第80話 時を越えての再会

 「一体…何がどうなって!?」

 エーデルワイスのブリッジにてアヤはユーリが黒い穴に消えてゆくのを見て思わず叫んでしまう。

 「っ!(落ち着け、アルヴィー。冷静に…冷静に…。)ファフニールの反応を追跡できますか。」

 だがクルーの視線を浴び、急いで思考を冷静にさせる。

 アヤの問いにオペレーターが急いで調べ始める。

 「…駄目です!ファフニールの反応、完全にロストしました!」

 「そうですか…。反応があればすぐに教えて下さい。」

 「そ、捜索は…。」

 「その余裕があればそうしています。」

 今でも外では自分たちの部隊と仮称:獣の戦闘が引き続き行われている。

 有利ならともかく一匹も落とせない現状では一機たりとて捜索に向かわせる事は出来ない。

 「MT部隊は密集隊形をとりお互いをカバーし合いながら後退してください!とにかく町から引き離します!各艦にも通達をお願いします!」

 「了解。」

 ブリッジ内が慌ただしくなるのを感じながらアヤは思考の隅でユーリの無事を祈っていた。

 (どうか無事で、アカバ少佐。)


 黒い穴の中は幾何学的模様をしていた。

 それぐらいしかその中を仮称:獣に突撃されながら突っ切っているユーリには分からなかった。

 それから何分、何十分。

 それとも何秒かだろうか、とにかくユーリは黒い穴から抜け出した。

 「こ、の。しつこい!」

 ギャッ!

 ファフニールの膝を顎に当て怯ませて一旦距離を取る。

 「アイギス!現状は!」

 《……。》

 「アイギス!?」

 《…失礼しました。ファフニールの損傷率40%を越えています。特にバーニアの損傷はかなり激しいです。》

 「だろうな。」

 実際距離を取るにもスピードが余り出ていない。

 肩の関節部にも大分ダメージがある模様でアラートがなり始めた。

 「と言うより…ここはどこだ?」

 辺り一面見渡せば草一つ、建物一つない荒れ果てた荒野であった。

 とてもじゃないが緑が生い茂っていた先ほどの戦闘地帯とは思えない。

 《地形で絞り込んでみます。…。》

 「どうした、アイギス。」

 《少佐、非常に言いにくいですが地形を調べたところ98%の確率で…エリン上空だと思われます。》

 「…はぁ!?いや、それは流石に何かの間違いだろ!」

 アイギスの分析に思わず怒鳴るユーリ。

 戦闘地帯からエリンまで飛んできたというのも信じられないが何よりあの大都市が消えて無くなってしまっている事の方が信じられない。

 《少佐、それを議論している暇はない模様です。前方、注意です。》

 「!?」

 先ほど膝蹴りを入れた仮称:獣が再びこちらに突撃してこようとしている。

 まだ距離があるのでランチャーを構え撃つユーリであるが。

 「っ!やっぱり駄目か。」

 やはりビームを仮称:獣は弾きながらこちらに突撃してくる。

 ランチャーを捨てビームサーベルを構えるユーリ。

 「ここらで年貢の収め時と言うやつか。」

 《…。》

 ファフニールは損傷が激しく派手な動きは出来ない。

 そもそも仮称:獣に攻撃が通らない以上勝ち目は無いかも知れない。

 そう思いながらも最後まで足掻くためビームサーベルを突撃してくる仮称:獣に突き立てようとした時であった。

 一発の実弾が空を裂き仮称:獣に当たった。

 ギャッッッッ!?

 仮称:獣は叫び声を上げながら大きく後退した。

 そしてその着弾場所には確かに仮称:獣の血が流れていた。

 「っ!今のは何処から!?」

 《少佐、7時の方向。MTの反応二機。》

 ユーリがその方向に振り向くと確かにMT二機がこちらに向かってきている。

 グァァァ!!

 今の攻撃で怒ったのか仮称:獣はユーリを無視して向かってくるMT二機に肩から生えたライフルを撃ちながら突撃していく。

 「不味い!」

 急いで援護したかったがバーニアの方も限界が出てきて思うように動けない。

 だがそんなユーリの心配は杞憂に終わる。

 MT二機はライフルを躱しながらバズーカやマシンガンを発射する。

 ギャッッッッ!!

