第16話 魔法を使おう
レグレへと向かう途中では多くの魔物に遭遇した。
「
前回と同様、ケイは指で銃の形を作り、そこから緑色の銃弾のようなもので敵を貫く。これがあまりにも強いので、和也は何もすることがなかった。役に立つことがなかった。
「ケイさん、相変わらず強いなぁ……」
その光景に見とれてしまったあまり、思わず声が漏れてしまった。しまったという顔をするが、ケイはそれを笑って「そんなことない」と謙遜し
「私なんて全然、敵が弱かっただけですよ」
ナチュラルに発せられるその言葉。普通であればムカつくだろうに、今そんな感情は一切湧いてこなかった。これが絶対的な実力というものだろうか。しかし……
「でも、ケイさんのスキルってもっと違ったような……?」
確か、
「あぁ――魔法のことですか」
彼は指にはめたきらりと輝くもの――緑色の魔法石を見せながら
「これは風の魔法石。動きやすさを重視して、指輪として身に着けられるようにしてもらったんです」
「風の、魔法石……」
そういえば、ヒナも似たようなものを持っていた気がする。確か、武器にはめていたような。
「魔法石によって魔法が使えるということはもうご存じですよね?」
「はい。……原理はわかんないですけど」
魔法石によって魔法を行使した者をもう一人――シグリアの光魔法も知っている。共通点として、魔法を放つ直前、何か念じていたような気がしたが、そこに秘密があるのだろうか。
和也のその興味ありげな視線に気づいたのか
「……和也も魔法石を持っているじゃないですか。良ければ魔法、教えましょうか?」
「初歩的なものだけですが」と、ケイは恥ずかし笑いをしながら提案する。
初歩的であろうが何だろうが、和也にとっては願ったり叶ったり――ようやく異世界らしい能力を扱うことができるのだ。
「おねがいします!」
その判断に迷いはいらない。すぐさま教えを乞うことにした。
「ん~~~……」
「何か……見えてきませんか?」
魔法を扱うには、まず元素が見える必要があるという。その為のアイテムとして魔法石というものがあり、それを身に着けることで、その属性にちなんだ元素が見えるようになるとのこと。
「むぅ~~~……」
必死に目を瞑り、魔法を扱うイメージをしてみる。しかし見えるのは辺り一面の闇。
「目を瞑ってしまうと見えるものも見えませんよ。心を無にして、目の前をぼーっと見つめてみてください」
「ぼーーーっと……」
地面には先へと続く道。その先は高い山で囲われているように思える。そこが今回の目的地なのだろう。
他にも、獲物を見つけたゴブリンが、こん棒を持って追いかけまわしている様子も見える。魔物たちの世界にも弱肉強食はあるようだ。
後は、何が見えるだろうか。
後は
あとは……
「小さい、青い粒が……」
「それです! 後はそれを吸い込むイメージを持って!」
吸い込むといえば掃除機だろうか。和也は手を前に突き出し、元素がそこに吸い込まれるようなイメージをしてみる。
近くにある水の元素は少しずつ手のほうへ引き寄せられ、そのまま中へと浸透していく。
体の中で何かが混ざり合う感覚。気持ち悪さは全くない。むしろ――心地良い。
混ざり合ったものは自身の力となり体内に循環される。それは、体で収まりきるにはもったいないくらい程の強大なもので。
――これを、放つ!
和也は不思議と浮かんだ言葉を口にする。
「
突き出した手の表面からは、勢いよく水が噴き出した。十メートル程度飛んだそれは、地面に吸収されると再び元素のみが宙へと浮かんでくる。
「――っ! 上出来です!」
パチパチとそれを見ていたケイが拍手をする。
「体内に取り込ませた元素は、魔力と混ざり合い、”流動性”を得る。それが体外に放出されることで、初めて魔法が成立するのです」
「これが、魔法……!」
苦戦することなく扱うことができたそれに、和也は至上の喜びを感じていた。正直――もう少し苦戦するものだと思っていたから。きっと、ケイの教え方もうまかったのだろう。
「ありがとうございます! これで一段と強くなった気がします!」
「ふふ、それは良かったです。とはいえ、私もそれ以上のことは教えられません。これから、一緒に強くなっていきましょう」
「――はいっ!」
魔法の基礎を習得し、二人は再びレグレへと歩き始めた。
その道の途中で魔物に遭遇し、絶好の機会だと言わんばかりに魔法を放ってみることにした。
「
「――――ッ!!」
勢いよく放たれた水は相手を勢いよく押し出す。が、決定打にはならない。反撃でこちらに向かってきたところを剣でとどめを刺すことに。
「ふぅ……だめか……」
「戦闘にもだいぶ慣れましたね、和也」
「戦闘というよりは、魔物に見慣れただけですけどね……はは……」
それよりも、と和也は先ほどの魔法を思い出していた。
「俺の魔法。敵を倒すことができなかったな……」
「うーん、性質上難しいんでしょうね……転生前――世界には『ウォータージェット加工』がありましたが、それくらいに加圧する技術がないと、相手を貫くのは厳しいかと」
「そっか……」
「ですが」とケイは付け加え
「敵が近寄らなくなるというだけでも、妨害技としては完璧な威力です。それに、また新しく習得すればいいだけですしね」
本当にフォローが上手いなこの人は。さすが保育士を務めていただけある。思わずうるっときてしまった。
「ケイさん。俺一生あなたについて行きます」
「? これからもよろしくお願いしますね」
何を言っているのか分からないという感じで受け流されてしまった。
「……と、着きましたね。ここがレグレです」
目の前に広がっていたのは山に囲まれた入り口。そこでは関所のようなものが設けられており、人が二人、そこで見張りをしていた。
「厳重な警備がなされているみたいですね……」
「とりあえず行ってみましょう」
和也の提案で二人はとりあえず関所へ近づいてみることに。
そこではフードを被った二人の大人が槍を持って立っていた。こちらの存在を確認すると、顔をまじまじと見つめられ
「貴様ら、『エルフ』じゃないな。レグレに何の用だ」
「私たちは旅人です。この街に入ることを許可していただきたい」
旅人という言葉を聞くと、二人の態度は一変する。
「旅人だぁ? そんな野郎がこの街なんかに入れると思うなよ……?」
「この街は部外者立ち入り禁止なんだよ! 二度と来るな!」
無理やり追いやるためなのか、二人の足元からは魔法陣のようなものが生まれ、ぶつぶつと何かを唱え始めている。
「これは……魔法ですね。どうやら、彼らの琴線に触れることを言ってしまったようです」
「け、ケイさんはそんな怒られるようなこと言ってなんか……っ!」
このままでは納得がいかない、無理やりにでも話を聞こうとしに行く和也を、ケイは腕で制止する。
「予想ですが、彼らは私たちより強い。ここは大人しくいったん引きましょう」
「だけどっ!」
「私がしっかりと情報収集をしなかったのが原因です。申し訳ない」
「……」
ケイの謝罪に対しては、何も言い返そうという気が起こらなかった。
やるせない気持ちを抱えながら、二人はその場を後にする。初めての旅は、街に入ることなく終わってしまったのだった。
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