度のエーテルにはよく見られる現象らしい。良かったなより目立てるぞ。」

 その言葉にユーリは笑いが漏れ出す。

 つられてスコットも笑い出し部屋は温かな雰囲気に包まれた。


 そして時は戻り青白く発光しているファフニールはガーディアン・メシアを押していた。

 ガーディアン・メシアが右腕を失っている事を差し引いてもファフニールの戦闘力向上は明らかであった。

 高速で移動しながら左腕を振るいビームをまき散らすガーディアン・メシアであるがユーリはその僅かな隙間を縫うようにして躱していき距離を詰めていく。

 そして大剣を振るうファフニールに対しガーディアン・メシアはビームネイルにて受け止めるが相殺しきれず吹き飛ぶ。

 一見して圧倒しているがエーテルの残量を考えればユーリの方にも余裕はない。

 だがユーリは徹底的にガーディアン・メシアを攻める。

 そして遂にその攻めが結実する時が来る。

 ユーリの大振りの攻撃の隙を狙いガーディアン・メシアのビームネイルがコックピットに向けて振るわれる。

 だがユーリは大剣を返し左腕を大きく弾く。

 圧倒的な攻めに焦ったかユーリが仕掛けたフェイントにメシアが引っかかったのである。

 「《喰らえ!!》」

 そして再び大剣を振るう、今度は邪魔は入らなかった。

 チェーンソー機構が仕込まれた大剣は大きくガーディアン・メシアの装甲を削っていく。

 だがファフニールが大剣を振り切ると大剣はガーディアン・メシアの装甲の硬度に耐え切れず折れてしまう。

 だがその傷痕は目に見えて大きく刻まれていた。

 損傷のせいかガーディアン・メシアの動きが少し鈍くなる。

 ほんのわずかな隙ではあるが、その隙を見逃すほどユーリは甘くない。

 マシンガンを両手に構え最高速度でガーディアン・メシアに突撃をする。

 そしてガーディアン・メシア損傷にマシンガンを押し付けるとゼロ距離射撃をしながら特攻する。

 やがてガーディアン・メシアは塔に衝突し押し付けられる。

 そしてユーリはE-51を取り出し更に広がった損傷部分に押し付ける。

 そうした後、今度は後退しながらE-51を狙いマシンガンを撃つ。

 結果E-51に弾が当たりガーディアン・メシアを巻き込み大爆発を起こす。

 爆発を確認すると同時にファフニールの発光も徐々に収まっていく。

 「ハァ、ハァ、ハァ。」

 《お疲れさまでした中尉。》

 肩で息をしながら笑みを浮かべるユーリと労いの声を掛けるアイギス。

 爆発による爆炎とエーテルの反応で確認は出来ないがそれでも倒しきったと思えるほどの攻撃であった。

 「フゥ、まだこれからだ。メシアの本体を倒さない事には戦いは…。」

 《中尉。》

 その言葉に反応できたのはユーリだからか、それとも完全に気を抜いてなかったからか。

 いずれにせよ突如として攻撃してきたガーディアン・メシアのビームネイルで致命打を喰らわなかったのは幸運と言えただろう。

 だが代償としてファフニールの右腕は肩から持っていかれた。

 「!?まだ動けるのか。」

 《想定以上の装甲ですね。》

 と言ってもガーディアン・メシアも既に虫の息といえる状態であった。

 中心部には大きな穴が開いており向こう側が見えており機体のあちこちから火花が爆ぜている。

 ユーリは残った左腕でビームサーベルを構える。

 ガーディアン・メシアも二本しか展開出来ていないがビームネイルを構える。

 両者が再び衝突しようとした時であった。

 何かがファフニールに投げられると同時に通信が入る。

 「おいおい、俺をのけ者にして楽しむなよ。俺も混ぜろ。」

 そう言ってガーディアン・メシアを羽交い絞めにしたのはアレハンドロのMTであった。

 「ナーガ3!!」

 ユーリが投げつけられたものを確認するとE-51であった。

 「お前は十分楽しんだろう?ここは俺に譲れ。代わりに一番の功績はやるよ。」

 そうアレハンドロが言うと彼のMTから自爆サインが出ている。

 「!ナーガ3、そんな事しなくても。」

 「念には念を入れなきゃな。なぁに、道ずれにするにはちょうどいい相手だ。」

 アレハンドロが自爆しようとしているのに気が付いたのであろう、ガーディアン・メシアは必死に振り払おうとするが既にそれだけの力は無かった。

 「行け!!ナーガ4!!こうしてる間にも人が死ぬぞ!!」

 「ッ!!…後は任せた、ナーガ3。」

 そう言ってユーリは先ほどガーディアン・メシアを爆発させた時にできた塔の穴を使い中に突入していく。

 途中後方から爆発音がしたがユーリは振り返らなかった。


 「これが塔の中心部…。」

 《…そのようですね。そしてあれがAIメシアの本体のようです。》

 塔の中はシンプルな造りで中心部には迷わずついた。

 驚きだったのはその中央に鎮座する装置の大きさ、ほぼ塔と同じ大きさを持っているこの装置こそがアイギスの言う通りAIメシアの本体なのだろう。

 そうなると不安材料が出てくる。

 「…これ一個で破壊しきれるか?」

 《正直に言わせてもらえば厳しいかと。》

 「だよな…ならやる事は一つだな。」

 《…自爆ですか。》

 「他に何か名案あるか?」

 《…いいえ。》

 「だろ。じゃ、さっさと。」

 《やめた方がいいでしょう。それでも私は破壊しきれない。》

 「!!メシアか。」

 《ユーリ・アカバ中尉、そしてAIーGISー01。話をしましょう。》

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