第12話 ”先送り”
「和也! そっち行ったよ!!」
「任せろっ!!!」
魔物が和也に飛び掛かる。しかし、それに臆することなく剣を前に突き出し、心臓を貫く。自分から斬りかかることなく、相手が襲い掛かるのを待つこの戦法は、拙いものではあるが少しずつ自分のものとしていた。
「ここを通りたいなら俺を倒してから進みなぁ!!」
一度言ってみたかったセリフ。その言葉に似合う強さを持ってないことに少々恥ずかしさを覚えるも、その煽りはどうやら魔物たちには効果的だったようだ。逆上して和也のもとにたくさんの魔物が襲い掛かってくる。
「ナイス和也!
魔物の集団を一つの風が通り抜ける。その風は鋭利であり、瞬く間に魔物を圧倒し、それは粒子となり消えていく。
踊るように和也の周辺の魔物を一掃した彼女は、くるくるとナイフを回しながら得意げにしている。
「へへん。私、強いでしょ?」
「あ、あぁ……すげぇ……」
恐怖の片鱗が見られない堂々とした戦い方。自身のスキルを活かした素早い戦い方。自分より若いであろう彼女はとても勇ましかった。
「これで終わりじゃないからね。マスターたちが戻ってくるまでは耐えないとなんだから!」
そうだ。まだ戦いは終わってない。悠長に話している時間など魔物たちは与えてくれないのだ。
「やああああ!!!!」
彼女がスキルを活かし敵をなぎ倒す。和也はそこからこぼれた敵を処理する形でサポートすることに。自身の力の関係でそこまで大きい動きはできないものの、こういった形であれば少しでも役に立つと分かってきたのだ。
「はぁ……和也もだいぶ戦うのに慣れてきたんじゃない?」
「ぜぇ……慣れてはいないけど……やらなきゃ……」
ここにはヒナと和也の他、戦えるものがいない。自分たちがやらなければ街が破滅するのだ。いくら和也と言えど、そこまで怠惰な人間では……
「だ、誰かぁ!!! 助けてぇ!!」
「!? どこ!!?」
遠くから助けを求める声が。声のする方向を向くと、そこではゴブリンたちに襲われている馬車が一台。商人と思わしき人物は荷台へと逃げ込みその場をやり過ごそうとしている。このままでは危ないのは明白だろう。
「あ、あれ、助けなきゃ……!」
「私が行く! 和也、いったんここは任せたよ!」
「あっ、ちょっと!」
和也が声をかける間もなくヒナは馬車の方角へと走り始める。ヒナという大きな戦力が一時的に無くなってしまったのだ。明らかに分が悪すぎる。
「し、死なないように頑張るか……」
まともにやり合えば、対集団戦に慣れてない和也がぼこぼこにされて終わりだ。逃げ回ることをメインに、街に近いものを刺す。これでいいだろう。彼女は強いのだ。すぐに商人を助け、こちらへ戻ってくるのだろう。それまでの辛抱だ。
「さぁて、俺の体力が尽きてゲームオーバーか、ヒナが戻ってきてくれてゲームクリアか。大勝負と行こうじゃねぇか!!!」
周辺のヘイトをすべて和也へと向けさせる。能力が無くてもやれるってことを見せてやるんだ。マスター、ケイ、ヒナ。みんながいなくてもどうにかなるって、思い知らせてやるんだ!!
