第14話 動き始めた物語

 「うぅ、ぅ……」


 ふかふかとした何かに包まれている感覚。果たしてこれで何度目だろうか。

 この次はきっと、目を開けたらヒナが俺の顔を覗き込んで―――


 「目、覚ましたか。ったく……ゴブリンの時と一緒じゃねえか」


 っと、今回はヒナではなくマスターだったようだ。


 「おはよう」と挨拶をするが、窓から見える景色は藍色だった。自分はどれくらい寝てたのか尋ねると


 「前みたいにめちゃくちゃ寝てるってわけじゃねえよ。せいぜい3,4時間程度か?」


 「ちなみに……オーク達って……」


 「お前さんが最後、オークを倒して終わりだ。救ったんだよ、この街を」


 救った。俺が、この街を。

 もちろん和也のみの力というわけではないのは分かっていた。しかし、彼の調子を取り戻すには十分すぎる言葉だった。


 「――――っ!! やったぁ……!!!」


 「さて、その件で王様が呼んでる。一緒に行くぞ」


 ケイとヒナは先に行っているということで、和也も急いで準備をする。急な出来事なので酒場も今日はお休み。入り口の前では荒くれもののような見た目の人物たちが残念そうにしていた。


 「この酒場、人気なんですね」


 「ん?ああ、おかげさまでな」


 嬉しそうにそう答えると、入り口前の荒くれ達をなだめ、城へと向かい始めた。




 門の前では兵士が立っている。兵士はマスターの顔を見るとすぐに用件を理解したのか、王の元へと案内してくれることに。


 「兵士さん、マスターのこと知っているようでしたけど……もしかして有名人なんですか?」


 歩く途中、マスターにこっそりと尋ねてみる。


 「別に、長くこの街にいるから知っている人が多いってだけだ。ドラ……王様とはちょっとした知り合いだがな」


 「す、すげ~……」


 身分は違えど、王様と対等にかかわることができる人物。どういった経緯で知り合いになったのか聞いてみたいところだが……時間がないのでやめておくことにする。


 階段を上がると、そこではすでにヒナとケイが王様と会話していた。ケイの隣には麻袋のようなものがいくつかある。兵士が「それでは私はここで」と一礼をすると、階段を降り元居た場所へ戻っていく。


 「ほら、行くぞ」


 マスターは和也にそう言って前へと進んでいく。二回目ともなるとある程度慣れた素振りで歩くことができた。緊張していないわけではないが。


 「よぉドラルザ。悪いな、遅れて」


 「クロノーグ……この場でそういった無礼は慎むように言ったはずだが?」


 「そんな固いこと言うんじゃねえよ。ほら、連れてきたぞ。今回の”英雄”様だ」


 マスターは和也の背中を叩き、前へ進むように促す。勢いあまって一番前へと進んでしまい、思わず委縮してしまう。


 「再びこうして相対することになるとはな」


 「そ、そうですね……」


 だめだ、怖すぎる。だめだとは分かっていても、どうしても目線が合わせられず、泳いでしまう。


 「聞いたぞ、街へと攻める魔物たちを倒したとか」


 「そ、それはみんなの力があったからで……」


 顔の前でいやいやと手を振り謙遜してみせるが、「そんなことない」と、ケイが口をはさむ。


 「先ほども申し上げましたが、ゴブリン、オークらの寝床にはコングレッセオにて保管していた食料がたくさん見つかりました」


 ケイは麻袋を王の元へ差し出す。近くの兵士が中を開けて確認すると、多くの野菜や干し肉などが確認された。


 「和也が足止めしてくれなければこうして取り返すことも叶わなかったでしょうね」


 ケイが和也にウインクをする。「そんなお膳立て求めてない!」と内心思うが、こんな場所でそんなことは言えるわけもなく、思わず赤面してしまう。


 「ヒナがこちらへ報告に来て、いざ現場に行くとそなたが倒れていたと聞き驚いたが……それは大丈夫なのか?」


 オークとの戦闘後、和也はまた倒れたのだ。マスターいわく「ゴブリンの時と一緒」ということだから、原因はどうせ疲労とかだろう。我ながら情けない。


 「は、ははは……大丈夫です……」


 「ふむ……何はともあれ、見事な活躍、心より感謝する」


 王の言葉で、近くの兵士が和也に対して深く礼をする。


 転生者としてこちらに来たときは、ただの寝間着だし、特別な力も無いし、本当にこの世界でやっていけるのかと思っていた自分が、今こうして王様にお礼を言われてる。自分の力が役に立ったのだということを実感する。だから―――


 「……王様」


 「なんだ」


 「前こうしてあった時は情けないこと言ってしまいましたが……」


 魔王なんて今の自分には到底倒せないだろう。だけどスキルがあったからやっぱり頑張ってみます。なんて、自分でも甘い考えなのは分かっている。だけど


 「今回、私は、些細なことをきっかけに人は頑張れるって分かったんです。なぜ私が神に選ばれたのかは、今でも分かりません。ですが、必ずや魔王を倒し、私は願いを叶えて見せます」


 「……良い顔だ」


 前回の和也とは違う、決意に満ちた顔。それを見て王は微笑み、用意していたとあるものを取りだす。


 「今回の褒賞および、今後の旅の餞別だ。大事に使うといい」


 王様に近くに来るよう命じられ、渡されたのは一つのネックレス。中には宝石のようなものが埋め込まれており、青く澄んだそれは、まるでサファイアのようだった。


 「それは水の魔法石。浮遊する水の元素他の属性と混ざることなく結び付けられた、純粋なる物質だ。それを持っていれば水属性の魔法が使えるようになるだろう。希少な物だ。無くすでないぞ?」


 「そんなすごいものなんで俺に!?」


 思わず返しそうになるが、王様はそれを断る。「それはもうそなたの物」と言いながら


 「今後、何かあれば我のところへ来るといい。必ずや魔王を倒す者の力となることを約束しよう」


 「……はい!」


 和也は受け取ったネックレスをつけると、三人とともにこの場を後にする。「今日はごちそうだ」とマスターが言うと、嬉しそうにヒナは商店街へと向かう。何を作ってもらおうか、なんて考えながら和也とケイもそれについて行く。


 転生して数日たったが、ようやく魔王を倒すための物語が始まるのだ。これから忙しくなるだろう。


 これからの冒険に期待が膨らんでいる彼の胸元では、月夜に照らされた宝石が青く輝いていた。

 

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