第13話 スキルを活かして

 「二人は奥にいるはず」それを確信している二人は、ヒナのスキルを活かして先へ先へと進んでいく。このスキルで移動するのも何回目だろうか。慣れというものは怖いものだな、と、和也はヒナに手を引かれながらそんなことを考えていた。


 幸い魔物の数は少なくなっている。余計なことも考える余裕があるのだ。例えば、なぜいきなりゴブリンたちがこんなに攻めてきたのか。とか。


 「ケイ……さんは、『定期的にゴブリンたちは人間の食べ物を求めて街などを襲うと聞いたことがある』って言ってたけど、それってどうしてなんだろうな」


 ヒナは俺よりもここでの生活が長いであろうから、何か知ってるのではないかと疑問を投げかけてみる。


 「な~んかマスターが言ってたような……う~ん……と……」


 走りながらでも器用にうーんと悩む素振りを見せる彼女。このままでは目の前の期にぶつかってしまう。和也はすぐに「危ない!」と声をかけてすぐに避けさせる。「わぁ!」と彼女は驚いて見せるが、むしろそれで何かを思い出したように


 「そうだ! 前にゴブリンたちに人間の食料を与えてしまった『ばかやろー』がいたんだってさ。一日だけなら問題ないらしいんだけど、それが1週間以上続いじゃったんだって。おかげでゴブリンたちは人間の美味しい食べ物で舌が肥えちゃって、それを奪おう! って思考になっちゃったらしいよ」


 「食べ物をあげたらそれを覚えられて食べようとしにくるって、まるでカラスみたいだな……」


 「ははは、でも攻撃されたことを覚えて仕返しに来る~! とかはないんだよ? そもそもそうなる前に倒しちゃうし、やり返す脳もないらしいし、私よりバカなんだね!」


 魔物と張り合ってる時点で……と口が滑りそうになるが何とか我慢。自分の世渡り力も衰えてないなと内心褒めることにした。


 ある程度進んだところで「……やぁ!」と威勢のいい声が遠くから聞こえる。低く

胸に響くようなこの音はマスターだろう。木も生い茂り始め視界がふさがれつつあるが、もうすぐ合流できると鼓舞して先を急ぐ。


 木々を掻きわけて進んだ先では、巨大なこん棒を振り回すマスターがそこにはいた。大きく武器を振り回すと、周囲の魔物が勢いよく吹き飛ぶ。そこから勢いよく叩きつけられたゴブリンにとどめを刺すようにこん棒を振りかざし、そして叩き潰す。


 グチャッという音が聞こえてきそうなその光景からは光が漏れ出し、武器の下敷きとなった場所からは粒子が宙へと上がっていった。


 剣でコアを狙う正統派な戦闘とは違い、敵の能力、身体などを関係なく、容赦なく潰す。それは戦闘というより「破壊」であった。


 「でやぁっ!!!」


 すごい気迫だ。自分は絶対に相手にしたくないな。そんなことを思ってしまった。

 マスターもこちらに気づいたようで、笑顔で二人を迎え入れる。はて、ケイの姿はそこには見えないようだが……?


 「なんか『確かめたいことがある』とか言ってさらに奥の森に進んでいったな。オークはとっくの前に倒したから安心しとけ」


 「さっすがマスター! いえい!」


 ヒナが手を差し出し、マスターもそれに応じてハイタッチ。二人の仲の良さがうかがえるな、なんて思った。


 オークを倒したことによってゴブリンたちは引き返していった。しかし、街を襲おうとした敵がいなくなっただけであり、ゴブリン自体がいなくなるわけではない。ケイが戻ってくるまでここでお留守番。というわけらしい。「それに」とマスターは続ける。


 「強くなった姿を見てみたかったからな」


 「どういうこと?」


 マスターは和也を指さす。


 「その目。お前さん、何かすっきりしたような顔つきになってるな。なんかあったんじゃねえか?」


 「確かに! 和也なんか嬉しそうだったもんね!」


 嬉しい、と言えば、スキル使えるようになったくらいだが……そんなことでそんなに人は変わるものなのか。と、少し苦笑いしてしまう。


 「自分にはないと思ってたスキルが存在したんです。ようやく役に立てる、そう思ったからかもしれません」


 「がっはっは!! そうかそうか。これでお前さんも立派な転生者ってわけだな!」


 「立派なんてそんな……でも、はい!」


 元気に返事をして見せる。

 ここからが物語が始まる。何もできなかった、冴えない人生を送ってきた男、暁 和也の物語が―――――



 「――――――ッ!!!!!」


 「っ!?」


 「まだいやがったか……」


 その咆哮はゴブリンよりも大きく、迫力のある声。音の先では、オークと思わしき魔物がこちらを見つめていた。仲間を殺されての復讐か、はたまた自分たちの目的を邪魔されての激怒か。