「―――――ッ!!!」
「ま、ま、待って……っ!」
さて、大々的に魔物を煽ったわけだが、現在、大木を背に追い詰められている状況にある。
……こうなってしまった経緯を話そう。10分弱だろうか。それまでは何とか頑張れたのだ。何とかゴブリンたちの間をすり抜け、常に周囲を囲まれないようにする立ち回りを行っていたり、街へと近いゴブリンが複数いたら、斬るというより上から落ちているような無様な剣技であるものの、複数を同時に切る荒業も見せた。
……転んでしまったのだ。足元にあった、ゴブリンが落としたこん棒に気が付かず、そこに足をかけてあっけなく転倒。気が付けば目の前にはゴブリンの群れ。背中には大きな木。まあ逃げられない状況だろう。
「――――ッ!!!!」
明確な殺意。散々逃げ回られては仲間を殺されたのだ。怒るなという方が難しい話だろう。
―――殺される。
転んだ拍子で剣も遠くに飛んでいき、手元にに武器になりそうなものは何一つない。
こんなことならゴブリンに煽るんじゃなかった。なんて考えても、今更遅い。とどのつまり、ゲームオーバーというわけだ。
「――――ッ」
一歩、二歩、三歩。じりじりと幅を詰められる。死へのカウントダウンが進む中、和也は昔のことを思い出していた。
転生前の日本、大学四年生だった和也は学業とバイトの繰り返し。これといった交友関係もなく、行事ごとにはすべてバイトを入れていたこともあり、実家には帰れてない日々が続いていたのだ。
―――くだらないこと思い出しちゃったな。
特に夢があるわけではなかった。―――いや、”あった”というのが正しいだろうか。
小学、中学は将来の夢があった。しかし、所詮、夢は夢のままなのだ。やりたいことに対して、やれることなんてものはなく、将来というものから目を背けてきた。
―――いつからだろうか。周囲の目が痛くなったのは。
両親、同級生から逃げるように地元を離れ進学。一人暮らしをする中でも、たまに連絡が届くことがある。
―――お前はさ、何になりたいんだよ
―――お願いだから、将来について考えてほしいの
連絡が来るたびにうやむやな返答をし、両親を困らせる。罪悪感は少々あるものの、どこか楽観的な思考もあった。「どうにかなる」と。
目の前のことから逃げ続け、嫌なことは先送り。追い詰められてもなお行動するとは限らないその人間性。
まさか、死を目の前にしても一瞬頭によぎってしまうとは。
―――――どうにかなる。和也は頭に降りてきた言葉を口にする。
「……
目の前のことから逃げ続け、嫌なことは先送り。追い詰められてもなお行動するとは限らないその人間性。
しかし、それは、「死」という運命さえも「先送り」にしてしまう強大な力。
「――――ッ!!?」
ミシミシという音が後ろから聞こえる。その原因が分かった和也は、すぐさま大木から離れ、”それ”が倒れるのを待つ。
予想通り大木は倒れ、大多数のゴブリンを巻き込む形となる。
生き延びたのだ。絶対絶望の状況を。
「な、なんでいきなり倒れ……っ!?」
「和也~! 探したよ……って、木倒しちゃったの~!!?」
商人を助けたらしき彼女は和也を探し出しそばへと近寄る。人間の何倍もの大きさがある大木。その傍で唖然としている和也。何も知らない人が見たら異様な光景だろう。
「な、何があったの!?」
「分かんない……いきなり倒れて……」
「いきなりって……でもすごいよ! ゴブリンたくさん倒してるんだもん! ほら!」
彼女は大木を指さす。何かを潰したかのように粒子が滲み出てくる。ゴブリンを倒した証だろう。
そういえば、と、和也はいきなり声が聞こえてきたことを思い出す。
—――時が来たら頭に降りてきます。『言葉』が
突如聞こえた謎の声、それを口にすることで窮地を脱することができた。つまり……
「スキルが……使える……?」
「いきなり独り言なんてどうしたの?」
「俺!スキルが使えるようになったんだよ!!」
自身には無いと思っていたスキルが存在した。うれしさのあまりヒナに抱き着きそうになるが踏みとどまる。危ない危ない。
「わ、わぁ……和也、大胆だね……」
……若干顔を赤らめているのが若干気になるが、それよりもまずは謝罪だろう。
「ご、ごめん……っ!!」
くだらないやり取りをできる環境になる程度には落ち着いている。ヒナの活躍はもちろん、和也のスキルもあり、街に近づくゴブリンはほとんどいなくなっていた。後はマスターたちが片付けてくれていれば良いのだが……
「マスターたち、大丈夫かな……?」
「俺もそう思ってた。様子見に行かないか?」
「だね! もう街の心配はいらないだろうし、後はリーダーさえ倒せば私たちの勝ちだもんね!」
二人の意見は一致し、今回のリーダーと言われているオークがいる奥へと向かうこととなった。
もうスキルが使える、だから戦闘で迷惑をかけることはないはず……そう思いながら。
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