第45話 明かされた能力
「……や」
どれだけの時間が経ったのか。先程と変わらない身体の痛みが分からずともそれを察させる。
「和也……!」
とっくに俺は死んでしまったとも取れるような状況の中、聞き馴染みのある声が聞こえてくる。そのおかげで和也自身も少しずつ意識を取り戻し、今自分は何か柔らかいものの上に頭を置いているということも感じ始める。
枕のようなその心地よさに最初は安心しきっていたが、段々とそれは何であるのか分かり始めて
「――っ!!!」
和也は勢いよくそこから飛び起きた。「わわっ!」と甲高い声が聞こえ、そちらへ振り向くと、そこには驚きながらも微笑んで安心した表情を見せるヒナがいた。
「ヒナ……」
「和也! 目を覚ましたんだね、良かった……」
「俺のことはいいんだけど……それよりどうしてここが?」
「それは……」
ヒナは少し気まずそうな顔で、徐に目線を対象へと向ける。少し離れた場所のそこにはニヤリとした表情のゴウキと、その隣にはコトハがいた。ゴウキは一人の男を抱きかかえており、それはだらんと体を任せきって意識を失っているケイの姿だった。なにやら話をしているようにも思えるが、その内容まではこちらへ聞こえてこなかった。
「コトハさんが私を見つけてくれたんだ。そこで和也さんが倒れた~って言ってくれて……」
なんと、どうやらコトハは俺のことを心配してくれていたらしい。彼女も和也が回復したことに気が付いたのか、こちらに視線を合わせるとそのまますたすたと近づいて来る。
「和也さん、目を覚ましたんですね。いきなり倒れたからびっくりしましたよ。本当に良かった……っ!」
身内に対する愛情にも似たその感情を与えられ、思わず唇を内側に入れて目を逸らしてしまう。こういう時の正しい反応を知らないせいで、少し緊張してしまう。
「その調子では動くのもままならないでしょうから、今私の仲間に和也さんたちの仲間を探してもらっています。今日はもう休んだ方が良いかと」
今この場にいない人といえばあとはローナだけだ。ケイといい和也といい、万全の状態で動くことができない人がいる中で本を探すのは困難を極めるだろう。コトハに言われた通り、今日はもうゆっくり休むことにしよう。
「そうすることにします。ヒナもそれで――」
そう言いながらヒナの方へと顔を向けるが、彼女のその表情は納得からは程遠い、むしろ不満を持っていそうな感じがしていた。
「……なんかおかしいよ」
「ヒナ……?」
「和也を心配してくれたのは嬉しいけど、どうしてあの人は笑ってられるんですか?」
その対象はコトハではなく、ゴウキだった。
「あの顔は助けてあげられて良かった~とか、無事で安心した~とか、そういうのじゃないと思うんです。それよりもっと悪い感情なんじゃない……かな……って」
「……何が言いたいんですか?」
コトハの表情には先程まで和也を心配していた感情はなかった。二人に疑いの目を向けるヒナに対して、どこか怒りを向けているようにも見える。
そしてヒナは
「もしかして、和也とケイを傷つけたのは……コトハさんたちではないですか?」
「ヒナ! いきなり何を……!」
「じゃあ教えてください。どうしてあの人はあんな笑い方なんですか?」
コトハはしばらく口を開かなかった。
そもそも、ヒナは二人のことをよく知らないだろう。和也の方がコトハとゴウキのことを知っている。ゴウキに関しては初対面なはずだ。だから、二人がこちらに対して敵対してないことは俺が一番よく知って――
あれ? だったらなんで俺たちは倒れていた? 今までの行動を振り返っても、どこか記憶が抜け落ちているような、そんな感覚は一切ない。それより、俺が倒れていた理由は――
「あの、なんで黙って……」
「……バレるのも、時間の問題ですもんね」
「コトハさん……?」
和也たちの近くまで来ていたコトハは、再び距離を取ってゴウキの下へと戻る。
それとタイミングよく、もう一人の男が到着する。その男は、女性とともに歩いてきていた。
「……コトハ、見つけたよ」
「ありがとうございますエイヤ。彼女を二人の下へ」
男は渋々その指示に従い、彼女――ローナを連れてこちらへと歩いてくる。
二人にはどこか傷ついているような様子は見られない。先ほど言っていた通り、ただ探してくれていただけのようだ。
彼女は、傷ついた和也の様子を見るとすぐさま
「和也!? 何があったんだ!?」
「うっさ……僕の近くで叫ばないでよ」
エイヤはローナの様子に迷惑そうな顔をしながら、耳を押さえる。そしてそのまま、和也たちとは別の方向へ向かう。
「和也、どうしてそんな……」
「なぜ、か……それは……」
今和也が覚えていることは、ケイの攻撃を受けて倒れたということ。そんなこと、仲間である二人には言えるわけがない。
「ごめんなさい、あんまり覚えて――」
ここははぐらかすのが正解だろう。和也はそう考えて発言しようとしたが、それを遮る形で別の者が口を開く。
「――私たちですよ」
「……え?」
「和也さんが傷ついているのも、あなたの仲間であるケイさんが倒れているのも、全部私たちが原因なんです」
突然のコトハのカミングアウト。自身の記憶とはずれたその言葉に和也は少し混乱していた。
なぜ? だって俺が気絶したのはケイの攻撃を避けなかったから……
いや、だとするとなぜ俺は避けなかった? 何かが書き換えられしまったように、自分の記憶と行動とがちぐはぐになっている。
「和也さん、ごめんなさい。今あなたが思っているのは『彼女が敵であるはずがない』とか、そんな感じだと思います。でも、違うんです。正確には、私が『そう思わせた』と言えばいいでしょうか」
「そう、思わせた……?」
「言ってませんでしたね、私の能力。目と目を合わせた状況で、少しでも意識がこちらに向いた人物を私の虜にする。虜と言っても、普段の生活には何も支障はありませんが、もし私が何かをしてほしいと願った時、虜になった人はそれを断ることができない」
「そんなの……」
――ほとんど洗脳じゃないか
一体いつ能力を使ったのか。そんな疑問を抱いたことを見透かしていたように彼女は続ける。
「フォノストに移動したとき、船内での事覚えてますか?」
フォノストに移動する際は、彼女のおかげでここまで来ることができた。わざわざ仲間それぞれに部屋まで振り分けてもらい、一人一人リラックスした状況で過ごすことが……
……まさか
「実は、こうして部屋に来たのも、和也さんと仲良くしたいと思ったからなんです」
「仲良くって……えっ!?」
あの時、二人で話しているうちにだんだんと距離が近づいていた。
顔と顔が近づいてしまいそうな程のその密接した状況で、それからのことはあまり覚えていなかったが、その時に――
「私の願い、それを叶えるためには和也さんの協力が必要なんです。協力、してくれますか?」
もはや何も言えない和也。しかし、彼女はその言葉を待つことなく――
「
転生者の再始動(リブート) ~ 無能力者だと思っていた俺は、すべてを”先送り”にします~ ねらまヨア @Ao_a_9424
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