第1章 動き始めた物語

転生者の集う街「コングレッセオ」

プロローグ

 「お前はさ、何になりたいんだよ」


 「お願いだから、将来について考えてほしいの」


 「そうやって、また逃げるんだな」


 「っ……! はぁっ!!!!」


 夢、だ。スマホを覗き、現在の時刻を確認した。その暗い画面には眉毛までかかっているくらいの黒髪、何の変哲もない普通の顔、いや――少しやつれているようにも見えるが。


 ……と、こんな自分の顔を確認したかったわけではない。電源ボタンを押し、時刻を確認すると。それは夜中の3時を指していた。

 冷や汗をかきながらも落ち着こうと、暁 和也あかつき かずやは深呼吸をする。

 今見たものは、夢であることには変わりない。しかし、それが実際に言われたことのある言葉だということも事実。大学4年生という年を迎えた和也は、いまだに自分が何をしたいのか決められずに、学業をしながらアルバイトをするという生活を続けていた。


 将来なんてわかるわけない。そう言って和也はいつも目の前のことから逃げ続けて来た。その結果がこの現状である。

 にしても、こんな時間に夢で目を覚ましてしまうなんて。年甲斐もなく騒いでしまった。隣人はどうやらまだ起きていたようで、静かにしろと壁ドンが聞こえてくる。


 「……もういいか」


 この時間にずっと起きていても仕方ない。朝になったらまた考えればいい。和也はテーブルの上にある瓶の中身を飲み干すと、再び眠りにつくことにした。


 目を瞑り、必死に朝日を迎えようとするが、そうしようとすればするほど逆に頭が冴えてしまい、様々な言葉が頭の中に駆け巡る。


 「お前には何もできない」


 「どうせまた逃げる」


 「出来損ないが」


 また、だ。また言葉が聞こえてくる。こうして夢を見るようになったのは果たして何度目だろうか。


 明日も講義とバイトがある。こんな夢ごときで支障をきたすわけにはいかないのだ。と、思った矢先


 「――――い……」


 いつものように頭の中に流れる声に、聞き覚えのない声がある。


 「目――――――い……」


 その声は、だんだんと鮮明になっていく。


 「目覚め――なさい……」


 目ざめろと、その声は告げる。


 「勇者よ、目覚めなさい――――」


 俺が勇者?変なこともあるものだと和也は相手にするのをやめる。きっと変な夢を見過ぎたせいでとうとう思考が変になってしまったのだ。そう思うことにした。だから―――



 「な、なんだよこれ……」


 今までベッドで眠っていたと思われる場所は、ふかふかとした草原に変わっている。

 今まで過ごしてきたであろう場所は木がうっそうと生い茂った森に変わっている。

 今まで見つめてきたであろう天井は、雲一つない青空へと変わっている。


 「どこなんだよここは!!??」


 目が覚めたら自分の知らない世界にいました。なんて話、夢に決まっているはずなのだ。

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