第78話 新たなるもの、変わらないもの
ユースティア王国とガスア帝国、そしてその他の大小様々な国が集まり新たに出来た国であるアステル共和国。
その領土は世界の68%をも占めるに至った。
すぐに内部分裂すると予測する知識者もいたがその予想外れ、建立してから二年と半年が経とうとしているがその兆しは無い。
議会では今でも熱い議論が行われているが、大きな脅威を目の当たりにし団結した者たちはそう簡単には分裂しなかった。
ちなみに初代議長は今なお発言力をもつユースティアとガスア、どちらの元トップにも近いという理由で元ペンドラゴンの王であるアーサー・ピピンが選ばれる事になった。
とにかく議会では様々な議論がされ、決定され、実行された。
そしてその決定された軍事作戦の中の多くに、ユーリ・アカバは参加した。
『不死の英雄』、それが新たについたユーリを称える二つ名となった。
数多の逆境にも生き延びたユーリに相応しい名だと周りの人間(+AI)は言っていたが本人には重荷でしかなかったようである。
アステルにおいてユーリの階級は少佐となり数多くの作戦を成功に導いた。
けれども全てが順調、という訳では無かった。
世界の領土の残り23%はアステルと敵対する新たなる国家であるフェール―ン連合国家であった。
フェールーンにいる者たちはユースティアとガスアどちらかに大きな恨みを持つ者やそもそもユースティアとガスアが一つになる事を望まない者など、アステルにいても恩恵を受けない、受けれない者が集まって出来た国である。
領土や人口などアステルに及ぶものがほとんど無い国ではあるが対アステル共和国に対する敵外心は膨大である。
アステルはフェールーンに対し友好的な外交を何度も仕掛けたがその全ては徒労と終わった。
そして残りの9%はそのどちらにも属さない国々であった。
永久中立を宣言しているクリエントは別とし、多くの国々はアステルと同盟を結びながらもフェールーンに対し便宜を図ったりをしている。
そのような事をされながらアステルが武力行為で領土を広げないのは前提として宥和政策を打ち出しているからである。
なので主にユーリが行っている軍事作戦は主にアステル国内で行われているテロ行為や規模の大きい盗賊団などの壊滅でフェールーンとの戦闘は数えるほどであった。
そして本日、ユーリは新たなる任務を受け元ガスア領であるモンドに足を踏み入れていた。
アステルの首都となったエリンにも比較的近く、与えられた兵団も精強。
その任務は簡単に片がつく…はずであった。
その日、ユーリ・アカバとアイギスは大きな運命の分岐点となるのであった。
「…暇。」
エーデルワイスのブリッジ内にてユーリは他人に聞こえないようにされど聞こえてしまう音量の声で呟く。
この艦は殆ど少佐となったユーリの艦となっており軍務の時はエーデルワイスにて移動していた。
そんな理由で気をだいぶ抜いているユーリに対し苦言を言えるクルースタッフはたった一人を除き居なかった。
「少佐、緊張していないのは結構ですがブリッジではその様な腑抜けた発言は慎んで頂きたいものです。」
「…悪かったよ、アルヴィー艦長。」
そう、ユーリに対し注意したのはアヤ・アルヴィー大佐。
将軍職への誘いを断りユーリが所属しているエーデルワイスの艦長を希望した異名智謀の
これはユーリは知らされていない話であるが彼女が望み道理にエーデルワイスの艦長になれたのは度重なるアヤの懇願に上層部が折れたという経緯があったりする。
何はともあれユーリが参加した作戦には殆どアヤも付いてきており兵士の間にはエーデルワイスが出陣した作戦は必ず成功するという都市伝説が出来るほどである。
先ほどの会話からはそう思われないかも知れないが作戦外では楽しそうに会話したりする姿が見られている。
「だがなぁ、艦長。気持ちは理解して欲しいな。」
