第4話 いざ、城へ
マスターが洗い物を終えると、二人は客のいない席に腰を掛けて話を続ける。
「ヒナから聞いてると思うが、実はあいつも転生者だ」
「はい、さっき話してました。元々は月川 姫奈という人物だと」
「そこまで話してたか。昔、あいつも同じように酒場へ来たんだよ。あの頃はすごい泣きそうな顔をしててさ……」
先ほどまでの印象で言うと、むしろ涙を知らない天真爛漫! 活発少女! って感じであったから、なんか意外だなと思ってしまう。
「……っと、話がそれたな。そんな感じでほかにも転生者は沢山いるんだ。お前さんの他にもな」
「俺の他にも、ですか」
「色々いるんだぞ? まだまだ青臭いガキだったり、そう思えばご老人が来たり、死んだ目をした男なんかもいたな」
「は、はぁ……」
彼はふと席を立ち、棚から紙を取り出すとペンですらすらと何かを書き始める。
「あの、一ついいですか?」
「ん? なんだ?」
「皆さんこの酒場に来るって、何か理由があるんですか?」
「さっきも言ったが、俺の仕事は転生者をサポートすることだ。王様から命じられてんだよ」
「王様から?」
「ああ、この街『コングレッセオ』の王であるドラルザから命を受けてな」
どうやら今自分がいる場所はコングレッセオという街で、王様がいるということはかなり大きい街なのではないのだろうか。
「まずは転生したばかりで生活もままならない者への衣食住の提供、後は王様に謁見するための紹介状の作成といったところだろうか」
「王様に謁見? 会うんですか?」
「ああ、転生してこの街に来た奴は王様に会う必要があるらしい。詳しくは知らんが……魔王がどうとか」
「ま、魔王!? もしかして倒せとか言われたりするのかな……」
「ヒナも王様に会ってるはずだから話聞いてみたんだが、あいつは忘れたとか言い始めたし……まぁ大事な話ではないんだろう」
魔王という明らかにやばい単語を出しておいて、大事な話ではないというのは少々無理があるのではと思うが、同じように転生した人物が魔王についての話を聞いていると考えると、大事ではないと考えるのも仕方ないのかもしれない。
「王様に会う必要はあるが、原則として身分の証明ができないものは城の中に入ることができない。だから俺がこうして、紹介状という形で一時的に転生者の身分を証明する必要があるんだよ……っと」
話しているうちにマスターの筆が止まる。どうやら書き終えたようだ。
「ほれ、これで紹介状は書けた。後はこれを王様のとこへ持っていくといい」
そう言って紙を折りたたみ、用意していた封筒にそれを入れる。
「ありがとうございます。それと、王様の場所っていうのは……」
「街のど真ん中にでっかい城があっただろ。そこに行けばいい。困ったら街ん中ぐるぐるしておけば入り口にたどり着くさ」
「わかりました。とりあえず行ってみます」
「帰ってくるまでにはお前さんの服を用意しておこう。いつまでもそんな服でうろつくもあれだろうからな」
「ありがとうございます! 助かります。いやマジで」
いつまでも日本らしい服を着ているのも嫌だなと思っていた時にマスターのこの一言。正直とてもありがたい。
「それじゃ、行ってきます」
酒場を後にして、城へと向かう。とはいっても入り口の場所はわからないので、マスターに言われた通り街をぐるぐる回ってみることにしたのだった。
思った通り、改めてこの街を眺めてみると活気づいているのを思い知らされる。横を見れば馬車が移動しており、中には食べ物であろうものが見える。店の店員や客と思わしき人たちの会話も多く聞こえてきて、日本の商店街のようなものを感じた。
「あっ、和也~!!!」
和也の歩く先にはヒナがいた。彼女はこちらの存在に気が付くと大きく手を振る。
「ヒナ……」
「今からどこ行くの?」
「城に行かなきゃいけないらしいから、とりあえず向かってみてるところで……」
「うわ~懐かしいねそれ! 私も最初は城に行けーって言われて行ったんだけど、何話してたか忘れちゃった! あははは!」
……彼女は大丈夫なのだろうか。
「城を探してるなら私が案内してあげるよ! ほら!」
ヒナは和也の手をつかむと、先ほどと同様に走り出―――――
「スト―――――ップ!! ジェットコースター禁止!」
―――すことは絶対にさせない。意地でも止める!
「ええぇ!? 何で!? 楽しいじゃん!」
「楽しくないし速いし気持ち悪い!! 大体何なんだよその化け物みたいな速さ!」
「ジェットコースターじゃないし化け物じゃないもん! これは『
「らぴ……へ?」
知らない言葉が出てきた。彼女の力?転生した際にもらえる能力のようなものだろうか?
「そのらぴ……なんちゃらってなんだ?」
「らぴなんちゃらじゃなくて
「能力はどうやって使えるようになったんだ? ほら、神様からもらったとか……」
「ん~……気が付いたら……?」
気が付いたらということは神様が直々に与えたとかそういうものではないのかもしれない。王様が与えたりするのだろうか?
謎は増えるばかりだが、ひとまず王様の下へは早くいかないといけない気がする。
「よくわかんないけど……その能力で城に早く行けるなら……もう好きにしてくれ……」
「ストップって言ったり早く行けって言ったりわがままさんだね! 仕方ないなぁ」
お姉さんぶってるというのが正しい表現のような口調で、彼女は改めて和也の手をつかむと城へ向かって走り出す。
う、うぅ……やっぱり気持ち悪い……
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