第55話 人機一体

 ―時は遡り

 「いや、敵の新型MT…と言っていいか分からん奴の弱点はお前が知ってても可笑しくは無いが何でスクルドの解除コードを知っているんだ?」

 カーミラが自爆前に提示したご褒美の内容はアルティメット・レックスのバリアの抜け穴とユーリのファフニールに搭載されているシステム、スクルドの解除コードを含んだデータだった。

 何で彼女がこのような物を持っているのか不思議に思うユーリをクスクスと笑いながらカーミラは答える。

 「私一人だったら分かってもアレの存在までだったでしょうね。けど在る亡国の王女に頼まれたのよ『貴女を倒せた勇士にこの情報を渡して欲しい。』てね。彼女、倒すのが貴方だと確信してたみたいだけどね。まさか戦争の旗印にしようとしていた人間に裏切られてた、なんて奴らが知ったらどう思うかしらね。」

 「…そうか彼女が…。」

 (軍務を言われるがままに受けてこなしてきたけれど、こうして目に見える形で返されると…何かを成し遂げた気分になるな。)

 ユーリが感傷に浸っているとアイギスが口を挟む。

 《横道に逸れるのも無駄では無かったですね。少尉。》

 「人をあまり横道扱いしないで欲しいわね。アイギスちゃん。」

 苦笑しながらアイギスにちゃん付けしながら文句を言うカーミラ。

 あまり本気とも思えない文句を無視しながらアイギスは新しいシステムへと論点を移動させる。

 《システム名スクルド、“乗っているパイロットと搭載されているAIを一体化させるシステム”とされています。その内容はパイロットの脳波をAIが高速で処理、すぐさまパイロットの脳へ伝える。簡略的に言えばパイロットの思考を速めるシステムです。》

 「そう、それと同時にパイロット殺しにもなりかねないシステムね。」

 「…。」

 カーミラが言わんとしてる事はユーリにも理解が出来ていたが改めて他人に言われると不安が増す。

 「思考を速めた所でパイロットがその思考の速さについて行けないでしょうね。…いえそれ以前にAIが人間では処理出来ない膨大な量のデータをパイロットを送るだけでも死ぬでしょうね。…ご褒美と言っときながらだけど一つだけ質問するわね。…本当にこのデータ、いる?」

 《それは…。》

 「いる。さっさとこっちに送ってくれ、あまり時間がないかも知れない。」

 アイギスが答えを出せない中、ユーリの答えは即答だった。

 《…よろしいのですか少尉。システムが無くても勝てる可能性は十分あります。》

 「確かにな、もしかしたら使わなくとも勝てるかも知れないしそのシステムのせいで死ぬかも知れない。」

 「そこまで理解しているのなら、何故?」

 「…簡単だよ成功したらその力で仲間を助けられる可能性が高まるからだ。」

 《…。》

 「…。それだけ?」

 何も言わないアイギスと呆れたように聞くカーミラにユーリは笑みを浮かべながら答える。

 「それだけだよ。少しでもより良い結果の為に努力する…当たり前の事だろ?」

 「…ネガティブと聞いていたけど案外言うわね。」

 《ハミルトン軍曹のおかげでしょうか。ならば彼女のセミナーを続ければ少尉がもっとポジティブシンキングになるのでしょうか。》

 「頼む止めてくれ、俺という存在が消えてしまう。」

 ユーリにとってはアイギスの恐ろしい予想図に本気で怯えながら懇願する様子を微笑みながらカーミラはデータを送信する。


 端的に言ってしまえばシステム・スクルドは想定通りの、いや想定以上の力を見せていた。

 アイギスが制御したデータを反射速度が高いユーリの体は完璧に反応してみせた。

 例えアルティメット・レックスが避けれないような全方位砲撃を行おうと、アイギスが得たデータで回避可能な機動を導き出しユーリに伝えればその回避機動をコンマ単位で一瞬のミスも無くこなす。

 だがユーリも単に命令をこなす人形とはなってはいなかった。

 時としてユーリの判断で行動を起こった際はアイギスがその行動を速やかに行えるよう、最適なデータを脳に送る。

 ある意味、人と機械が最も一体化してると言っても過言では無かった。

 人間の思考力と反射能力、AIの処理能力と正確性がこれ以上なく嚙み合っていた。

 そして今も彼は、いや彼らはアルティメット・レックスが全身に装備しているビーム砲を草をむしるようにコンゴウと大剣で切り続けながら迫って来た右手を完璧に避け、むしろその勢いを利用してチェーンソー機構を展開した大剣でワイヤーを切断してみせた。

 「《これ借りたのは正解だったな、よく切れる。》」

 重力に習い落ちていく右手を見ながらユーリは頂戴した大剣をボソりと褒めると再びビーム砲を狩りに入る。

 「凄い…。」

 そう漏らしたのはティナであるがその言葉はドロシーとアドルファスも思っていた事である。

 今まで戦場を何度も一緒に駆けて大体の実力を知ったつもりでいたがそれが覆るほどに速く的確だ。

 無論三人はこれがシステム・スクルドによるものとは知らない、が知っていたとしても称賛は覆らないだろう。

 (何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故だ!!)

