第3話 転生者との邂逅

 「うぅ、ぅ……」


 ふかふかとした何かに包まれている感覚、自分は寝ているのだろうか。

 うっすらと目を開けると、とある女性が心配そうに自分を覗き込んでいる。目が合ったことに気が付くと、その子は笑顔になり目を覚ましたと走り出す。

 騒がしい子だなと思いながら、和也は再び眠りに……


 「ちょっとー!? せっかく起きたんだから寝ちゃだめだよ!

! ほら起きて起きて!!」


 ……つけることもなく目が覚める。そこには見覚えのある顔が。確か、転生者だということを見抜かれて、酒場に案内するといわれたと思いきやいきなり気分が悪くなって……


 「思い出した! ジェットコースター女!」


 「その覚え方ひどくない!? 私の名前はヒナだよ!ヒ!ナ!」


 怒っているといわんばかりの頬の膨らませよう。


 「こらうるせえぞ! まだ具合悪いかもしんねえだろ!」


 「あ、マスター!」


 「あ、マスターじゃねえだろ! まずは心配が先だ!」


 「そうだった! ねえ君! もう大丈夫!?」


 「あ、あぁ……」


 「大丈夫だって!」


 「んなわけねえだろこの馬鹿!」


 あっけにとられてうまく言葉も出ない。マスターと呼ばれている人物も呆れて頭を抱えている。


 「うちのもんが迷惑かけたな。お前さん、気分は?」


 「あ、お、おかげさまで、とりあえずは」


 「そうか、ならよかった。今簡単に食えそうなもの持ってくるから、ちょっと待ってろ」


 そう言ってマスターは部屋を出ていく。いなくなるのを待ってましたと言わんばかりに彼女は話しかける。


 「ねえねえねえ、君っていうの嫌だから名前教えてよ! 私はヒナ!」


 うん、さっき聞いた。


 「か、和也……」


 「和也か~! よろしくね!和也!」


 「よ、よろしく……」


 「そんな緊張しないでよ~!」


 あははと笑いながら俺の肩をバンバンと叩く。緊張もしてないし、痛いからやめてほしいんだけどな……


 そういえば、と和也は口を開く。


 「外で会ったとき、俺のこと転生者だって言ったけど……」


 「あーそれはね、私も異世界転生したからなんだ!」


 「い、いせ……え!?」


 異世界転生といえば自分だけ転生したり、周りのクラスメイトと一緒に、とか、そういったものだと思い込んでいた。まさか、俺の前に転生していた人物がいたとは。


 「私も元々は日本に住んでてさ、月川 姫奈つきかわ ひなって言うんだ。そのときの名残でヒナって呼んでもらってるんだ! だから和也の服装見たときびっくりしたもん! これ日本の服だーって!」


 「酒場に行きたいってのがわかったのは?」


 「転生してすぐに、『まずは酒場へ行け。そしたら次に進むべき道は大体わかる』って教えてくれた人がいたんだ。そのおかげでこうして酒場で働かせてもらってるんだ~!」


 つまり、同じように悩んでいる人がいたから、酒場に行きたいと考えている。と推測したわけだった。納得した。

 彼女との会話も弾み、区切りの良いタイミングで部屋の扉が開く。マスターが料理を持ってきてくれたらしい。皿に乗っかっているのはサンドイッチのように見える。


 「やった~! サンドイッチだ~!」


 「お前の為じゃねえよ! ここ、置いておくからな」


 「あ、ありがとうございます」


 「食べ終わったら下に降りてこい」と言って、再びマスターはいなくなる。

 サンドイッチだと思っていたものは、本当にサンドイッチだったらしい。いただきますとそれに手を伸ばそうとすると、羨ましそうに見つめてくる者が一人。


 「……」


 よ、よだれが……


 「……た、食べる?」


 「いいの!? ありがとう! いただきまーす!」


 遠慮することもなく我先にと手を伸ばす彼女。面弁の笑みで食べるその姿で、なんだかペットを飼ってる気分になった。自分も食べようと手を伸ばす。


 うん、美味しい。葉物はシャキシャキとしており、トマトのようなものも、肉のようなものもいい感じに調和している。日本にはBLTというものがあるが、それに近い何かを感じた。


 「美味しいでしょこれ、私が提案して作ってもらったやつなんだ! おかげで酒場の定番メニュー! ランチにピッタリ! これが『げんだいちしきちーと』ってやつなんでしょ!?」


 「そんなわけないだろ……」と言いそうになるがそれは我慢する。


しかし、日本での記憶を持って行った結果がこれだというのがなんともかわいらしい。とはいえ、自分に何ができるのかと言われたら何もできない。ただ与えられた人生を享受するのみなのだ。美味しいご飯にありつける幸せをかみしめながら一口、また一口と食べ進める。


 ごちそうさまと、皿を返しに行くために部屋の扉を開ける。ゲームでよく見る宿屋のような設計になっており、廊下を進み階段を下がる。一階にたどり着くと、お昼時を過ぎて閑散としているかのような酒場で、マスターが洗い物をしていた。

 マスターはこちらに気が付くと笑顔で返してくる。


 「ご、ごちそうさまでした。美味しかったです」


 「はっはっは、そうだろ。これはヒナが提案したものなんだよ」


 「それはもうさっき自慢したんだよ! 和也もおいしいおいしいって言いながらむさぼってたんだから!」


 「む、むさぼってなんか……っ!」


 「へー、和也って言うんだな。よろしくな」


 「あ、はい、よろしくお願いします」


 「それはそうとヒナ、『和也も』ってのはどういうことだ……?」


 しまったという顔、元々は和也のためにと作ってくれた料理を口にしたのだ。ごめんなさいと彼女はその場から逃げ出す。ため息をつきながらも追いかけるようなことはせず、会話を続ける。


 「はぁ……まあいい。ヒナから大体のことは聞いてる。お前さん、転生者なんだってな」


 「はい、そうです」


 「この酒場のマスターである俺の仕事は、転生者に対してのサポートだ。簡単にいろいろ説明してやるよ」

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