第2話 「転生者」と呼ばれ
シグリアとの道すがら、様々な魔物に遭遇した。先ほどのゴブリンはもちろん、大きな木に扮した魔物である「エント」、ゴブリンをそのまま大きく、太らせた姿のような「オーク」、日本でいうところのハチが密集した姿である「グルービー」、金目の物を目当てに襲い掛かってくる盗賊もいた。もちろん手持ちなんてものはない。
それらの相手をすべてしてくれるのは頼もしかった。彼は「光魔法」というものを用いて敵を圧倒する。首にかかっているネックレス、そこに埋め込まれている、黄色に輝く宝石にどうやら秘密があるらしい。
「……というわけで、私はこのネックレスのおかげで魔法が使える、というわけだ。もちろんネックレスだけでは魔法は使えない。体内に流れる魔力も重要なんだ」
「へ~……その宝石高かったんだろうなぁ……」
「ほう……せき……というのはわからないが、これは『魔法石』と呼ばれるもので、空中に浮遊する元素が混じりけなく純粋に結びついたものだ」
どうやらこの世界に宝石は存在しないらしい。しかし、あの透明感と輝き、太陽に照らされて黄金色に反射するその姿は「シトリン」のようであった。
「それ、高く売れたりしないんですかね」
「無論、かなり希少なものだ。魔法石がこの大陸に生成されることは稀であるから、一つ……10万ガルくらいだっただろうか?」
ガル……というのは不明だが、今の口調から本当に貴重なものであることは伝わってきた。
「さて、街まであと数分といったところだろうか。着いたらまずは酒場へ向かうといい。とりあえずは数日生きるための何かしらの案内はしてくれるはずだ」
「まずはって……シグリアさんはいなくなっちゃうんですか?」
「ああ、私にもやることがある。それに、街につくまでという約束だったからな」
忘れていたといえばうそになるが、もう少し付き添ってくれるものだと思っていた。頼りになる人が自分のそばから離れていってしまうのはなんだか心細い。
そんなこんなで門の前までたどり着いた。多くの人が出入りしており、外からでも賑やかであることが伝わってくる。
「それでは、また会うことがあれば、その時は酒でも酌み交わすとしよう」
軽く礼をして彼はそのまま街の奥へと進んでいく。
一人門の前に取り残された和也。ひとまずシグリアの言っていた酒場というものを探すことにした。
「ゲームだったら、看板にビールのマークが書いてあったりしてわかりやすいんだけど、そんな都合よくあったりしないもんな……」
ふらふらと街を探索する和也。果物らしきものを店先に並べ、呼び込みをしている人もいれば、いかにもファンタジーな剣や盾を売っている者、この街の警備であろう、白を基調とした鎧を纏った人ともすれ違った。
中世ヨーロッパを彷彿とさせるような貴族らしき者もいれば、冒険者なんだろうなという革製の服にマントを羽織った者もいる。そんな中で一人グレーのスウェットが上下。アウェーにもほどがあった。もちろん注目を浴びないわけがない。
「あいつ、どこの国だよ……」
「ねぇ……あの服……」
「やめろ、見るんじゃない。貧乏がうつる……」
「そ、そこまで言わなくても……」
そうやって様々な目線が送られる中、勢いよく近づいて来る者が一人。ブロンズ色をなびかせる女性が顔をのぞかせる。
「そこの君! もしかしてもしかして、『転生者』だったりしない!?」
「えっ!? 誰!?」
「だーかーら! 君、日本から来たんでしょ!!」
天真爛漫という言葉が似合いそうな彼女は、和也が異世界転生した者であることを見抜く。どうして分かったのかというよりも、異世界転生という言葉をここて聞くことになるとは思わなかった。
「ど、どうして分かったんだ……?」
「やっぱりー! 服装が明らかに日本人なんだもん!!ダサいし!!」
見事な推測だろうとドヤ顔する彼女。ニコニコしながら言われたダサいの一言で少し傷ついてしまう。
「あーーー待って!! 言わなくても分かるから! 君が探してるのはそう! 酒場だね?」
「そうだけど……まだ何も言ってn「今ならこの私が案内してあげましょう! さあ行きましょう! さあ!!!!」
和也が話し終える前に手を取って走り始める彼女。その動きには迷いがない。というか、速すぎる。周りの人たちの動きがスローになって見える。
「あがががががががが!!」
まるでジェットコースターに乗っているかのようなそれで気分が悪くなる。ええい、もうどうにでもなれ。
「はい着いたよ!! って、大丈夫!?」
「う、う、うぅ……おぇぇ……」
吐き気でお腹がぐるぐるとする。この感覚は高校生の夏休み以来だろうか。久々の嘔吐感で思わず床に倒れこむ。
「ありゃりゃ……もしかして速すぎたかな……」
「もしかしてもクソもあるか! ヒナ!」
「マスター! 見てくださいよ! 新しい転生者です!」
「見てくださいの前にやることがあるだろう! 早く二階のベッドに連れて行かんか!」
「はーい! それじゃあ君、ちょーっと失礼するね~……」
聞こえてくる怒号、そして宙に浮かぶような感覚。
その中でうっすらと目に映ったのは、ビールのマークをした看板だった。そして和也は意識を失った。
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