第81話 プロメテウス

 ー50年前、D・Bは突如としてやって来ました。

 こちらの兵器が通じない、何処からともなく出現するD・Bは瞬く間に世界中を蹂躙していきました。

 あらゆる手段を使い市民を守ろうとしましたが今現在残っているのは一万人ほどです。

 そしてこの基地にて動いているのは非戦闘員を含め約三千人。

 これが今の世界の全人口です。


 「まさかこんな事になるとはな。」

 《流石に予想出来ませんね。》

 ー今日はもう休んでください、話の続きは明日に。

 そうアーニャに言われ与えられた一室のベットにて横になるユーリ。

 通信機越しにアイギスと話しながら与えられた情報を整理していた。

 人類の総人口一万人、その事実がユーリの気分を重くさせる。

 「…少年兵の頃、未来なんて考えもしなかった。ただ生きるのに必死で。」

 《少佐。》

 「だが、少なくてもこんな未来を生きる為にこれまで生きて来た訳じゃない。俺だけじゃない他の奴だって多分そうだ。」

 《…そうですね。…少佐、もうお休みになられたらどうでしょう。》

 「…そうだな、そうしよう。じゃアイギスまた明日。」

 《…ええ、少佐。また明日。》

 様々な情報を得すぎて疲れていたのだろうか、ユーリはすぐさま眠くなっていった。

 《…明日まで持てばいいのですが。》

 故にアイギスが漏らした言葉をユーリは聞き逃してしまうのであった。


 「ああ、ユーリさん。お目覚めは如何ですか。」

 「まあよく眠れたよ。フリーゼン…さん。」

 「フフ、自由に呼んでくれて構いませんよ。」

 軽く挨拶をしながらユーリはアーニャの持ってきてくれた朝食を食べる。

 パンが一つと何かの野菜のスープというシンプルなものであったが味はそこそこであった。

 「ごちそうさん。」

 「お粗末さまでした。味気ないものでしたでしょう。」

 「俺の過去を忘れたか?あの頃に比べたら食べれるだけありがたいよ。」

 「そう言ってもらえると助かるわ。豪華にしようにも食材もあまり無いから。」

 少し顔を暗くして言うアーニャの言葉をある程度ユーリは予想していた。

 何年この基地に立てこもっているかは知らないがこの状況では産業も上手くいかないだろうとは予測していた。

 「それよりも、この基地は襲われないのか話を聞く限りこの時代にも奴ら…D・Bがいるらしいが。」

 「そこは心配ありません。我々も何もせずに過ごしてきた訳ではありません。」

 そう言うとアーニャは一つの画像を見せる。

 「この基地の周りには8つの塔が建っています。そこからD・Bの嫌う周波数をこの基地を囲うように出しています。」

 「守りは万全という訳か。」

 「…えぇ。」

 アーニャの若干の間が気になったが、ユーリはもう一つ昨日から気になっていた事を聞く事にした。

 「それともう一つ、昨日俺をここに連れてきたMTの攻撃が奴らに効いたのも聞いておきたいんだが。」

 「勿論、むしろそれを説明するために今日ここに来ているんですよ。付いて来てください。」

 そう言うとアーニャは部屋を出ていく。

 ユーリもアーニャの後に続き基地内を歩いていく。

 「しかし、流石だな。」

 「何がですが?」

 「仕方ない状況とはいえ人類の代表として頑張っている事がだよ。護衛したかいがあるというもんだな。」

 「…あなたと同じですよ。」

 「え?」

 「やるしか無かった。そうしなければ人類が滅んでしまう。私より適任の方はどんどん死んでいって。…だから必死に頑張った。ただそれだけです。」

 ユーリの方からはアーニャの顔は見えなかった。

 けれども少なくともいい顔をしてる訳では無い事はユーリにも分かった。

 「すまん。…何も考えずに言った。」

 「いえ、確かに楽な事ばかりじゃありませんでしたけど。人類を救う一端を担えて誇らしい気持ちも確かにあるのです。だからあの日救って貰ったあなた方には本当に感謝してるんですよ。」