 だが一方でライオは怒りが頂点に達しようとしていた。

 彼にとってはこの戦いは愚かしくも彼の主、セリオンに反抗する者を駆逐する戦いとも言えないような、正義を執行するものであった。

 最初は良かった。

 虫のように飛んでくる奴らをステルス機能で隠れた場所から砲撃すれば羽をもぎられた様に墜ちていった。

 多少腕の立つ四機と長い間戦闘になったが性能差は明らかであった。

 まるでハンティングを楽しむ気分のような面持ちでライオはいた。

 途中セリオン側の機体にも当ててしまっていたが「聖戦に犠牲は出るもの」と高笑いしていた。

 一機を墜落させ残るは三機、簡単に調理しアルティメット・レックスを避け別の所に戦っている反逆者をまとめて掃除すればいいだけの話である。

 長距離通信をジャミングしているのでセリオン側の機体も巻き添えになるのは言うまでもないことではあるがライオは気にしない。

 全てはユースティアが全てを支配するため、その為ならば彼は何も気にしないし彼なりの正論となる。

 だが今はどうだ?

 たった一機のMTにいいようにされ続けている。

 全身に装備されたビーム砲も今や三分の二が消失した。

 装甲を切り裂くと自慢していた右手も左手も今や無い。

 そして何よりも期待していたバリアシステムも使い物にならない。

 それもこれもあの英雄を騙る無学で品格も資格も無いガキのせいで。

 「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 信じたくない、認めたくない真実から目を背ける様に雄たけびを上げるライオ。

 だが現実というものは目を背けようと耳を塞ごうとそこにいるのである。

 彼の場合はビーム砲をほぼ無力化しコックピットがある頭部にユーリ機が仁王立ちしている現実が。

 「ッ!!」

 カメラを追ってみると他の三機は地に墜ちた機体の元に駆け寄っている。

 その事実が己の敗北という現実を突きつける様でライオに怒りが込み上げてきた。

 「貴様!!何故だ!?何故貴様の様な戦いの意味も知らないようなガキにそんな力が備わっている!?何故貴様程度の奴が英雄と呼ばれている!?」

 「《…別に答えなくてもいいのだろうけど。》」

 ユーリの代わりに脳を処理しているアイギスの声で彼は語る。

 「《確かに俺は戦いの意味なんて知らないし考えたことも無い、だけどな知った所で変わらない。俺に出来るのは戦う事だけだがそれでも選ぶ事ぐらいは許されるだろう。あんた達みたいに自己満足で戦争を起こすような奴らとは合わない、それだけだ。》」

 「自己満足…だと!?我々はユースティアの為に!!」

 「《ああ…言っても無駄だなこれは。》」

 そう言うとユーリは大剣のチェーンソー機構を最大起動する。

 「ま、まさか。ほ、本当に殺すのか!?偉大なるセリオン様の側近であり未来の提督たるこの俺!!ライオ・V・ウォーロックを!?」

 ユーリは答えず大剣を振り上げる。

 「お、俺は!!偉大な英雄に…!!」

 ライオの叫びはユーリが振り下ろした大剣に潰れた。

 全ての機能が止まりただそこに立っているだけの狂竜から大剣を引き抜き肩に担ぐ。

 《システム・スクルド。終了まで3、2、1…終了。無事ですか少尉。》

 「……。」

 《少尉。》

 「き、気持ち悪い。」

 口を押さえながら青い顔をするユーリを見てひとまずは安心と判断する事にしたアイギスは復旧した長距離通信でエーデルワイスとの通信を行う。

 通信をしながら少し回復したユーリはテリー機にそばに機体を降ろす。

 機体を降ろしながらユーリはアルティメット・レックスを見る。

 「じゃあな、せめてあの世では大人しくしてくれ。英雄志望のどっかの誰かさん。」


 セリオンが切り札としていたアルティメット・レックスを破ったことでAAAを占領していた部隊は全て投降する。

 だがそれが行われるのはもう少し後の話。

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