 「ゴブリンほどではないが、オークも大量に存在する。ここに現れるのも時間の問題だっただろうな」


 「だろうなって……っ! めちゃくちゃ危険じゃないですか!」


 「いや、それはない。だってお前が倒すんだからな」


 「……え?」


 マスターの突然の発言に理解が追い付かない。思わず再度確認するが、帰ってくる言葉は「お前が倒す」の一言。


 「えーーーーー!!?」


 「スキルが使えるようになったんだろ? いいじゃねえか」


 「いいわけないじゃないですか! 俺なんてゴブリン倒すだけでも精いっぱいなのに……っ!」


 「出来る出来ないの問題じゃねえ。やるんだ」


 最初は冗談だと思っていたその言葉も、この言葉で本気なんだと確信する。


 「魔王を倒さなきゃいけない人物がオークすら倒せない。情けない話だと思わねえか?」


 「……その挑発には乗りませんよ」


 「がっはっは! そりゃそうだ!」


 「じゃあこうしよう」と、マスターは和也の選択肢をどんどん削り始める。


 「ヒナ、王に今回の件を報告しに行ってもらえるか」


 「了解~!」


 「あっちょっ、ヒナ!!」


 頼みの綱が無くなってしまった。マスターは笑顔で後ろへと下がり、オークと対峙するのは和也一人となってしまった。


 「……やるしかないのかよ」


 和也は鞘から剣を抜き、戦いの姿勢を取る。オークとの距離はじりじりと狭まっていき、その距離わずか数メートル。


 ゴブリンほど簡単に行かないのは分かっている。つまりこれは和也にとっての初ボス戦とも言える。


 「――――来いっ!」


 「――ッ!」


 ゴブリンより体格がでかい分動きが遅くなっている。そんな攻撃をかわすことなど容易いが……


 和也の元居た場所にドンッという鈍い音がする。オークの攻撃によってそこには若干のクレーターができていた。こんな攻撃、まともに食らったらひとたまりもない。


 「さて、と……次は俺の番だなっ!!」


 いざ、反撃を。と、剣を持った状態でオークへと切りかかる。

 そこで和也は、自身の中のアドレナリンがすごいことになっているのか、自分でもびっくりの力が発揮され、先程までは出来なかったような動きも出来るようになっていることに気づく。


 今なら、と。和也は持っている剣を高く振り上げると――――


 「くらえぇっ!!!」


 それをまっすぐに斬り下ろした。

 急所からは外れたその攻撃だが、オークの左腕を切断することに成功した。痛みでうめき声を上げるオーク。今がチャンスなのかもしれない。


 これを逃してなるものか。と、すぐに間合いを詰め、とどめを刺しに向かう、が……


 「――――ッ!!!!」


 ブオンッと、風を切る音がする。近づいて来る和也に、オークは物怖じせずこん棒を振ってみせた。咄嗟に後方に飛びかわしたものの、着地が上手くいかずにそのまま足を崩してしまう。


 「って……っ!」


 「……―――ッ」


 斬られた痛みなどとうに引いた。そう言わんばかりのオークが和也の元へと足を進める。先程は優勢だったその状況も、一度戦況が変わると、自身の力を再認識させるきっかけとなる。


 しかし、和也はこの状況でも逆転の一手を見出していた。

 そう、状況が一緒なのだ。ゴブリンを煽り、あっけなく転倒。目の前にはゴブリンの群れ。簡単には逃げられない状況。


 「――――ッ!」


 受けたらひとたまりもないであろうその打撃。しかし、そんなもの、ここで受けるわけにはいかない。


 今、和也の目的は―――オークを殺すことなのだから。


 「先送りペンディング!!!」


 「―――ッ!?」


 オークの足元が突然泥濘ぬかるみはじめ、その足を飲み込まんとする。あっけなくこん棒は和也とは真逆の方向へと振り下ろされ、その巨体もそのまま仰向けに倒れる。


 和也は剣を杖のように地面に突き刺すと、体を何とか起こし、そして剣を引き抜く。そのままオークの元へと近づくと、胸元に剣先を合わせて


 「――俺の勝ちだ」


 深く突き刺した。


 コアが貫かれたその巨体は、低いうなり声をあげると、そのまま光の粒子となり、空へと還っていった。


 「……見事じゃねえか」


 後方から見守っていたマスターもその強さを認め、パチパチと拍手をしていた。


 「マスター、俺」と言葉を続けようとしたが、その体はとうの前に限界を迎えていた


 「おい! 和也!!」


 あぁ、なんて情けないんだろう。


 その体から力が抜けると、すぐに目の前が真っ暗になった。


 

 

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