 「フリーゼン…。」

 「さぁ、早く行きましょう。」

 そう言ってアーニャは足を速めるのであった。


 「D・Bの張っているバリアは特殊なものです。先ほども言いましたが既存の兵器では傷を与えるのは困難、しかもD・B自体の皮膚も厚いものです。」

 アーニャに連れられてそこそこ歩いてきた。

 基地の施設から外に出てしばらく経ってからアーニャは再びD・Bについて話だした。

 「奴らがどうやって生まれたかは分かったのか?」

 「いえ、そこについては現在も不明です。分かっているのはD・Bは次元の隙間のような所に巣を作りそこから我々の世界に攻めて来ている事です。」

 「よく分かったな、そんな事。」

 「私も最初聞いた時は疑ったものですがD・Bが転移してくるとき必ず重力値が異常を示しているという報告や実際に見た報告があったので。」

 「実際に?」

 「…ええ、D・Bやって来る黒い穴。私たちはそのままホールと名付けてますが、その中に突入捜査した部隊がいたのです。…その内の一人はティナさんでした。」

 「…その部隊は、どうなった。」

 「…たくさんの、本当に貴重な情報を送ったのち消息を絶ちました。おそらくもう…。」

 「そうか…。」

 「怒らないのですか。」

 「あいつが決めた道だ、なら俺はそれを支持するだけだ。」

 「ええ、彼女のもたらした情報のお陰でこの時代にあなたを呼ぶことが出来ました。本当に感謝が絶えません。…脱線しましたね、とにかくそれらの情報のお陰でD・Bのバリアの弱点を見つける事に成功しました。」

 「その逆転って。」

 「先ほど言った周波数とは違う周波を当てるとバリアが弱体化できる事が判明したのです。50年前の基準の兵器でも通じるぐらいには。」

 「その装置を届けるのが俺の役割という訳か。」

 「いえ、三分の一は正解です。あなたの役割は他にもあります。」

 そう言うとアーニャはある格納庫前にて止まった。

 「あなたがやるべき事は情報だけではありません。もう二つあります。」

 「二つ…。」

 「ええ、その二つ。いえ全てがこの中にあります。」

 「三つの兵器が一つに?」

 「ええ、正確に言えば。」

 アーニャがカードキーを認証させると格納庫がゆっくりと開いていく。

 「それらの、いえ今持てる我々の技術の全てを一つのMTに集約したものをあなたに渡します。見て下さいこれがあなたの愛機、そして我々の希望の結晶。【原初の火】プロメテウスです。」


 「プロメテウス…。」

 そう言ってユーリが見つめる先には白を中心として金の装飾が入ったデザインのMTだった。

 「ええ、人類に初めて火を伝えたと言われる神に名をあやかりました。…このMTの説明は彼女からしてもらいましょか。」

 そうアーニャが言うと杖をつくような音が聞こえてくる。

 ユーリが振り向くとそこにはまた別の老女が立っていた。

 「…お久しぶりです。アカバ…さん。」

 「えっと貴女も俺の知り合いで?」

 そうユーリが問うと老女は涙ぐむ。

 ユーリは必死に思い出そうとするが分からない。

 五十年後の姿であるし彼女の左足は義足である。

 知り合いを必死に考えるが一致する女性がいない。

 「ごめんなさい。久しぶりに会えた事が嬉しくて。…私ですパメラ。パメラ・ヴァン・ボルクです。」

 「…ああ!?」

 そう言われてユーリは叫ぶ。

 確かにどこかしらに面影がある気がする。

 「…その左足は。」

 「大した事じゃありません。逃げる時にちょっと…。」

 「…そうか。」

 何でもない様にそう言うパメラにそれ以上ユーリは何も言えなかった。

 「パメラさん。再開が嬉しいのは分かりますが…。」

 「ああ、すいませんアーニャさん。ではプロメテウス、及びDSWの説明をさせて貰います。」

 そう言うとパメラはプロメテウスの全体図を出して一つずつ説明する。

 「まずプロメテウスの特徴は四つの大型のバーニアスラスターです。これにより推定ではファフニールの最大10倍以上の推進力を得られます。さらにそれに対抗するために慣性削減システムを強化、実験では10Gの衝撃も2~3Gほどに軽減が可能です。」

