第7話 世界に馴染むために

 「いやぁ、ばれちゃいましたか。あはははは!」


 頭を掻きながら愛想よく笑う人物―――ケイと名乗る男は自分も転生者であることを明かす。


 「元々は私保育士だったんです。私の読み聞かせはとてもいいって好評だったんですよ。ある時車が目の前に突っ込んできて、そこからは記憶がなく気が付いたらここに……いやぁ、お恥ずかしい」


 柔らかい口調で話し、ニコニコとしている表情。その子供受けしそうな雰囲気はさすが元保育士といったところだろうか。


 「日本のおとぎ話って結構評判良くて、ちょ~っと話し方変えるだけでそれっぽくなるんですよねぇ」


 「何がちょ~っとだよ! 聞いてて損したわ!」


 「そうだよ! どんな素敵な話聞けるんだろう……ってワクワクしたのに!」


 思わぬ地雷を踏んだのか、ケイは大きな声で反論する。


 「おとぎ話を馬鹿にしましたね! いいでしょう、どれだけ素晴らしいお話なのかじっくり語ってあげましょう!」


 「まずはうらしま……」と語りそうになるのを無理やり止める。その話も何度耳にしたことか。

 マスターは残念そうにしているが、聞いたことがあるのならいいだろうとなだめる。それもそうだと4人は食事を再開する。


 「そういえば、昨日聞きそびれたが、王様とはどうだったんだ?」


 思わぬ質問に和也はむせそうになる。水で喉の食べ物を流し込み呼吸を整える。


 「えっと、魔王を倒したら願いが叶うとかなんとか……」


 「あぁ、思い出した。そんな話聞いたことあったな。だけどなぁ……」


 うーんと悩んだようにマスターは顔をしかめる。不可解な点でもあるのだろうか。


 「魔王がいるのって魔王城だろ?どこにあるか聞いたか?」


 「この大陸『イニティオ』のはるか上空、到底見えない場所にあるって話してたような……」


 「そう、それだ。俺らには見えない場所に位置する場所にどうやって行けってんだよ。行く方法は話してたか?」


 王様はただ魔王を倒せと話していたのみ。ヒナに聞いてみても……もちろん覚えているわけもなく、ケイも聞いていないという。マスターはやっぱりか、と頭を抱えてる。


 「この酒場でいろんな奴をサポートしてきてもう何年だろうか……みんな魔王を倒せって言われてるらしいが、魔王城に行く術なんてものは伝えられてない。魔王を倒したなんて話はおろか、魔王城に行く方法を見つけたって話も聞かねえな」


 「行く方法も見つかってないんですか!?」


 「ああ……ったく、一体ドラルザは何を考えているのやら」


 「そんな不可能に近い命を王は与えたと、恐ろしい話ですね……」


 ケイの顔も少し暗くなる。そんな状況でも頭にはてなマークが浮かんでいそうなヒナはもくもくと食事を進めている。わからない話には混ざろうとしない主義なのだろうか。


 「まぁ、魔王を倒せって言われても結局お前らの人生だ。好きに生きたらいいんじゃねぇか?実際、ヒナはこうしてうちで働いてるわけだしな」


 「えへへ、褒めないでよいきなり~」


 「どう解釈したら褒めてるってなるんだこの馬鹿は……」


 「は、ははは……」


 食事を終え、空いた皿等をキッチンへと持っていく。マスターが洗い物を済ませ、再び席に皆が集まると、今後のことについて話し合う


 「さてと、お前さんら、これからどうする予定なんだ?」


 「私はしばらくここにいようかと。ここの酒場の人たちが面白いので」


 「俺は、どうしようかな……」


 今のところ職業「無職」であるのだ。今後の予定などあるわけがない。


 「俺ももうしばらくここで生活するというのは……」


 我ながらクソみたいな提案だが、マスターはその提案を何ともないかの様子で受け止める。転生したばかりで何もできないから仕方ないだろうとのこと。思ったより優しかった。


 「だが、何もしないでここにいるというのもつまんないだろ?一応魔王を倒せと言われてんだ。それに町の外には魔物がうじゃうじゃ。力付けとかないとって思わねえか?」


 「それも、そうですね……」


 魔物と戦わなければいけないのか。和也は少し億劫になる。


 「酒場の開店までは時間あるし、そうと決まれば訓練だ! 昨日約束してた服も用意できてるからな」


 そういってマスターは棚を漁り始め、取り出したのは一着の服。緑色を基調としたデザインにブラウンのズボン。マントまで付いている。


 「大きさはこっちで勝手に選んだんだが……合わなかったら教えてくれ。すぐに取り換えてもらう」


 わかったと伝え、和也は着替えるために二階の部屋へと向かう。

 服にそでを通し、ズボンを穿き替える。マントの結び方なんてわからないのだが……こんな感じのリボン結びでいいだろうか。


 部屋には姿見が置いてある。それで自身を映してみるのだが……


 なんだろう、まるで自分じゃないみたいだった。自身の立ち方も服装に合わせて自然と胸を張ったような姿になる。勇敢さはそこには全くないのだが、なんとなく魔物の一体や二体くらいであれば倒せそうな気がした。

 しかし、マントのせいで思うように動けない……これは外そう。


 着替えた和也は下へと降りる。周りの反応も思ったより良く、ヒナからはおー!と聞こえてきた。もちろん悪い気はしないので、ウキウキしながら階段を下りていたらファッションショーの登場シーンみたいになってしまったのでやめることにした。


 「似合ってんじゃねえか、着心地はどうだ?」


 「いい感じです。大きさもぴったりです」


 それは良かったとマスターが言う。長年こうして転生者を見てきたのだろう。相手を見ただけで体格を把握し、それに見合った服を用意するのはさすがといったところだった。


 「着替えたら次は武器探しだな。どんなやつが使ってみたいんだ?」


 「武器ですか……そうですね……」


 さて、選んだ武器によってはかなり立ち回りが変わってくる。どういったものがらく……こほん、使いやすいのか。

 剣であれば前線に出て敵をバッタバッタと薙ぎ払うことが必要なのだろう。そんなメインアタッカー、和也に向いてるはずなんかない。

 かといって弓などの遠距離職、これらはサポートが主となる。適切なタイミングで支援を行い、前線の人がやられないようにする。常に戦場を俯瞰して分析し、今何が必要なのかを瞬時に判断する。うん、無理だ。


 「さて、俺は部屋で休むことにします。後は皆さんで訓練してください」


 「あ、思考停止だ」


 「考えるのやめちゃいましたね」


 「逃げるのか……」


 「だってどの武器も立ち回り重要過ぎない!!?!?!?」

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