1章 5.色々事情を聞いてみた。
「レイさん、僕達、そ、その、乳押さえっ、じゃなくて、ブラ……の意味ちゃんと知ってますから!」
クリスからの思わぬ一言。なんだ通じていたのか。
「では、ノーブラの意味も分かるか?」
「わっ、分かりますって!! さっきはレイさんがいきなりとんでもないこと言うから言葉が出なかったというか……。いやっ、そんなことはいいんです! 確かにさっきお詫びにぶ、ブラを捧げたいとは言いましたが……、僕達、お金がないって言いましたよね!? 今すぐにはっ、ぶ、ぶっブっらなんて……」
なぜかブラジャーという言葉がすんなり言えず、赤面しながら子犬の様なウルウルな目で訴えて来る金髪少年。その傍らに『僕達』と一緒にされた、お金がないやつれた青年。さっきから不可思議な顔で私達のやり取りを交互に見つめている。
「もちろん、タダでとは言わない。私も全面的に協力する! その変わり、家に置いてくれ!」
「もう、言ってる事めちゃくちゃじゃないですか……」
呆れ顔になっているクリスは、今にも足から力が抜けて尻もちでもつきそうな勢いだ。
「いや、だって私家ないし、仕事もないし。それに何か目的があったほうが仕事にも精が出るだろ?」
「ええ~」
クリスが明らかに怪訝な顔を向けてきた。
「贅沢は言わない。それに加えて君が絵でご飯を食べていけるように全面協力するぞ!」
「まさかっ、私の裸体を描いて金にしろ、とかじゃ……」
「なわけないだろ! そんなやさぐれた顔をするな! さすがの私でもまだ乙女な裸体を君にさらけ出すことは出来ん!」
「まだっ……!? って、そんなこと平気で言わないでくださいよ! だいたい僕の協力するってどうするっていうんですか!?」
顔を赤らめながら反撃してくる金髪天使。私は何か変な事を言っただろうか。
「まだ具体的には分からない。だが何かしら君への協力はする」
すると隣でずっと私達の会話を聞いていたサンダリアンが口を開いた。
「……その、レイさんのぶ、ブラ買うためにだったら俺達の仕事手伝ってくれるんすか……? 俺、この状況なんとかしたいんす! せっかく憧れの剣士になれたのに、このまま終わらせたくないっす……。
遠回しに私を
「ああ、実際私はこの世界へ突然やって来て、一文無しで家もなく困り果てている。どうにかここで暮らせる土台は作っていきたい。ブラだってはやく欲しいしな!」
「うっす!!」
どうやらサンダリアンは協力的なようだ。
「クリス、君はどうなんだ?」
「ぼ、僕は……」
クリスは狼狽え、青い瞳を泳がせている。だが、彼の目的ははっきりとあるはずだ。
「画家で生計を立てたいんだろう?」
「わ、分かりましたよ! 僕もやります、協力します! 僕だってこのまま画家の夢諦めたくないし……。狭いけど、家もどうにか暮らせるようにします。レイさんのブ……も、買うために」
ぷいっとそっぽを向き、なげやりに答えてきた。どうやらこの少年は相当なウブらしい。まだ16歳だしな。お年頃というやつか。
「よし、これで一応決まりだな!!」
3人それぞれ顔を見合わせ、力強くコクリと頷いた。なぜか非常にとても重大な決心をしたようだった。いや私のブラ取得は重大な案件だ。
森を抜けている間にこの国のことを色々聞いた。キリミア王国という国らしい。王族が統治しているようで、王が実権を握る王制政治が行われているとのことだった。現在の地球ではほぼ見ない統治方法である。その首都となる場所がこの地らしく、イハルーンと言うとのことだった。どうやら気候は年中一定らしく過ごしやすい気候らしい。そして驚いたことにこの世界には魔術が存在するのだとか。と言っても使える者は、その素質を持って生まれた者だけみたいだ。術符という魔術攻撃の道具ならあるとの事だが、身体への負荷や反動が激しく、使用する者は少ないらしい。そのようなこともあり、魔術は自然エネルギーを取り込むことが出来、それを行使出来る限られた者達だけの特権らしい。その者達は戦士として仕事をやっている者も多く、ランキングだと魔術士部類に入るらしい。他にも様々な部類の戦士がいるらしく、弓使いランキング、斧使いランキングなど、多岐に渡るとのことだった。そんな世界の中、彼らのそれぞれの悩みも聞いた。