 「…凄いな。」

 「まだまだ驚くのはこれからですよ。」

 「はい、プロメテウスは長時間の戦闘ができるように武装を各箇所に搭載しています。例えば踵部分にはビームブレードを、膝には衝撃発生装置をと言った具合に外付けの武装が無くても十二分に戦えるように全身兵器となっています。」

 「けど、エーテルが無くなったら流石に補給が必要だろ?」

 「いえ、プロメテウスにエーテル切れはまずありません。」

 そうパメラが断言するのをユーリが疑問に思っているとアーニャがその答えを言う。

 「実はプロメテウスにはエーテルを補給するのではなくそれを生み出すオリハルコンそのものが入っているの。」

 「…本当に?」

 ユーリのその問いに二人そろって頷く。

 オリハルコンは言うまでもなく貴重である。

 ましてこのような世界ならなおさらであろう。

 それをMT一機のために使用する、ユーリは驚きを隠せなかった。

 「それだけ本気と言う事よ。」

 「ええ、これに関してはだいぶ揉めましたからね。」

 「…そうか。」

 「それから装甲にも抜かりはありません。装甲には特殊な合金、私たちはミスリルカーボンと呼んでますがそれを使用しています。理論上直撃でも戦艦クラスの主砲を五発は受けきれます。」

 「…で、さっき言っていたDSWと言うのは一体?」

 「それはあなたに託す3つの一つよ、ユーリさん。」

 アーニャが別の資料を見せる。

 「D・Bが別の次元からやってくることは説明したわね。」

 「我々はそれを強制的に閉じる研究も行っていました。結果として失敗しましたがこの次元の裂け目を兵器転用することに成功しました。」

 「どうやって?」

 「次元の裂け目を強制的に作り出しそのレンジ上にいる敵に当てる。そうすると敵は次元の裂け目に巻き込まれ切断される。私たちはこれをDS現象、ディメンションスプライトと名付けそれを兵器転用したものをDSWと呼称しました。」

 「何かデメリット的なものは?」

 「味方が巻き込まれたら加減が出来なくて助からない事とエーテル消費量が非常に激しい事ですね。ですから連続して使えるのはプロメテウスぐらいかと。」

 「思ったよりは少ないな。…ん?」

 ユーリがプロメテウスの画像を見ているとある一点が気になった。

 「どうしました?」

 「プロメテウス、これ複座になってるけど…。」

 指さした資料の先のコックピット部分は確かに複座になっている。

 「…そうね、それを説明した方がいいわね。パメラさん。」

 「はい、ではそれを説明する前にシルフィードの説明を。」

 「シルフィード?」

 「シルフィードはオールレンジ兵器です。各バーニアスラスターに二機ずつ備えられています。各機にAIが搭載されているので指示をするだけで敵を殲滅します。備えている武装はビームサーベル、ビームライフル、それにシールドの他に様々な装備をオプションとして付けることが出来ます。」

 確かにユーリが資料を見てみるとバーニアスラスターに砲筒と思われるものが引っ付いている。

 「それはすごいが、それと複座なのと何の関係が。」

 「…実はそれと並行しているのですがシルフィードを使う前提がありまして。」

 「前提?」

 「ええ、現在ファフニールに搭載されているAI-GIS-01ことアイギスの機能の拡張、それが前提よ。」

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