第70話 あなたは私の…(前編)

 ユーリ達がガーディアン・メシアとの戦いを始めたころ各ポイントでも激戦が繰り広げられていた。

 その中でもやはり戦線の大部分が配置されているポイントAでは正に混戦というのが相応しい状況であった。

 その状況下の中にティナとドロシーの二人もいた。

 「当たれ!!」

 そうティナは叫びながらガトリング砲をハイロゥに向けて掃射する。

 ビームの弾丸が眼前にいたハイロゥに吸い込まれるように当たる。

 そうして動けるものの損害を受けたハイロゥにドロシーが接近してバヨネット・ハンドガンにて切り裂く。

 切り刻まれたハイロゥらは爆発し塵となっていった。

 だがすぐに別のハイロゥがやって来てこちらに攻めてくる。

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…。」

 「…ハミルトン。一度後退しなさい。」

 肩で息をしているティナに対しドロシーは静かに後退を勧める。

 「え?…だ、大丈夫だよ!?ドロシーさんこそ一度休んだ方が…。」

 「…さっき補給から戻ってきたところなんだけれど。」

 「あ…。」

 そう言えばそうだったと言いたげな顔をするティナに向かってドロシーはため息をつく。

 「あなた一度も補給にも戻ってないでしょう。死にたく無いならここは任せて一度戻りなさい。」

 「わ、分かった。」

 そう言って補給に戻ろうとしていたティナだが急にドロシーの方に振り向く。

 「ドロシーさん!!」

 「?何。」

 「…この戦いが終わったらさ、また一緒に買い物とか…しようね!!」

 「…ハイハイ、いくらでも付き合うから早く行ってきなさい。」

 そう言われるとティナは今度こそ後方に下がっていった。

 「さてと…。」

 ティナが完全に後退したのを確認し終えたドロシーは改めて眼前の敵に向き合う。

 開戦してからどれほどの時が経過しているかも分からないほど戦ってきているが敵は一向に減る様子は無い。

 ハイロゥの圧倒的な数の前にユースティアをはじめとした多国籍連合は押されつつある。

 (けど…。負ける訳にはいかない。)

 だがドロシーの目に、いや今戦っている者たちに諦めの感情はなかった。

 国のためでなく人間という種族のため、未来のためという大義が彼らを振るい立たせていた。

 だがそれとは別にドロシーは無意識での理由が大きかった。

 (まったくハミルトン。こんな時に緊張感の無い事を…。)

 ハイロゥと戦いながらドロシーが思うのは先ほど別れたティナの事。

 (普段から買い物してるでしょうに。…ん?)

 ここでドロシーは自分に対して疑問に思う。

 何時からだろうか何時から自分は。

 (付き合わされる事を疑問に思わなくなったの?)

 最初はとても嫌々であったはずだ。

 ドロシーは自分がそういう人間だと思っているし思い返してもそうだった記憶もある。

 なのに何故ティナに付き合う事に対して疑問に思わないのだろうか。

 しばらく頭の中で考えたのちにドロシーは渋々ながらも納得した。

 (ああ、そうか私意外と…)

 その時大きな影がドロシーの近くに近づいていた。


 「ふぅ…。」

 ティナは久しぶりに口をつける水分で頭の中が冴えていくのを感じていた。

 (けど、少し落ち着かないなぁ。)

 ティナが現在補給を受けているのはエーデルワイスでは無く別の艦、しかもガスア帝国の艦である。

 最初にいた艦はハイロゥに轟沈させられたので上からの指示によりこの艦にて補給を受けていた。

 エーデルワイスは現在ポイントBの最終防衛ラインにいる筈である。

 同じ目的で戦っている仲間とはいえ少し前まで危うい関係だった国の艦に乗っているのは不思議な感覚であった。

 外を見てみればガスアとユースティアのメカニックたちが急いでファフニールにエーテルや弾薬を補給している姿が見える。

 さらに奥に注目しているとまた別の国の大けがをしているMT乗りをガスアの衛生兵が救護している姿が見える。

 「…よし!!頑張ろう!!」

 国と国が利益を抜きにして協力し合っている。

 その状況にティナは元気を貰ったような気がし気合が入る。

 頬をペシぺシと叩き気合を注入していると外部からコックピットを開けて欲しいと合図があった。

 ティナが開けるとそこにはガスアのメカニックが食事を差し出してくる。

 「あ、ありがとう。」

 そうティナが言うとガスアのメカニックはニコリと返しコックピットから去って行った。

 食事はサンドイッチのようであった。

 食べてみるとガスア特有の食材だろうか特有の味がした。

 「ドロシーさん大丈夫かな…。」

 食べてる最中に考えていたのは先ほど別れたドロシーの事であった。

 心配は無用だと思っているがどうしても心配してしまう。

 (だってドロシーさんは…。)

 その時警告音が艦中に鳴り響く。

 《現在大型のハイロゥが出現。各部隊は警戒を厳にしてください。》

 「!!ドロシーさん」

 その通信を聞いた途端、ティナの中に嫌な予感が渦巻いた。


 「邪魔!!」

 急いで補給を終わらせてもらいティナはドロシーと別れた所まで急行していた。

 自分の考えすぎならいい、だけれども幾ら通信しても応答してくれない事に不安は増す一方であった。

 「ッ!アレが…。」

 そこにいたのは大きな鳥のような姿をしたハイロゥであった。

 そしてその爪の部分には大きく損傷しているファフニール、つまりは。

 「!!ドロシーさん!!!」

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