第48話 エリアAAAの激闘

 エリアAAAで始まったセリオンが率いるクーデター部隊との戦いが始まってから三十分ほどが経過しようとしていた。

 少数ながらも気概に満ちたユーリたちは次々にやって来るMTや艦を撃破することに成功している。

 今もティナのファフニールのガトリング砲が敵艦のブリッジに対し火を吹き沈める轟沈させる。

 だがそれでも皆の顔に笑顔は訪れない。

 「っ!…10時、および6時の方向に反応あり!ワグナー機及びトンプソン機は対応をお願いします!」

 了解の声が聞こえるがその声にも張りが無い。

 次から次にやって来る敵を常に全力で五人、エーテル及び弾薬補給時には四人や三人で場を維持しているのだから無理もないだろう。

 (このままでは…!)

 アリックスにも焦りの表情が見え隠れしている。

 確かにユーリたち小隊をはじめクルーの全員が頑張ってくれている。

 が、それでも圧倒的な物量差に現状維持が精一杯なのが現実である。

 セリオンがいるであろう首都エリンにこのままではたどり着くことすらできないであろう。

 (何か手は無いのか、何か!)

 アリックスは的確に指示を出しながらも必死に起死回生の一手を考えていた。

 様々な作戦がが浮かんでは消えていったその時、オリビアからの一言が状況を変えた。

 「艦長!通信が!」


 《少尉、後方にMT二機接近。挟まれます。》

 「了、解!」

 前方にいる二機をビームサーベル二刀ですぐさま撃破するとそのままの勢いで回転しその勢いのまま迫ってきた二機を切り捨てる。

 「はぁ、はぁ、アイギス次は?」

 《3時の方向。コックス曹長が苦戦しています。》

 アイギスが言い切らない内にユーリはその方向に移動していた。

 「それにしても少しは空気読んで休ませて貰いたいものなんだけどな。」

 《向こうは空気読む必要がありませんから。》

 「ただの愚痴だ、そこは合わせてもいいんだぞ。」

 《勉強しておきます。》

 などと軽口を叩きながら迫って来るMTを叩き落としながらユーリとアイギスの会話は続く。

 《少尉、なぜ敵首魁セリオンはクーデターを起こしてまで帝国を攻撃するのでしょうか。》

 「ん?」

 《現在当機にはセリオンに対するデータは表面的な物しかインプットされておりません。いかに攻め込む為の材料が揃っているとはいえ現状で帝国に攻め込むのは危険です。それを理解できていないとも思えませんが。》

 ユースティアは大国であるが故に味方も多いが当然ながら敵も多い。

 道中に判明した事ではあるがセリオンは国外に対しては政治的な外交を一切していない模様である。

 仮にガスアを占領できたとしてもその敵に撃たれるかも知れないと思うのはアイギスでなくても思うであろう。

 ユーリは少し悩んでから「完全に私見だけど」と一言注意しておいて話始める。

 「たぶんセリオンという男の中ではこれは正義の為の戦いなんだろうさ。」

 《正義…ですか。》

 「そ、正義。」

 《…》

 アイギスが黙ったのを見てユーリは笑いながら追加で説明する。

 「人間っていうのは簡単なもので基本的に正義の側に居たいんもんだ。そしてその正義のためならばどんな行為も行えるんだよ。例え世間一般的にそれが悪だとしてもな。戦争なんかがいい例だろ。」

 《…愚か…ですね。》

 アイギスのその一言に大声で笑いながらユーリはアドルファスが接近されて苦戦していたMTを片づけていく。

 「まぁ、確かになそれは正解だよアイギス、違うのは狂信者かもしくは根っからの悪人ぐらいじゃないか?」

 《では少尉、少尉は自分が悪人に当てはまるとお思いで。》

 アイギスはふと気になった事を聞いてみた。

 ユーリが正義というものにこだわっていない事はアイギスも察する事ができた。

 だが彼が狂信者かと問われれば答えはノーである。

 だとすれば残るは悪人という事になるがアイギスにはそれは納得しかねた。

 「…アイギス俺はな。」

 薄い笑みを浮かべながらユーリはアイギスに語る。

 「一度も自分を正義の側だなんて思った事はないよ。」

 その言葉はユーリの表情と共にアイギスのメモリに深く刻まれる事になった。

 「さて、次はどこに向かえば…。」

 《少尉2時及び9時の方向に》

 「新手か、すぐに対処を…。」

 《いえ違います。…援軍です。》

 「援軍!?どこの誰が?」

 ユーリが驚くのも無理は無い。

 これはあくまでユーリ達が勝手に始めた作戦である。

 無論誰にも連絡してはいないしまして援軍の手配など誰もしていないはずだそれなのに何故と思っているとオリビアからの通信がつながる。

 「オリビア!一体どうなってる!?一体どこから援軍が?」

 《首都の防衛隊です!クーデターの際他所に移動されていた守備隊が加勢に来てくれました!その他にも監視の目を抜けて来てくれた部隊もいくつかあるようです!》

 後に聞いた話ではあるがどうやらユーリ達が善戦した事により監視の目が緩くなり援軍に来れれたようである。

 《すぐに一度補給に戻ってください!全機補給を終えた後、ドラクル小隊はエリンに向け進撃してください!》

 「…了解。」

 この時エーデルワイスはすでにかなりの深手を負っており着地し砲台になることを決めていた。

 それを理解しつつも最後になるかも知れないエーデルワイスへの着艦しに行くユーリ。


 ユースティアの未来を決めるこの戦いは激しさを増し転機を迎えようとしていた。

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