第2章 選ばれし者

知る街「リブラリア」

第30話 知るために

 コングレッセオの酒場にて


 「うわ~!! めっちゃ可愛いんだけど!! 肌も白いし美人さんだよ和也!」


 ペタペタペタ……そんな擬音まで聞こえてきそうなくらいローナを触りまくっている者が一人。


 「さ、さすがに恥ずかしいのだが……」


 ストレートに誉め言葉を言われたのは初めてで、思わず赤面する彼女。そんな表情を見てさらに黄色い声をあげているのはヒナだった。


 「レグレにこんなにかわいい子がいただなんて……! やっぱり私もついて行けばよかったよ~! ……酒場にはむさくるしいおじさんしかいないし」


 「おい! 聞こえてるぞ!」


 現在外は暗くなっており、もう酒場はとっくに開店の時間。接客の傍ら、こうしてヒナと話していたのだが、会話の内容は街での出来事ばかり。よほど羨ましかったのだろう。仕事を頑張っていた報酬……というわけでもないが、あった出来事を詳細に話している。


 その出来事の中にはエルフの過去にも少し触れていたわけだが……そんなことを気にする人物はこの建物の中には誰一人としていなかった。和也たちが気にしていないのは当たり前だが、ここに来る客はみんな過去を気にしない――今を楽しく生きる、いわば大雑把な連中ばかり。また一つ、人間に対する誤解が解けた。彼女はその環境に感謝しながら少しずつ緊張をほぐしていた。まあ、こうしてヒナに弄ばれているわけだが。


 「ヒナ、あんまりエルフを遊んでやるな。困ってるだろうが」


 マスターが飲み物を持ってこちらへやってくる。マスターはエルフの存在についてすでに知っているようだった。そこが拒絶する街と呼ばれていたことについても知っていたらしく、なぜ教えてくれなかったのかを尋ねたら「それを知るのも旅の一つ」と答えた。間違いないけども……


 「わ、私は別に構わないけ……ど……」


 「ん~~!! ローナちゃん大好きだよ~~!!」


 あれ? 少し口調移ってない?


 人間が集まる場所に行ってみたいというものだから夜の酒場に連れて行ったわけだが、これは忘れられない思い出になりそうだな。和也とケイは目を合わせてふふっと笑う。


 「今日は一緒に寝ようね!」


 「い、一緒にか!?」


 どうしようと視線を送られていることに気が付く。が、そんなの俺の知ったことではない。勝手に百合百合しててくれ……


 「もしかして、ローナってチョロいのでは……?」


 「ストレートに思いを伝えられるのが慣れていないんでしょう。チョロインってやつですね」


 ローナはチョロイン。二人の間でそう決まった。


 「マスタ~! 今日はもう閉店にしようよ! 早く部屋に行きたいよ、ね~!」


 「ね、ね~……?」


 ヒナのテンションにとうとう呆れたのか、はぁとため息をつくと


 「分かった分かった……ここからは俺一人でやるからお前たちは部屋に行け」


 「やった~!! 行こっ! ローナ!」


 座っていた彼女の手を引いて階段をのぼりに向かうヒナ。突然の出来事で何が起こったのか分からないまま連れられるローナ。……しっかり寝られるといいのだが。


 さて、今日話したかったのはエルフであるローナの件だけではない。むしろこっちが本題――次の目的地についてだ。







 レグレでの宴を終えた次の日、ラルグと今後の話をしていた。


 「魔王を倒す、か……『転生者』というものはそれほどまでに過酷な命を与えられているのだな」


 「適性があるからこの地に降り、魔王を倒すことを命じられる。どう考えても不自然な話です。ですが魔王を倒せば願いを叶える力が得られる。……やるしかないでしょう」


 「私も……やるって決めたので」


 二人の決意を見たラルグは、少し微笑んだような様子を見せると


 「『リブラリア』という街に図書館がある。そこではこの世界全ての情報が在るという。私に言えるのはここまでだ」


 「健闘を祈る」 ラルグは二人の旅を後押ししてくれたのだった。







 「リブラリアか……確か地図にそんな名前が……」


 マスターは壁に貼ってある地図をはがし、こちらのテーブルへ持ってくるとそれをいっぱいに広げる。コングレッセオに指を置き、そこから西へ指を動かす。森で覆われたような絵の中心にその名は記載されていた。


 「っと、ここだ。『知る街 リブラリア』ここには全てが記載されている……ってのはレグレで聞いたんだったな」


 「はい、魔王の所へ向かう手掛かりが一切ないので、それについて何か知りたいなって感じですね」


 「全てが記されているなら倒し方についても記されている……とまではいかなくても何かしらの弱点についても知れそうですしね。それに魔王のことについてだけじゃなくてもいい。知れる情報は多いに越したことはありません」


 「やる気は十分だな。だがこの街の厄介なところが……」


 ここだ、と街の周りをぐるぐると囲み始める。

 

 「リブラリアの周りにある森――惑わせの森を抜ける必要がある。霧に囲まれたそれは、冒険者の認識を狂わせると言われててな……安全に抜けることは不可能に近いと思った方がいい」


 「不可能……でもまぁ」


 「やるしかない」 二人の声はそろった。ケイも同じ考えだったようで、そこに諦めるという選択肢はなかった。マスターも分かりきっていたような反応を見せると


 「ひとまず今日はもう休め。しっかり寝て、明日に備える。いいな?」


 「はい!」


 和也は頼んでいた飲み物と料理を消化し終えると、マスターにあいさつを終え二階へあがろうとする。が、どうやら先ほどの会話はほかの客にも聞こえていたらしく


 「兄ちゃん! 旅、頑張れよ!」


 応援の言葉をかけてくれた。最初は話しにくいと思っていたが、慣れるとこんなにも心地のいい場所になるだなんて。……誤解が解けたのはどうやらローナだけではなさそうだ。


 「……ありがとうございます! 俺、頑張ります!」


 自身の部屋へ向かうと、ベッドで横になり明日を迎える準備をする。


 惑わせの森……何事もなければいいのだが。


 

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