 仮称:獣の傷はどんどん深くなりやがて爆散し消えていった。

 「…終わったのか。」

 《…そのようですね。》

 仮称:獣を撃破したMT二機はゆっくりとこちらに近づいて来る。

 《少佐。》

 「分かっている。警戒は解かない。」

 敵の敵は味方、という考えができるほど今のユーリ達に余裕は無かった。

 こちらの警戒する姿を見てかある程度の距離でMT二機は立ち止まる。

 《少佐、向こうの機体から通信が入ってきてます。》

 「…繋いでくれ。」

 通信相手はユーリよりも年若い兵士だった。

 「失礼、ユーリ・アカバ様でしょうか。」

 「…そういうそっちは何者だ?軍人にしては若そうだが。」

 むやみやたらに情報を与える訳にはいかないのでそう問うが向こうは渋い顔である。

 「申し訳ありませんが今それを伝えても意味がありません。そちらがお答えしてもらえれば安全な場所まで誘導させてもらいます。」

 「…分かった。アステル共和国軍所属ユーリ・アカバ階級は少佐。」

 「よし!あっ、すみません。ではアカバ少佐、こちらへ。」

 そう言うとMT二機はこちらに合わせてかゆっくりと飛んでいく。

 ユーリもその方向に向かって飛行していく。

 《よろしいのですか少佐。》

 「この状況では仕方ないだろう。ただしいつでも逃げれるようにな。」

 《了解です、少佐。》

 「さて、鬼がでるか蛇がでるか。」


 しばらく進んでいくと見えてきたのは基地であった。

 そしてその基地にユーリは目覚えがあった。

 「あれはもしかして。」

 《はい、エリアAAAのようですね。》

 メシア事変の後、廃棄されたはずのエリアAAA。

 だが確かに人の気配が感じられ、何機かMTも動いている。

 そして基地内に入り着陸すると周りに人が集まって来る。

 「さて外に出るが、通信機付けとくから俺にいざという事があったら。」

 《分かっています。速やかに自爆します。》

 それだけ言い合うとユーリはコックピットから出ていく。

 ユーリが地に足をつけると先ほどのMTに乗っていた少年兵がこちらに近づいて来る。

 「では、アカバ少佐。こちらへ。」

 「…何の説明も無しか。」

 「説明するに相応しい方がこちらで待っています。どうか。」

 「…分かったよ。」

 そう言うとユーリは言われた通りに歩いていく。

 (かなり見られているな。)

 それが歩きながら感じたユーリの感想であった。

 かなり露骨に皆ユーリを見ている。

 そして分かった事が一つあった。

 (かなり若そうなのと歳を重ねたのが多いな。)

 少年兵と老兵、本来主軸になるだろう年齢の兵士があまり見かけなかった。

 その様なことを考えているとある一室の前までついた。

 「こちらでお待ちです。では私はこれで。」

 そういって少年兵は去って行った。

 ユーリは扉の前で深呼吸してからノックする。

 「どうぞ。」

 その声はユーリが想像していたよりも柔らかなものであった。

 その事に驚きながらもユーリは扉を開ける。

 そこに待っていたのは一人の老女であった。

 柔らかな雰囲気をもった人のよさそうな人であった。

 「どうぞ、そこにお掛け下さいアカバ少佐。」

 そこに示された椅子に座ると老女は早速本題を切り出した。

 「さて、あなた方もいい加減知りたいでしょうから雑談は無しでいきましょう。」

 (あなた方?アイギスの事を知っているのか?)

 出来るだけ表情に出さない様に驚くユーリを余所に老女は驚きの真実を語る。

 「ここはあなた方の察しているようにエリアAAAです。…あなた方にとっては50年後となりますが。」

 「5,50年後!?」

 ユーリの驚く様を微笑みながら老女は続ける。

 「ええ五十年後です。期待通りのリアクション、ありがとうございます。」

 「…一体何がどうなってこうなったんだ。」

 まだユーリの中には老女の言葉を疑う気持ちがある。

 されどそれ以上にユーリの直感は「この老女は嘘をついていない。」と言っている。

 「…ここに来るまでに獣のような未知の生物と戦いましたね。」

 「ああ。」

 「我々はあれをD・B。ディメンション・ビーストと呼んでいます。」

 「ディメンション・ビースト…。」

 「そう文字通り次元を超えてやって来る獣です。この時代は奴らに喰い荒らされた世界なのです。」

 「…。」

 ユーリは言葉が出なかった。

 仮称:獣、いやディメンション・ビーストの危険性を完全に低評価していた。

 「…事態の重さが理解できたようですね。私たちはそれを阻止するためにあなた方をここに呼んだのです。ユーリ・アカバ、AIアイギス。」

 「どうやってそんなことを…。いやそれよりも何故そこで俺、いや俺たちなんだ。あんたは一体何者だ。」

 アイギスの事はあまり軍内部でも知らされているものは少ない。

 老女に対しての疑問は頂点に達していた。

 すると老女はクスクスと笑い出した。

 まるでいたずらに成功した子供のように。

 「何故笑う。」

 「フフ、失礼。最後まで気づかれなかったと思うと可笑しくて。」

 「??」

 「答えは簡単ですよ、私はあなた方に助けられたから信用しているだけですよ。」

 「助けた?」

 「ええ、あの日護衛してくれたではないですか。私、アーニャ・フリーゼンをね。」

 「…まじで!?」

 ユーリの驚きに老女、いやアーニャは笑みを浮かべて肯定するのであった。

 

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