第42話 孤独の力
「おい! どこへ行った!!」
和也はただ一人、辺りを見回しながら叫び続ける。
対象は少年――名前も分からぬその男は、いきなり何かを呟いたかと思うと、急に姿を消した。
すでに逃げた、という場合ももちろん考えたが、その考えはすぐに消えた。姿は見えずとも気配だけはなんとなく感じていたからだ。
そして、その予想は当たることになり
「ぐっ……!!」
背後から受ける強い衝撃。靴の裏程度の面積である何かが、背中を大きく強打する。その勢いで和也は前方に大きく吹き飛ばされ、そのまま地面に大きく引きずることになる。上手く受け身を取ることが出来ず、俯けの状態で、一瞬視界がブラックアウトする。
「……っ!」
倒れるわけにはいかないと自信を鼓舞し、震えるその手を支えに何とか立ち上がろうとしたところを
「……させないっ!」
「っ!?」
その声が聞こえてきたのは和也の前方。それと同時に姿を現した少年は、足を大きく振りかぶると、それを和也の顎下あたりを目掛けて思い切り蹴り上げる。
声にならない音の波が、かすれるように口から漏れる。そして再び吹き飛ばされた和也は、今度は仰向けになるように倒れており
「一体……どこから……」
「……さっきと同じ展開じゃん」
面白くない。そうでも言いたいかのようなため息。
彼は、再び和也に対して絶対的有利な状況を作り出していた。手にはナイフを持ち、いつでもこちらにとどめを刺すことは可能かのようだった。
先ほどのように、能力を使って切り抜けようと思っても、再び少年の力によってこうなることは容易に想像がつく。
「同じ転生者でも、ここまで戦闘能力に差があるなんてね。正直がっかりだよ」
「何を……」
「薄々気づいてたかもしれないけど、僕も君たちと同じような転生者ってこと。そして僕の能力は
特別な力。僕が改変者だということを聞いていての事だろう。彼が本を盗んだとき、隠れて話を聞いていたのだろうか。
「……喋り過ぎたね。とにかく、彼女が目的を果たす上で、君達は邪魔なんだよ……」
武器を握る力が強くなる。今度は外さない。そう言っているかのようで
―――終わった
能力を使う気すらも失せて、負けを確信、死を覚悟した時に、それは聞こえてきた。
「やめなさいエイヤ!!!」
聞いたことのある声。それには弱弱しくも芯のある、少し力強いようなものを感じ……
「こ、コトハ……」
少年から聞こえてくる声、その動揺しているかのような声に、和也は先ほどまでの殺意は消えかけているように感じられた。
うっすらと、少しずつ視界を広げ、現在の状況を確認すると、和也を殺すであっただろうその武器は、腹部のすんでのところでぴたりと止まっていた。
「よ、良かった……和也さん大丈夫ですか!?」
「コトハ、こいつは本を取り返そうと……」
「今すぐそこをどけなさい。彼は私たちの協力者なんですよ」
コトハのその発言に、少年――エイヤと呼ばれていた男は何かを考えたのか、少し不服そうにしながらその体制を崩し始める。
コトハの指示で、和也から離れるように言われた彼は、そのままこの路地裏を後にする。この場に和也に対する敵意が無くなると、コトハはすぐさまこちらへと向かってきて
「和也さん……! 良かった……! 良かった……!」
「そ、そんな大げさな……」
まるでこれが奇跡の再会かのように彼女は和也に対してハグをする。突然の出来事で、わけも分からずどぎまぎしてしまう。
なんかちょっと良いにおいするし……これ以上は良くない気がする……っ!!
「こ、コトハさん! もう大丈夫ですから!!」
さすがに恥ずかしさが勝ってしまったので、ひとまず彼女を引きはがすことに。
「体は大丈夫ですか?」と問われるが、別に刃物で攻撃されているわけでもないし、そういえばいつの間にか痛みも薄れていたことに気が付く。もしかしたら、ハグには自然治癒力も高める効果があるのかもしれない。知らないけど。
「全く……彼――
「ってことは……」
和也は考えていた。コトハとエイヤはこの街で暮らしている。そして魔王を倒すために仲間として協力関係にある。つまり、エイヤがリブラリアから本を盗んだのは――
「――コトハも、エイヤが本を盗んだってことを知ってたんですね?」
「……」
突然、彼女が黙り始める。先程のやり取りを見るに、彼女の方が、エイヤより立場が上なのだろう。コトハの指示ではなかったとしても、本の存在が知らないというわけではなさそうだが……
となると話は早い。彼よりも話が通じそうである彼女を説得し、何とか本を返してもら―――
「――何言ってるんですか? 和也さん。なにもおかしいことは無いと思うんですが……」
「な、何を……」
彼女の雰囲気が変わった。上手く言葉に表せないが、何か含みのある言い方のように思えて
「本はもともと私たちの物なんです。それを無理やり奪おうとしてきたのはあなたたちの方なんですよ?」
「そんなわけ……っ!?」
「今、私があなたと一緒に来た三人を説得しようとしても、話を聞いてくれないことは分かっています。だから、こうして私の話を聞いてくれるあなたに、和也に一緒に奪おうとするのを阻止していただきたいのですが……」
彼女の瞳が、僕に深く突き刺さる。その表情が美しくて、可憐で、どうしても頼みを聞き入れてあげたくて―――
「協力、してくれますか……?」
「……もちろん。コトハの頼みなら何でも聞いてあげますよ」
俺は協力することにした。ヒナ、ケイ、ローナ。三人には悪いが、本を奪おうとしているのはむしろ俺たちの方だったのだ。そんな酷い事をいつまでもしているわけにはいかない。これは他でもない、彼女――コトハのためだ。
「和也さん……! ありがとうございます!」
そして和也とコトハもこの場を後にすることに。
目的は三人を止めること。彼女が魔王を倒す上で、邪魔をする奴は絶対にいてはならないのだ。
確か、三人はそれぞれ分かれて行動をしていたな……早く見つけて行動を阻止しなければ。
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