「…言いたい事は分かります。確かにこの作戦、敵の総数に対してこちらの戦力はおよそ七倍。気が抜けるのも分かりますがだからと言ってクルーのやる気を削がないでください。」
そう今回の作戦は圧倒的な蹂躙が最初から決まっている。
制圧目標はモンド付近にある廃棄された小規模な軍事施設。
そこをある過激宗教団体がアジトにしていた。
その名も『メシア神教』。
文字通りメシアを神として崇めている団体である。
だがその内容は町に爆破テロを起こしたり、人を誘拐して奴隷にするなど悪質極まりものである。
今回もモンドに対し大規模なテロ行為を行うとの情報が事前に入りそれを阻止するためにユーリは向かっている訳であるが、先ほども言った通りこちらの戦力は空母含め艦艇五隻も配備されておりMTの総数は敵が10ほどであるのに対し72機の精鋭である。
だが無意味にこの様な数で押しつぶす訳では無い。
圧倒的に壊滅しなければならないのも理由の一つであるがそうする事により別の場所に潜伏している者達に無駄である事を刻み込むのが目的である。
(だからと言って7倍はやりすぎの様な気もしますが。)
ある法則曰く戦闘を容易く進めるには敵の3倍の兵力を必要とするというものがある。
無論、戦況は様々に形を変えるものであり一口では言えないが今回は地の利を除けば兵の質と量も何もかもこちらが上である。
普通に考えれば苦戦する方がおかしい戦いでありユーリが気が抜けるのも分からなくは無いアヤである。
だがアヤは一握りの不安を感じていた。
(理論的にも不安に感じる事など一つも無い…そのはずなのに。)
それは言葉に出来ない程小さなもので漠然とした、言うならば勘というものである。
「…どうした?眉間に皺が寄っているぞ、」
「…大した事はありません。気にせずとも大丈夫です。」
アヤは理知的な人間である。
漠然とした勘というものを他の者に、特にユーリに対して言う訳にはいかなかった。
自分でもぎこちないと思う笑みを返すアヤにユーリはため息をつき彼女の眉間を指で突く。
「何ですか。」
「艦長の考えてる事は分からないが…あんまり思いつめるなよ。信頼出来ないかも知れんが俺も偶には役に立つかも知れないぞ。」
「…役に立ってますよ。戦闘では。」
「厳しいな!!おい!!」
それが聞こえていた周りに笑いが起こる。
そしてアヤも正真正銘の笑みを浮かべていた。
(信頼してるに決まってるじゃないですか…まったく。)
何の為に将軍職の誘いを断ってこの場にいると思っているのかと問い詰めたい気分であった。
その様なことを考えていると、あるユーリに関する事案を思い出した。
「そう言えばアカバ少佐、少佐のMTの件なのですが。」
「ん?あぁ。」
「やはり少佐専用機の後継機製作はかなり遅れる模様です。」
「…まぁ、そうなるわな。」
大国同士が一緒になった事により技術面でも大きく躍進している。
現在軍部のMT機動部隊のほとんどはユースティアとガスアの機体を使いまわしている状況である。
だが今もなお競い合っている技術チームたちの決着がつけばハイスペックな量産機が決定するであろう。
だがそれゆえにエース機などといったワンオフのMTの製作は大分遅れているのが現状である。
さらに言えばユーリ機には必然としてアイギスとシステム・スクルドも視野に入れて作らねばならない。
ユーリの持っているスペックを考えれば作り上げるのは遠い日になりそうである。
「まあ今のファフニールにも多少の思い入れがあるし、やれるとこまでやってみるさ。」
「自分の腕に自信があるのは結構ですが油断して落とされないで下さいよ不死の英雄どの。」
「その呼び名やめい。それに別に自信がある訳じゃ無いよ、ただやれることをやるだけだよ。昔も今も…な。」
エーデルワイスを始めとした艦艇五隻は進む。
運命の地となる場所を目指して…。
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