まずは麗しい金髪青眼のクリスについてだ。まだ青年とはかけ離れた幼さの残るその顔が、またくすんだかと思うと、自分は由緒ある貴族『サーザント家』の跡継ぎだとぼそりぼそりと続けた。だが画家になる夢を捨てきれず、その家から飛び出すような形で15歳の時、家を出てこの有様だとか。どうやら本来貴族に当たるクリスのような家の者は、城に仕える仕事に就くのが全うらしい。だけどクリスは拒否をし、食えるか食えぬか分からないような画家への道、そう、己への道へ突き進んだわけだ。
「すごいじゃないか!」
「え、ほんと、ですか……?」
「ああ、なかなか出来ることじゃないぞ」
「そうですか、そんなこと言われたの初めてです……、ありがとうございます……」
若干照れているのか、歩きつつ顔を下に向け、背けた。私自身も彼と同じ道に進もうとした過去があることを、敢えて言わなかった。彼が今、歩んでいる道は私には出来なかった事だ。言ったところで辛い現実を見せるだけだ。
巷から見ると、私のこの21歳という年齢でその道を諦めるにはまだ早いとも思う。だが、何かがしっくり来ないのだ。それが何かなのかは未だに分からない。
次に、猫背な無精ひげ男、ネイチル・サンダリアンについてだ。話を聞くと、彼も幼い頃からの夢を叶え、剣士の職業に在りつけたとのことだった。なんでも15歳の時に命からがら5歳の少年を魔物から救ったことが、彼が剣士への道に進むきっかけだったらしい。その時の経験から軟弱だった体質を改善しながら、ここまでやってきたとのことだった。
だが、肝心な仕事になかなか在りつけず、食べていくのも必死な有様らしい。仕事の請け負いシステムを尋ねると、討伐ギルドという場所から仕事をもらい、先程のように魔物を退治するのが主に剣士の仕事のようだ。ただ、その請け負いシステムというのが彼にとっての難関らしい。その理由は、最終的に討伐者の決定が行えるのはその仕事の依頼者だから、とのことだった。
例えば一つの討伐依頼が誰かから発生し、その案件が討伐ギルドへ発注される。そして討伐ギルドは締め切り日を設け、その討伐内容や報酬額を公表し、請負者を広く募る。締め切り日までに集まった請け負い希望者を討伐ギルドが依頼主に知らせ、その依頼者が請負希望者のランキングや戦闘方法などを吟味しながら討伐者を最終決定する、という仕組みだそうだ。
「なるほどな……。それってもしかして依頼主が最終決定をする際に、参考資料的なものがあるということか?」
「はい、あるっす。討伐ギルドに事前に登録している戦士カードです。そこには現在の戦士総合ランキングや俺だと剣士ランキングの2種類が載せられていて、今までの討伐経歴やどこ出身とか、それぞれ書きたいアピールポイントも載せられるようになっていて、見た目も載ってるっす」
「見た目も載ってるのか?」
「え、はい、そうっすけど……。みんなそれぞれ顔写真を載せてるっす。一応そこは必須項目になってるっす」
要するに履歴書の写真のようなものか。
「なるほどな……。良かったらサンダリアンの戦士カードを一度見せてくれないか?」
「いいっすよ、あとで討伐ギルドへ連れて行くっすね」
私はピンときた。彼に仕事がなかなか舞い降りて来ないのはその戦士カードに理由があるのかもしれないと。
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