第1話 始まりはいつも不可思議で突然で
「誰かー! 誰かいないのかー!?」
目が覚めると知らない地にいた和也は、辺りを捜索し始める。しかし、人間らしきものはいなく、ほかの生物も存在しない。木で覆われた一本道を進んでいく。
「まるで歩いてくださいの言わんばかりの一本道……変な感じだな」
怪訝な顔をしながらも先へ先へと進む和也。
歩いていく上で、その先に木が少ない、どうやら開けているであろう場所が見える。もしかしたら誰かいるかもしれないと和也は走り出した。
そして目にしたのは、自分が住んでいた日本とは明らかに違う大きな城だった。その周りには家や店のようなものが存在し、馬車や大きな袋を持った人物が出入りしている。
和也はこういった世界を知っていた。というのも、ゲームや本、アニメでの話だが。
「あれって商人だよな……入り口でやり取りしているのは兵士っぽいし……」
その場に立ちながらあれこれ考えているうちに、和也は自分が異世界転生してしまったのだと結論付けた。
夜中に目が覚めて、再び眠りについた際に、何か変な声が聞こえて、目が覚めたら異世界転生……
「そんな変なこと、あり得るわけないだろうがぁぁぁぁ!!!!!」
考えているうちに、色々おかしいことに気が付き大声で叫ぶ。
「なんだよ起きたら異世界でしたーって!普通トラックにひかれたりするもんじゃないのかよ!?それに能力ももらってないし!こんな状況でどうすればいいってんだよー!!!」
まるで漫画のようなツッコミ。自分でも哀れなことは自覚していたが、幸い周りに人はいないので恥じらいはない。
しかし、和也の叫び声に反応するかのように何かが近づいてきた。
その姿は人間とは異なるもので、体は小さく緑色、ハーフパンツのようなものを穿いており頭には角が。敵であることは容易に想像できた。
「――――――ッ!」
「うわぁ!? ……って、なんだこの小さいの」
和也は一瞬驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻し、恐る恐るその体に触れてみる。が、どうやらそれは不快だったらしく、手に持っていた木のこん棒ではねのけられる。
「―――ッ!」
それが放った攻撃は抵抗するにしては威力が高く、あまりの痛さに思わず声が出る。
「ってぇ!! 何すんだよお前!」
「――――ッ」
やり返せるものならやってみなと言わんばかりの煽る動作を取り始める。
頭にこないわけがない、反撃だと和也はやり返す。
「馬鹿にしやがって……! くらえ! 俺の怒りの鉄槌!!!」
和也の放ったその怒りの拳は怪物めがけて飛んでいく―――――!!
ポコッ
「……あれ?」
転生前は喧嘩が得意だったわけでもなければ、何か運動部に所属していたわけでもない。そんな奴の拳など、たかが知れていた。
「ま、まさかと思うが……効いてない……?」
むしろ怒りを買う結果となってしまったのか、その怪物は激しくこん棒を振り回す。
「―――――ッ!!!」
「う、うわぁぁぁぁ!!!!!」
小さいからといって侮っていた、和也は反省しながら逃げ回り、助けを求める。
「だ、だれかぁ!! 助けてぇぇ!!」
情けない声を出しながらも逃げ回るが、ちょっとした拍子に転んでしまう。
もうだめだ。そう思った矢先、一つの声が聞こえる。
「
その声が聞こえてくると、まばゆい光を放った何かが怪物の体を貫く。急所にあたったであろうそれは、小さなうめき声を出しながら地面に倒れ、そのまま細かな粒子となって宙に消えていった。
「大丈夫かい君!! けがは?」
近づいてきたのは男性だった。フードを身にまとい、その中からは金髪が姿を見せる。心配そうに和也の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「ゴブリンはこっちから手を出さなければ基本攻撃してこないはずなんだが……何か変なことしなかっただろうね?」
「い、いやぁ……えっと……」
どうやら先ほどの怪物はゴブリンというらしい。ゴブリンが襲い掛かってきたのは、最初に和也が体に触れたのが原因なのだが……それは言わないことにした。
「い、いきなり襲ってきて……」
「不思議なこともあるものだな。普通はちょっかいをかけなければ襲い掛かってこないから、気を付けるといい」
「肝に銘じておきます……」
「それはそうと、この辺では見ない格好だが……どこの出身だ?」
転生する前、和也は寝ている最中だったこともあり、今の服装は完全に寝間着といったところだった。グレーのスウェットを上下着ているラフな格好。世界観に合わない服装であることは一目瞭然だった。
「えーーーっと……と、遠くの国から……」
「遠くの国……カジーニャとかだろうか……?」
「か、かじ……?」
「とにかくここにいては危険だろう。すぐそこの城下街まで護衛しよう」
「護衛って……いいんですか?」
「私も用があったのでね」と、シグリアはなんてことない様子で快く和也を受け入れる姿勢を見せる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ははは、そう固くなるな。私の名前はシグリア。君は?」
「か、和也っていいます」
「和也か、それでは行くとしよう。立てるか?」
シグリアが手を差し伸べる。その手を取り立ち上がると、二人は近くの街まで歩き出すのだった。
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