最終章 3.彼らに馳せてみた。
「流星群だと!? まさかその流星は……」
「記憶石の可能性が高い、とのことです……。一定の周期ごとに流星群がやってくるらしく、以前降って来た流星の一部が最近、記憶石として発見されたとのことで……。次の流星群は1週間後とのことです……」
クリスの歯切れの悪い言葉を聞いて、私達3人は静まり返った。話していたクリスまでもだんまりだ。誰もそれ以上言葉を紡ごうとはしなかった。きっと皆同じことを察しているに違いない。
「つまり、その流星群に私が願えば、地球に帰れる可能性があるかも、ということだな」
クリスは静かに頷き、教えてくれた。
「記憶石は一定の距離内であれば、造形物の記憶は可能です。討伐ギルドの戦士カードなどがその実例です。ですが、人の想いなど、記憶が可能なのか、それが可能だとしても果たしてどの程度の距離内で保存されるのかなど、まだ研究段階で
「俺も今まで見たことないっす……」
サンダリアンも遠慮がちにそう言うと、モルファーも口を開いた。
「自分も30年生きているが、今まで見た事はないな……。恐らく一生に一度拝めるか拝めないかぐらいの周期ではないだろうか……」
彼らは言葉を選ぶかのように言った。決して喜ばしい顔はしていなかった。クリスを含め、3人はそれ以上は何も口を開くことはなかった。
「そうか。教えてくれてありがとな」
私はそれだけを伝え、意気揚々と玄関へ向かった。
「レイさん、何してるんですか……?」
クリスが尋ねてきたが、その顔はいつもより覇気がない。
「何って、夕飯の買い物だ! 4人用のテーブルも手に入れたことだし、みんなで美味しいご飯、食べるんだろ? ここを出るからな。今のうち、大いに楽しみを作っておかないとな!」
そう言うなり、3人は酷く顔を曇らせた気がしたが、すぐにパッと表情を切り替えた。サンダリアンが「うっす!」と言いながらにこやかに走り寄ってきた。モルファーも「そうだな」と微笑みながら、外出準備を始めた。クリスは少し躊躇していたが、気持ちを切り替えたように「そうですね」と
それから彼らは私に一切何も聞かなかった。それがどういう意味を持つのか、何か意図があるのか、3人がなぜそうしているのかは私には分からない。だが、彼らなりに想うことが色々あるのだろう。
私は道中、隣を歩く3人の顔をそれぞれ覗き見た。
クリスは、もう立派な画家だ。仕事も順調で、今後も彼の表現の中で、紆余曲折あるとは思うが、きっと今の彼なら心配ないだろう。サーザント家との関係も良好で、時々クリスの家へ普段食べることが出来ないような豪華な食材が届いたりしている。彼も家にあれから何度も顔を見せているようだ。サーザント家との確執もなく、もう安心だ。彼は例え一人でもこの表現の世界で画家として今後も活躍することが出来るだろう。
サンダリアンは、最初に出会った頃の猫背の姿から見違えるほどに容姿も変貌し、悲観的な性格からかなり明るくなり、とても前向きになっている。恥をさらすという言葉を知らぬような素直さを持ち合わせ、なんでも挑戦的に挑み、人の意見を真っすぐに聞くたくましい男だ。剣士としての腕も日に日に上げており、身体付きも強度を増している。例え私が近くにいなくても、これからますます心身共に成長を遂げていくだろう。
モルファーは二人に比べてまだ友人歴は浅いが、あの時のクリスの件があり、血みどろの関係にまでなったわけで、かなり打ち解け合っている。今では世界初の術符士として仕事を請け負っており、その珍しさも相まって仕事も以前のように取り戻し始めている。彼は私より10歳程上なこともあり、かなり大人だ。人生経験も多い分、落ち着きもあり、非常にしっかりしている。今後も仕事にうまく立ち回って行くことだろう。それに今の彼には、クリスとサンダリアンという、れっきとした友人達がいるのだ。もちろん私が近くにいなくても今後とも交流を深め、仲良くしていくに違いない。
私は3人それぞれに想いを馳せた。まるで皆へ思い残すことがないか、確かめるかのように。
「レイさん、どうしたんっすか? なんか俺の顔に付いてるっすか?」
サンダリアンが道を歩きながら私の顔を見て、不思議そうに尋ねてきた。他の二人も同時に眉を上げ、私の顔を見つめた。
「いや、なんでもない、気にするな。……せっかく4人集まったんだ! 今日の夕飯はちょっと奮発するか!」
私は努めて明るく言った。3人の顔が自然とほころぶ。
「無駄遣いは禁止ですからね!」
クリスがすぐにむすっとして言った。だが頬は少し緩んでいた。
「特売品を狙ってみるのはどうだろうか」
「いいな、それ!」
私はモルファーの案に快く賛同した。それから4人で談笑をしながら目的の店まで足を弾ませた。そんな自分たちの頭上には真っ赤な夕焼け空が広がっている。今日も一番星が綺麗だ。
流星群の到来、その日がこの空へ1週間後にやってくる。次のチャンスは私が生きているうちには訪れないかもしれない。あの家で過ごす時間はもう決して多くはない。
それまでに出来る限り、たくさんの思い出を作っていきたい、そう強く願った。
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