第18話 歓迎されない人間

 フードを被った女性――ローナと名乗る者は、和也たち二人を連れて奥へと進んでいく。

 山々に囲まれ、街の中は薄暗い。局所的に降っている小雨が、どこか悲しさを引き出していた。


 「あの、これはどこに向かってるんでしょうか……?」


 「私の家だ。黙ってついてこい」


 それ以上の会話はする気がないと言わんばかりの毅然とした態度。緊迫した雰囲気が漂う中、二人は黙って後をついていく……わけもなく


 「期待通りです。街の中に入れましたよ」


 ケイがひそひそと和也に話しかける。


 「期待通りって……どういうことですか?」


 「怪我をしている状況で、一人で行動するのは無謀ってことは分かりますよね。そこで、街まで送っていくという恩を売ることで、もしかしたら……と思ったのですが、まさか本当にうまくいくとは」


 「う、うわぁ……」


 微笑んでいた理由はそういうことか。納得するとともにケイの腹黒s……頭の良さに少々苦笑いしてしまった。


 さて、快適とは言えないこの空気感。その原因は周りから浴びる視線にもあった。


 「ねぇ、あれ……」


 「しっ! 見るな見るな!」


 指を差し、蔑む対象として扱われる二人。しかし、被害はそれだけに留まらない。


 「なぁ、あれ長の娘だろ? なんで人間なんか……」


 「この街を破滅に向かわせるつもりだ……」


 「そんなわけ……っ」


 大声を出しそうになったところを、ケイが止める。ただでさえ好まれていないこの状況。事を荒立てたらどうなるかなど一目瞭然だった。

 反抗したいのは和也だけではない、先頭を歩くローナ、彼女の顔にも不満が見え隠れしていた。


 なぜここまで言われなければならないのか。閉鎖的なこの空間を、三人はただ耐えて進むしかなかった。しかし、ここの住人たちは――


 「……さて、ここだ」


 ――と、いつの間にか目的地に到達していたらしい。

 目の前にあるのは家というより館。さすが長の娘と言われているだけあるなと感じる。


 「お帰りなさいませ、ローナ様……って、その人達は!?」


 館のメイドらしき人物がこちらへ向かってくる。メイドはこちらを見ると、他と変わらない反応を見せるが、ローナは構わず


 「私の客だ。気にせず通せ」


 「ですが……」


 「いいから客間に案内しろ!」


 「……分かりました」


 そのまま先に中へと入るローナ。二人もメイドに案内されるがまま中へと入っていく。


 階段を上り二階へ、右に曲がり突き当りまで進んだところにその部屋はあった。クローゼット、応接用のテーブルにソファ。ベッドが二台置いてある。カーテンは閉め切られており、ただでさえ暗いこの街をより暗くせんとする勢いだった。


 「後ほどローナ様がこちらに来ると思います。それまではごゆっくり」


 「ありがとうございます……」


 バタンと扉が占められる。真っ先にカーテンを開け、光を取りいれようとするが、やはり暗い。

 窓の向こうには人影がなく、ようやく落ち着けると思った二人はベッドに腰を下ろす。


 「ふぅ……さすがに疲れましたね……」


 「ですねぇ……俺少し横になろ……」


 肉体的というよりかは精神的な疲労。『人間』というだけで、なぜここまで蔑まれなければならないのか。


 そう、人間―――


 「そういえば、ここの住民、少し見た目がおかしかったような……?」


 外にいる時はフードのせいで気づいていなかったが、レグレの住民は、耳が異様に細長く、全体的に色白い見た目をしている。和也の知っている人間の見た目とは明らかに異なっていたのだ。


 「……フードを被っていたのもそのせいなのでしょうね。和也のように、見た目に注目されることを防ぐため、とか」


 「べ、別に馬鹿にする~とか、そういう目的はないですからね! ただ、やっぱどうしても気になっちゃうというか……」


 手をぶんぶんと振りそんな意図は無いと否定する。しかし興味がないわけではない。なにせここは異世界。見た目に何か秘密があってもおかしくないのだ。


 「ははは、冗談ですよ。……でも、こうして街の中に入れたんです。何かしらは話を聞けたりするかもですね」


 「悪いが、そう簡単に我らの秘密を話すわけにはいかないな」


 扉が開く音がする。そこにはフードを脱いだローナが立っていた。白い白髪に長い耳、色白の肌が様になっており、美しいという言葉が似合う。どうやら先ほどの話を聞かれていたらしい。


 「い、いや! その……!」


 「別に気にしていない。……それより」


 何か言いにくいことでもあるのか、しばらくの間ののち


 「……悪かった」


 突然彼女が頭を下げる。心当たりがないので思わず慌ててしまう。


 「あ、謝られるようなことなんかっ!」


 「……疑ってたんだ。人間というものは醜いと教わってきたせいで、ここまで……その……優しいとは思ってなかった」


 「……」


 「街の住民は、人間に対して強い恨みを持っている。だからあのような態度をとってしまったのだ。どうか許してほしい」


 頭を下げたままの彼女。謎の罪悪感から少し気まずくなってしまう。


 「あ、頭を上げてくださいよ……別にそこまで気にしていないので……」


 気にしてないというのはもちろん嘘だが、そんなことここで言ってしまえば、また彼女が謝る羽目になってしまう。何もしてない人に対して謝らせるというのは、少々心苦しいものがあった。


 「そうか、すまない……」


 「だ、だから謝ることなんてありませんよ……!」


 「まあ、どうしてそこまで人間を恨んでいるのかくらいは、聞かせてくれてもいいんじゃないでしょうか?」


 ケイが急に口をはさむ。触れないようにしていたことを軽率に触れたので、思わず注意しそうになるが、彼女はそれを「……分かった」と受け入れ


 「見ての通り、私たちは異様に耳が発達した人種だ。『エルフ』とも呼ぶ。魔法に優れた力を持つ弊害として、耳が細長くなったと言われている。それに目を付けたのが、お前たち人間だった」


 「だから各地から、魔法に長けた街と言われているんですね……」


 ケイが納得し、ローナがそれに頷く。続けて


 「そして、人間は我らを『奴隷』として扱うようになった」 

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