第26話 絶望にさす光明
「和也ァ! お前が得意なのは敵の分断だ! 水魔法でとにかく敵が密集しないようにしろ! そしたら後は俺が全部終わらしてやるからよォ!!!」
「わ、分かりました!」
荒々しい口調に命令されるがまま、和也はゴブリンたちに対して
そしてこの男……ケイは自身の能力である、
「オラオラオラオラァッ!!!」
なんと、魔法を使う気などさらさらない肉弾戦を用いていた。細身な体から繰り出されるフルスイングは、ゴブリンをそのまま数メートル吹っ飛ばす。魔物のコアはその打撃の衝撃で潰れ、そのまま宙へと還る。
「次はどいつだァ!?」
「け、ケイさんのキャラがどんどん崩れる……」
拳を合わせ、次の獲物は誰だと煽るケイ。向かうところ敵なしといった感じだが、まだボスが残っている。しかしこちらに攻撃してくる気配はない。むしろどんどん魔物に対し命令しているようで
「オァァ……! グォァァァァァ!!!!!」
「―――――ッ!!」
タイラントは、近くのオークを二体。両手にそれぞれ持ち上げると、それをケイめがけて大きく振りかぶり――投げる、投げる。
投げられたそれは、数十メートルは離れていた距離を一瞬で詰める。並の野球選手では出せないその速さ。このままでは――
「くそっ!!
せめて軌道を逸らすことができれば……そう思い魔法を放つものの、明らかに速度が違い過ぎる。両手で持つこん棒は、速度も相まって即死に値する威力だがケイは――
「そんなもので俺を止められると思うなよォ……?」
飛ばされた一つ目を見切って避ける。二つ目は避けずに――
「っっっらぁァァ!!!」
受け止めた!? 飛んできた頭をガシッと掴み、その反動で後ろへ少し引きずられる。そのまま「次はこっちの番だ」と言わんばかりの笑顔で
「投げるってのは……こうやるんだ……よッ!!!」
それを投げ飛ばした。タイラント顔負けのその速度は、瞬く間にタイラントの腹部にクリーンヒットする。
「ゴォァ!?」
その勢いで少しよろめくが。ダメージは受けていないように思える。見た目通り、耐久はかなりのものがあるらしい。
「ちっ……! だったら殴りに行くまでかァ!?」
ケイは自身にそう言い聞かせ、タイラントの下へと走り出した。
「け、ケイさん! 一人じゃ危ないですよ!」
「るせぇ!! すぐに片を付けるからよォ!! その間、自分の身は自分で守ってろ!」
そんな無茶苦茶な……和也の心配も聞き入れずにそのまま向かい続ける。途中襲い掛かる魔物もなんなく払いのける。
「力で俺に敵う奴はいねえんだよォォォ!!!!」
「グオァァァァァッッッ!!!!!!」
圧倒的な身長、体格差。しかしその気迫は両者劣らない。大きく拳を振りかぶるケイ、金棒を高く振り上げるタイラント。互いが互いの間合いに入った時、その一撃を喰らわせた。
「――――――ッ!!!」
その瞬間、それは果たして突風だろうか、両者の気迫が激突し、その勢いは周囲にいたものまでをも巻き込む。思わず直視できなくなり、手で視界を覆い隠す。
……音が止む。決着がついたのだろうか。恐る恐る手をどかすと、その視界には、振り下ろされた金棒を手で受け止めているケイがいた。
「ぐォ……ッ!! そんなもんかァ……ッ!??」
「グオァァァァァ!!!」
――叩き潰す。タイラントはそう言っているようだった。しかし、そうはさせないとケイもなんとか抵抗している。
「ケイさん! 危ないっ!」
「るせぇ!! ……が、ちょっとキツイかァ……?」
だんだんと彼から力が抜け始め、それを好機と捉えたタイラントは振り下ろす金棒により力を入れる。
――このままではケイは死ぬ。和也の頭の中にあるのはただケイを助けるということのみ。手段を選んでいる暇もなく、ただ彼は走り出した。
「――俺が助ける!!」
剣を引き抜き、ケイの下へ走り出す。行かせまいとこちらに襲い掛かる魔物たちを拙い剣術で薙ぎ払う。一人前とまではいかなくても、オークを一人で倒すことができたくらいには強いはずなのだ。こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
「邪魔だぁぁぁ!!!!」
もう少しでケイの下へたどり着く。俺ならきっと助けられる。――
「間に合った!!!」
ケイの元まで残り数メートル。彼の力もそろそろ限界。そんな状況を打破する手立ては一つしかない。和也は精いっぱいの声を出す。
―――ケイを救いたい!!!
「
左手を前にかざし、助けてほしいと言葉を口にする。
が
「げんか……ッ……ィ……!」
「何も……起こらない……!?」
その言葉はどこにも届かず、ただ虚空で儚く流れていた。
「なんで……っ!? なんで!? なんで!!!?」
不幸は連鎖する。ケイの力もとうに限界を迎えており、金棒を抑えていたその腕がぽろりと落ちる。
「ァ……」
「やめろーーーーっ!!!!!!」
――距離は近い! とっさの判断で和也はケイにタックルをする。それが何とか功を奏し、わずか数ミリというところで何とかかわすことに成功した。
しかし、二人は大きく地面に滑る形となり、擦れた傷跡がひりひりと痛む。
「助かったな、感謝するぜ……」
「なんとか……助けられて……良かった……」
「でも……見てみろ……」
倒れこみ、お互い会話する二人。しかし脅威が去ったわけではない。
ケイが見つめる真上には、足元を覗き込むような形でこちらを見るタイラント。それはなんだか笑っているようで
――次は外さない
「グオオォォォォォォ!!!!!」
ああ、死が目の前にあるのに体が動かない。このまま二人で―――――
「やめろっ!!!!!」
その声は高く、とても綺麗で、とても勇ましき者。
それは長く白い髪で、耳が特徴的な、見覚えのある女性。
「なんで……ここに……」
武器も持たず、単身でただこちらに向かってきた彼女。ただ勇気の言葉のみを武装した彼女は、二人に手出しはさせないと一人で立ち向かう。
「グォァ……?」
「ここからはこの私――ローナが相手しよう!!!」
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